精霊二人と狐

 あれから場は落ち着き、冷静に話し合う事となった。


 「とりあえず、私達はあの湖を使わせてもらってよろしいのでしょうか?」

 「いいよー。さっきも言ったけど元々許可するつもりだったんだ」


 改めて言質をとれたことでエルは一息つく。


 「あと笑わせてもらったお礼だ、君たち僕の庇護下にも置いて欲しいんだろう?それも許可しちゃう♪」

 「くっ......感謝いたします...」


 リュスは苦虫を潰したような顔だ。


 「あは、いいよ敬語使わなくても、そっちのがスムーズに進みそう」


 それを聞き、リュスは即座に態度を変える。


 「あら、そう?じゃあ遠慮なくそうさせてもらうわ」


 「リュー......」

 「はは、素直でいい娘じゃないか、それに、僕は君にも言ったんだよ?いつまでも敬語は寂しいからね」


 「いえそれは......いや...わかったわ、敬語はやめるわ」


 「お?意外に素直」


 「そっちの方があなたは本当に嬉しそうだからね、少しでも機嫌を取れるなら悪くはないわ」


 「強かだねぇ......と、そうだ、こっちからも聞きたいことがあるんだけど...」


 その言葉に二人は身を固くする。


 「いやいや、そんな身構えなくてもいいんだ、君たち......そういえばお互い名前もまだ言ってなかったね」


 その言葉に二人はハッとしたように気づく。


 「...確かに、あなたの名前も何も知らないわ......」


 「...なんというか、それどころじゃ無かったものね、忘れていたわ」


 「まぁ、こっちは会話を聞いていたから、二人の呼び名は知ってるんだけど...せっかくだし、二人の種族とフルネーム教えてよ!」


 姉は即座に切り替え、話し始める。


 「そうね、では私から、...私の名前はエルラメル、種族は水精霊よ」


 自己紹介を終えると同時に妹を目線で促す。


 その合図に、まだ少し機嫌の悪いリュスが答える。


 「ふん、私の名前はリュスルミノス、種族は同じ水精霊よ!」


 二人の自己紹介に九尾は満足してニコニコしている。


 「(水精霊というのは初めて聞いたけど、まぁこの世界特有の種族なんだろう。)...うん、十分に理解した、次は僕だね」


 一呼吸置き、話し始める。


 「僕の名前は、...そうだなぁ......うん、九尾と呼ぶといい」


 「キュービ?」

 「うん、イントネーションが少し違うけど...まぁ、どうでもいい、種族は......なんだろ...妖怪?」


 「妖怪?...エル姉聞いたことある?」


 「...いえ、ないわね......」


 「(この世界には妖怪はいないのか......いや二人が知らないだけの可能性もあるか...)...実は僕も自分の種族はこれだ!ってものは自覚してないんだよね、妖怪ってのも人間達が言い出したことだし、まぁ気にしなくていいよ!」


 「...こっちとしてはだいぶ気になるのだけれど、まぁ、いいわ。それで、聞きたいことがあるのでしょう?」


 「うん、何個かちょっとね......」


 そして九尾は自分が気になっていることを一通り聞いていく。


 「まず、君たちの言う神性ってなんだい?」


 その言葉に二人は変なものを見るような目を向ける。


 「なんだもなにも...」


 「...あんた、隠そうともせず垂れ流しにしてるじゃない、それのことでしょ?」


 「それがねぇ、僕には自覚がないんだよ。神性とやらも初めて聞いたし...」


 その言葉に精霊二人は驚く。


 「嘘でしょ...本当に分かってないの...?」


 「...ええ、そうみたい......いいわ、私が説明するわ」



 そうして九尾はエルから一通りの説明を受けた。


 「なるほど、 その神々しいオーラ的なやつが僕から出てると」


 「ええ、だいぶ大雑把な、解釈だけどそんかところよ」


 「ふぅん...確かに思い返して見れば違和感を感じた時はあったような......」


 「自分の身体からこんなもの出てたら普通気付くでしょ、なんで分からなかったのよ」


 「...うん、ちょっと待ってね」


 そう言うと九尾は自分の身体を少し本腰を入れ解析し出す。


 「(...これじゃないな...これでもない......そうなると...)......これかな?」


 九尾がそう呟いた瞬間から、九尾の神性は急激に鳴りを潜めた。


 「...神性って制御簡単なの?」


 「......分からないわ、触れたことないもの」


 二人は神性が収まったことに疑問を浮かべる。


 「自覚すれば簡単なんじゃない?魔力と同じだよ、それより聞きたいことはまだあるんだ」


 そして九尾は本題を切り出す。


 「まぁ分かってると思うけど僕がここに来たのはごく最近なんだ、それもすごく遠くから、理由に関しては言っても言わなくても変わらないから省くね、そんなことだからここの地理とか種族とか基本的なこと分かんなくてさ、教えて欲しいんだね」


