邂逅
時は少し遡り_____。
九尾は湖に飛ばした形代を介し、目的の者達を見つけた。
「お、いたいた。うーん......さっきの奴よりは人間に近いけど、人間には見えないなぁ。さっきのは人間にしては下等すぎたけど、こっちは逆に上品すぎるって感じ」
実際精霊2人の外見は人外の美貌であり、その服装も衣のようなものを纏っているのみであり、到底人間には見えない。
人間ではないので当たり前だが。
「ん、なんか話してるな。ちょいと聞かせてもらおか」
そう言い九尾は当たり前のように術式を創り変える。
すると2人の会話が聞こえてくる。
「ふむ、2人は姉妹か。姉の方が怪我を負っていると。湖に入るだけで治るの?...神性?なんだろ?...彼女達以外の魔力は感じないけど......」
彼女達の会話を聞いた九尾に様々な疑問が生まれる。
実は九尾、自らが纏う神性には気づいていないというか分かっていない。
九尾の神性と言うのは存在の格が神に近づいたことで妖力とは別に纏うようになったものである。
突然存在の格が上がりついたものではなく、じわじわと数千年かけて少しずつ纏ったものであるため、今の今まで気づいていない。
多少違和感を持つことがあったが、「なんか出てる?いや気のせいだね!」で済ませていた。
規模の大きいアハ体験のようなものである。
最初九尾が感じた違和感、植物の変化や周りに生物がいないという状況はその神性が引き起こしたものだ。
故に九尾はその違和感に答えを持ち合わせなかった。
そんな事実を知らないまま、九尾は観察を続ける。
すると姉妹の妹の方が突然怒り出した。
「おぉ、すごいキレてるね。ふんふん、人間に居場所を奪われてここへ来たってことか。姉の怪我も人間のせいって言ってたな、奪われた時についたのかな?...と、姉の方が宥めたね。こう見ると妹の方が感情的で活発、姉の方が冷静沈着でブレーキ役ってところかな。凹凸でいい姉妹だねぇ」
会話を聞き、九尾は大雑把な性格判断を下した。彼女達に深い二面性などは無く、大体合っている。
すると話題が変えられ、今後の行動についての話になった。
「ふんふん、姉の方は頭が回るようだね。それでもってやっぱりこの神性って話からするに僕関係あるよね?だけど妖力は垂れ流しになんてしてないしなぁ...」
九尾は疑問を持ちながらも、笑みを隠しきれない。
「ふふ♪なんにしても久々のお客さんになるのかな?ホントにいつぶりだろう、ここに誰かが来てくれるのは♪」
九尾はこれからのことに思いを馳せると、疑問なんて吹き飛ぶほど愉快な気持ちになった。
ーー精霊sideーー
「エル姉まだ〜?」
「...もう少しよ、だから緊張感を持ちなさい」
「だって〜、本来5分で着く距離よ?もう20分以上経ってるし、こんなに慎重じゃなくてもいいんじゃない?それに私達も本調子に近いし」
その言葉にエルが呆れたようにリュスを見る。
「...そういえばリューはここの獣を見たことが無かったわね。...いい?本来ここの獣は本調子の私達でも気をつけなければならないほどの奴が何体かいるのよ」
エルはリュスの目を見ながら続ける。
「それに私もここの獣を全て知っているわけではないわ。この神性に怯えず、私達の探知に引っかからない者がいない保証はない、分かった?」
そんな姉の主張にリュスはなにも言えない。
「...分かりましたー.....」
リュスはバツが悪そうに目を逸らし、エルが全くといった様子で進行を再開する。
そんな様子で着実に歩を進めていき、ついにそこに辿り着く。
そして二人の目的地がその目に入り、絶句した。
「________っ」
「...これ...は......」
まず目に入るのは大きな鳥居。
ただ赤いだけの、四角を模っただけの、それなのに呑まれそうになる。
ここをくぐったら果たして己達は帰れるのだろうか、そんな問いを抱く、正に現世と別世界を分つゲートのよう。
そしてそんなゲートの先の別世界に本殿は存在していた。
冷静に見れば古く、朽ちかけのように見える、しかし、そんなイメージは後から来るノイズのようなもの。
否、ノイズにすらなり得ない。
その朽ちた様相すら絶対的な存在感を生み出す一つの要素。
本来森などにあるべきものではないのだろう。
異物、周りから浮くハズの存在だ。
しかし、そんなものは関係ない、お前らが合わせろと言わんばかりの絶対。
周りの森という環境がそれを讃えるためのアクセサリーとなっている。
そして極め付けはこの神性。
そこに神は存在していない、ただの建物だと分かっていても膝を屈しそうになる。
それ程の量の神性、本殿の様子ともあいまり、二人にはそこが神の居住区、神界のイメージが強烈に焼き付く。
「......すごい...わね...」
「...ええ...すごいわ......」
頭のリソースを視覚に持っていかれ、そんな陳腐な感想しか出てこない。
そして二人は数分ほど、たっぷりと時間を使い、その現実を処理していく。
そして現状を進めようと、リュスが口を開いた。
「...色々納得したわ、どうする?エル姉」
とりあえずどうアプローチしようか姉に確認する。
「......」
が、何故か返事が返ってこない。
未だ放心しているのだろうか?
