その叛逆は輝いて
私達がなにをしたのだろう。
この世に姉弟として生まれ落ち、才能が分けられただけ。
そこに私達の意思などあるはずがなく。
親殺しの報いなのだろうか、
だとするなら納得するはずがない。
滅びへ向かう子供二人へ手を差し伸べず、罪にだけ罰を与える神など
許せるはずがない。
「使徒様は満足してくださるでしょうか」
魔法陣を見つめ司教が呟く。
結界を貼った時点で既にコーレルからは目を離している。
満身創痍であり既に大人が卒倒する倍以上の魔法を当てている。
更にこの結界は特別強固だ。
恐れはあるものの既に脅威ではない。
そんなことよりも今は儀式が終わった後に思いを馳せる。
「一体どのようなお姿をしているのでしょうか......お美しい姿なのでしょうが、本当に光栄な_____!?」
だがそんな妄想は終わりを告げる。
ガンッ、と突如として結界に衝撃が奔る。
そこに目を向けると、
「バカな......! ありえない! なぜ立っている!! なぜ未だ魔法を撃てる!!」
結界に向け至近距離から炎を照射し続けるコーレルの姿。
見るからな満身創痍でボロボロ、だが依然その眼だけは変わらない。
司教に再び恐怖が奔る。
だがそれを無理やり抑え落ち着こうとする。
「いや...いや問題ない、私にはこの結界がある。破られることはない......冷静に儀式を...!」
と、そこで気づく。
「...? 結界の揺れが大きく......威力が...上がっている......?」
理解ができない何かが起きている。
魔法の威力が、照射される炎の出力が上がっていく。
「なぜ! なぜです!! ずっとありえないことが起きる!! なんなのですあなたは!!」
「ハアアァァァァ!!」
雄叫びを上げその出力を上げていくコーレル。
自分自身何が起きているか分かっていない。
分かろうともしていない。
策などない。
ただ強く想った、守るために敵を焼き尽くす、そんなイメージを。
イメージが鮮烈に、苛烈なものになっていく。
「もっと強く...! もっと一点にィ...!」
火力が上がり、炎の射出がまとまり線のようになっていく。
炎が一層の輝きを放つ。
「良いよ...やっぱり良い...!」
九尾はその光景に魅入っていた。
自らにない、きっと訪れないであろうその可能性に。
「綺麗な...激情......!」
それははるか昔、九尾の前に立った人間達がしばしば起こしたもの、強烈な感情による限界突破。
人間の魔力の出力には身体能力同様、リミッターがかかっている。
身体能力と比べても比較的大きなリミッターが。
更にそれを外すことはずっと難しい。
強烈な、思考を埋め尽くす程の激情であってもそれだけでは足りない、むしろ魔力制御が乱れやすくなる。
イメージ、魔法とは魔力操作とイメージだ。
憎悪でも敵意でも、そのはち切れんばかりの感情を鮮烈なイメージに変換する。
雷魔法なら相手が撃ち抜かれ不格好に踊る様を、
風魔法なら全身を断つ風に相手が苦痛に苦しむ様を、
炎魔法なら怨嗟の業火に焼かれ体の水分が蒸発する相手の様を。
その上で更に精密な魔力操作ができて初めて限界を超える。
気が長くなってしまうほど生き、感情の起伏がある程度抑えられてしまう長命者には、九尾には起きえないであろう現象。
「良いなぁ......」
自分が持ち得ないからだろうか、九尾にはそれが、淵の一幕が美しく、輝いて見えていた。
「アアアァァ...!!」
上がる、上がる。
火力が上がり炎の射出はもはや糸のような細さになっていく。
そしてそんなものを受ける結界にも異変が起こる。
ピシッ ピキキッ
「結界が...!」
炎を受けている部分が音を立てて亀裂を刻む。
あの強固で城壁をも連想させる結界が、受けきれていない。
「ありえない...! これは...あのお方の魔道具ですよ...!!」
キキキ...! パキッ!