 「...なんか全体的にふんわりしてるわね......」


 「まぁいいじゃない、私たちが聞いてもきっと仕方ないことよ」


 そういうとエルは九尾に向かって話し始めた。



ーーお話し中ーー


 「...と、まぁこんなところかしらね」

 「うんうん!十分だよ!」


 この世に永くいる精霊なだけあって、詳しい話を聞くことができた。


 大雑把に解釈するとこの世界にはいくつかの国がある_____と言っても簡単に数えられるくらいだが、あるようだ。


 タンダート王国、セビロイ帝国、レプタンセール魔法国、商業国家ネガマイト、フェシゲイラ神国の5カ国、これに加えエルフの国や吸血鬼の国などあるらしい。


 「(元いた世界よりは圧倒的に数が少ないけど、僕が求める未知は溢れているだろう、魔法国とかエルフ国とか、名前聞いただけでもワクワクするしね♪)」


 聞いたことのない単語に九尾はワクワクが止まらないらしい。


 「まぁエルフ国や吸血鬼の国に関しては聞いただけで存在するかわからないのよね...」


 それを聞き妹が追従する。


 「しょうがないでしょ、ただでさえ幻扱いされてるし、私達自体湖からあまりうごかないんだもん」


 その言葉で九尾の中に新しい疑問が湧く。


 「そう言えば君たちはなんで森に来たの?盗み聞きしてたから人間がなんかしたってことは分かってるけど...」


 そんな問いにリュスは怒りを再燃させる。


 「あぁ...そうね...思い出したら腹たってきたわ...!そう、追い出されたの、あのクソ共のせいでね!」


 そう言うと、美貌に見合わないほどの悪態をつきながら話し始めた。




 精霊姉妹は元々帝国領の森にある湖に暮らしていた。

 水質も良く、自然も多いため満足した暮らしを送っていた。


 だがある日、水質が段々悪くなっていることに気づいた。

 どうやら上流から汚水が流れ込んでいたようだ。


 始めの方は浄化することで問題なかったが段々と汚水の量が増えていった。


 そこで姉妹は原因を見に行くことにした。

 上流の方まで見に行くと簡単に見つかった。


 何やら小さな工場のようなものが建てられている。

 その大きさに見合わないような設備を持ち合わせていることが見て取れた。

 そこから出てくる人間も確認できたが、統一感のある服を着ており、明らかに組織ぐるみ。


 そこで姉妹は迷う。


 二人は精霊だ。

 精霊というものは人間とは比べ物にならないくらいのスペックを誇る。

 故に原因が小さなものだったらそのまま二人で対処しようとしていた。


 二人は高位の存在らしく人間が格下だと認識していたが同時に、悪辣な発明や強力な個の存在など、その危険性も把握していた。

 しかも相手は確かな技術をもつらしい組織ぐるみの人間。

 下手をすれば実験材料になりかねない。


 接触は危険だと判断した。


 二人は仕方なく移住を強いられる。

 二人にとって移住とは命懸けだ。


 というのもこの森の水源はほとんどが繋がっている。

 故にまず他の森へ長距離の移動をしなければいけない。


 ここが問題だ。

 精霊というものは基本強力だが、その由来する場所にいなければ消耗するというデリケートな存在でもあった。

 力をつければその枷も外れるのだが、そこまでいくのにはまだまだ永い年月が必要だ。


 だが他に選択肢などない。

 そこから命懸けの移動が始まった。

 できるだけ力の消耗を抑えるため、極限まで会敵を避ける。

 普段そんなことはしないため、精神の摩耗は大きい。

 結果森は抜けられたが、予想以上に時間がかかってしまった。


 近くに危険度は高いが別の森がある。

 本来避けるつもりだったが時間がかかってしまったことにより力の消耗が激しい。


 そしてそんな所を狙われた。

 二人が森に入ろうか悩んでいる時、突然リュス目掛けて魔法が飛んできた。

 間一髪でエルが庇ったが、エルは怪我を負ってしまう。


 弾かれたように眼を向けるとそこには人間の集団があった。

 無論、本来そのくらいなら蹴散らすことなど容易いが、今の状態だと命懸けになってしまう。


 そのため二人はあえて危険度の高い森へ身を隠すように逃げ込んだ。


 と、いうのが事の顛末であった。



 「なるほどね、確かに人を恨むのも分かることだね」

 「でしょ⁉︎あんな奴ら今度会った時には_____」


 肯定されたことにより勢いづいたリュス、その勢いのまま言葉を続けようとしたが。


 「でも、その上で君は人間全てがそうである訳ではないと理解しているのだろう?とてもやさしい子じゃないか」


 花に向けるような、子供に向けるような慈愛の笑顔を浮かべ、九尾が言う。


 「っ_____!..........ありがと...」

 

 突然の賞賛に面食らって恥じらうリュス。


 「ふふふ...」


 そんな妹の態度にも、妹が優しい子だと評されたことにも面白さとうれしさを感じ、微笑むエル。

 そんな二人の様子をみて九尾は一層気に入った。


 「うん、やっぱり良い姉妹だね」


 二人の守護という名目が九尾の中で明確になった。

 



 

 

 

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