あの冷静な姉が?
そんな疑問を抱きつつも姉を確認しようと目を向けた、向けてしまった。
姉は確かにこちらに目を向けていた、いや、顔は向いていたというべきか、
「ねぇ、エルねぇ_____」
リュスの言葉は続かなかった、続けなかった。
自らの認識に映るハズだった姉の美貌が_____無かった。
文字通り、あるべきハズの目や鼻、口が全て無くなっていた。
肌色の卵、そう評するしかない能面が確かにこちらを向いていた。
「__________っ!?_____ァァアンギャアアアァァァ!!」
リュスは弾かれたようにそれを視界から外し、その美貌からはとても思えないような絶叫を出した。
「(なんで!?どうして!?あれはなに_____『リュー!大丈夫!?』...え?」
もう一度姉の顔を見やればそこにはいつもの美貌があった。
「...どういう_____『あははははは!!』
追い討ちをかけるように突如、リュスの混乱した思考を中断させる声が響いた。
「今度はなに!?」
姉妹揃って声のした方を見る。
「「__________。」」
その者は先程まで誰もいなかったハズの鳥居の上に腰掛けていた。
とてつもない神性を漂わせる、人の形をした何か。
見下ろされているのに不快感がない、それが自然なのだと納得してしまう。
その者を目にした時、二人は理解した。
"あれ"が今回の原因、神性の大元だと。
「いやぁ、久々のお客さんてことで期待してたんだけど、100点だよ!リアクションのマニュアルにしたいくらい!!」
そう言い、九尾はフワッと二人の元へ降りてくる。
二人は最大限の警戒をしながら、それを待つ。
「よしっと、それで?二人は目的があってここに来たんだろう?言ってごらんよ。」
その言葉を聞き、冷静な姉は、混乱することなく交渉に思考をシフトした。
「...はい、その前にまず、感謝を」
エルは妹の頭も押し、深く礼をする。
「...僕はまだ何もしてないよ?」
「はい、"手を出さずにいてくれたこと"に対する感謝です。これまでは予測でしたが、貴方様を見て確信しました、数日前から近くの湖に私達が居ることは知っておられたのでしょう。」
「...別にあの湖は僕のじゃないんだけど...」
「いつでも手を出せる状況でそれをしなかった、そこに感謝しているのです。......その上で懇願をするのは無礼だと承知しているのですが、一つ、願いがあります。」
「...うん、どんな願いだい?」
エルは一呼吸おき、本題を告げる。
「どうか、あの湖にあのまま住まわせてもらえないでしょうか、それ以上は望みませんので、どうか」
再びエルは頭を下げようとする。
しかしその頭が10°も傾かない内に____。
「うん、いいよー。」
「「えっ?」」
そんな拍子抜けな答えに二人とも乱される。
「そっちのお姉さんが言う通り、二人のことは分かってたし、なんならここに来る目的も分かってたからねー。元々okしようとしてたんだ。それにー」
九尾がリュスの方を見て口角を上げる。
「なっなによ......なんですか...」
リュスが慣れない言葉使いを直しながら問う。
「くくっ...いやぁさっきの悲鳴がさ、僕の見てきた中でも最っ高に面白くてさ」
「なっ......」
リュスはさっきはパニックで分からなかったが思い返してみるととんでもなく滑稽な悲鳴をあげていたことを思い出し、屈辱的な思いが湧き上がってくる。
「くっ...」
「リュー、我慢なさい。」
「でもっ、だって...」
「数日前さ、僕に襲いかかってきた醜い緑色の獣がいたんだけどさ...そいつらの鳴き声と......君の...悲鳴が...そっくりで.........あはははははは!!」
「ハァーー!?エル姉!!やっぱコイツむかつく!!」
「リュー!!」
「あははははははは!!」
その後、九尾が満足し、エルがリュスを宥め、場が落ち着くまでそこそこ時間がかかった。
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