だがその信頼を踏み躙るかのように確実に亀裂が広がっていく。
「早く儀式を...贄を捧げなければ......!」
結界が破られる前に本懐を果たさなければならない。
魔法陣を操作し、吸い取るスピードを上げた。
それが最後の引き金となる。
「やあぁぁメぇェロオォォォ......!!」
コーレルの感情が更に高まった、魔力操作は依然精密。
さらに出力を上げその細さはついには一本の線となる。
そしてついに_____
「 "メルトレイ" !!」
バリンッ、と赤く発光する直線が結界を貫く。
そしてそのまま止まることなく、触れるもの全て融解する絶死の光線は司教の胸へと、
「がァァァァァッッ!!」
プスッと針を刺したような音を出し司教の右肺を貫いた。
魔法陣が消え、司教が膝をつく。
そのまま背中を突き抜け後ろの壁へ到達する。
燃え上がるでも、爆発するでもなくそれは壁の中へ消えていった。
司教の胸同様、ポツンと小さな穴を開けて。
「がはッ! かヒュッ...!」
司教の口から血が溢れ出す。
空いた穴から空気が、血が漏れ出る。
だがそんなこと司教にとってはどうでもいい、そんなものが霞むほどの禁忌を侵してしまったのだから。
「儀式がァ...中断さレルなど...お許しを...お許しを......!」
息も絶え絶えに、茫然自失となる司教。
吐き出る血もおかまいなしにうわごとのようになにかを呟いている。
あの様子では長くはないだろう。
「ハァッ...ハァ......ディノンは......」
子供達の方に目を向けるコーレル。
魔力が吸われ少なくなってはいるが、息はしているようだ。
「良かっ...た......」
ひとまず安堵するコーレル。
だが問題は完全に解決したという訳ではない。
「.....どうしよう」
まず子供達だ。
運ぶにしてもここは森の中の洞窟、更に自分は満身創痍、今にも気を失ってしまいそうなところをなんとか耐えている。
助けを呼ぶことすら危険だろう。
それに助けを呼ぶとなると司教と子供達が残ることになる。
司教は死にかけではあるが、まだ死んでいない。
「あいつと一緒の空間に放置は_____ 」
そう思い司教に目を向け、言葉が詰まる。
先程まで口から血を流しながら上を向きブツブツ呟いていた司教は_____貫かれていた。
司教の真下にできた魔法陣から伸びる触手のような何かに。
「魔力を...吸ってる...? _____ッまさか!」
司教が言っていた使徒、途中で中断された儀式という名の魔力の搾取。
足りない魔力を、司教で補っているのではないか?
するとあの触手は、
そうコーレルが思い至ると同時に司教の身体が触手と共に魔法陣の中に消えた。
すると魔法陣が大きくなり輝きを増す。
「_____ッ!」
そしてそれが魔法陣から這い上がろうとする。
無数の触手が、巨大な異形が顕現しようとする。
全身が現れていない今でさえも、その一部から漏れ出る魔力が彼我の戦力差を示している。
勝ち目などあるはずがない。
だが、
「ふぅ...まだギリギリ動く」
満身創痍の身体を無理やり動かし、子供達の前に立つ。
自棄になったわけでも心中するつもりでもない。
未だその目には強い意思が宿っている。
司教には理解できなかったその理由。
「弟の前だもの、最後までやらなきゃね」
それは最初からあまりに単純で、強く。
全力で身体を立たせ僅かな魔力を纏う。
覚悟はとうに決まっている。
相手はまだ完全に顕現してはいない、無謀と知る戦いの開幕を撃とうとしたその時_____
「流石に死んじゃうよ、交代交代、よく頑張ったね、愛弟子」
声が聞こえた。
それはどこか気が抜けててやわらかく、聞き入ってしまう声。
ここ最近は毎日聞いている、安心感のある声。
恩人であり師匠。
九尾が舞台に上がった。
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