森から森へ
周囲を囲む光が収まり、その風景が姿を表す。
そしてその一変したであろう景色を見渡し_____
「...森々してらぁ......」
森だった。
「いやまぁ、神社も巻き込まれたんだ。いきなり街中だったり水中だったりするよりずっとマシ、むしろ変に衆目を集めるより見つかりにくい森は当たりだね♪」
九尾は上機嫌だった。
「(さっきの現象は空間に作用する大規模な自然災害のようなもの、それこそ"世界"を跨ぐほどの...。起きた事象としては神社を含む周辺の土地ごとの空間移動、とはいえ移動先はランダムだ、起きた場所から少し隣に移動するだけの可能性もあった。だけど...)......同じような森かと思ったけど、あんな木や植物は見た事がない、加えて空気中に漂う魔力濃度が段違い、地球でないことは明らか、これだけでも値千金だね♪それと...」
九尾は茂みに目をやる。
そのまま見続ける、すると数秒後、茂みからそれらは姿を現した。
「ゲギャギャ、ギャギャ!」
「グギャグギャ‼︎」
汚い緑色をした肌、腰には申し訳程度の布を巻き、手にはそこらで拾ったような棍棒や、おそらく投擲用の石をもっている、人外が数十体ほど。
分かる人が見ればそれが"ゴブリン"と呼ばれるものであると即座に認識するだろう。
しかし、
「......もしかしてこの汚らしいやつが地球で言うところの人類にあたるもの...?」
多少人間の文化に触れたことはあるがほとんどイタズラに時間を費やしていた九尾は無論、知ることはなかった。
「(全体的に汚く、清潔にする習慣も、服を着る文化もないと見える...。さっきの鳴き声...?的にも言語能力はそこまでなく、知能も低いだろう。地球の人類はそこそこの賢さがあるから手玉にとると楽しいんだけど...。というかさっきから囲むように位置取りし出したけど、もしかして襲う気でいる?気取られない程の妖力制限はしてないよ?......ここまでだとタダの愚鈍で醜い獣だ...。それともそれほど戦闘に自信が...?)」
そう九尾が考えている中、全てのゴブリンは位置取りを終えた。
顔にはこの陣形に対する自信が映る。
そしてそれぞれが機を伺うように身構え......
「ギャッ!」
ゴブリンの一体が短く声を発し、それを合図に一切の迷い、怯えも無く5体同時に飛びかかった。
「......」
実際のところゴブリン達は普通見れば分かるであろう九尾の妖力には全く気づいておらず、獲物を見つけた喜びでいっぱいであった。
それも仕方のないこと、ゴブリンの知能は底辺と呼んでも過言でない程だ。
獲物を見つけ、喰らう、ただそれだけの為にゴブリンの脳は存在していた。
そしてこの集団も例に漏れず、底辺である。
このただ囲んで叩くという戦法も最近見つけ、大喜びしていたくらいだ。
そしてなまじそれがこれまでうまくいっていた為、愚かしくも増長していた。
しかし実際、奇襲し複数で囲むと言う行為は単純で理にかなっている。
囲むことに成功してしまえば、その対象は全方位への警戒という枷を背負わされる、そこに複数で叩けば、隙くらいはいくらでも生まれる、それは剣に少し覚えのある者、多少武を嗜んでいる程度の者でも同じだろう。
ゴブリンを狩り慣れている者、魔法をそれなりに使える者でも、すでに囲まれていれば一触で瓦解する可能性は充分にある。
だが、例外もいる。
剣聖なら刹那で首が飛び、ドラゴンなら一息で灰燼と化す。
だが普通そんな状況はありえない。
前者なら囲まれるなどの痴態は犯さず、後者はゴブリンなどそもそも見向きもしないだろう。
本来ならそこにいることを想定しない"例外"。
そして数奇なことに、ここにその"例外"が一体。
5体のゴブリンが九尾目掛けて迫る。
対して九尾は一歩どころか目線すら動かない。
それを見てゴブリンは勝利を確信する、やはりこの作戦は良い、今回も上手くいったな、そんな思いと共に、
ゴブリン達は_________発火した。
「__________ッ!」
「ギッ......」
断末魔は一瞬。
ゴブリンの体を覆う程度の焔、その見た目とは裏腹に理不尽なほどの火力は、その醜悪な姿を踊らせ、等しく灰に変えた。
その灰を九尾は侮蔑の視線で射抜く。
「......警戒も、身を魔力で防護することもせず襲いかかってくるから、その肉体に特別なナニカがあるのかと思ったら、そうでもない...。ホントにただの獣だったな...」
風に運ばれる灰を見ながら九尾は考える。
「仮にあれが人類だとしたらとんでもない"ハズレ"だな......だけど、冷静に考えればこの魔力の濃い環境やさっきの草木からして地球とはかけ離れた生態、体の構造を持つ獣の可能性が高いかな?さっきの戦闘からしても底辺だろうね」
九尾のしたことといえば、己の妖力をゴブリンを含む空気中の魔力に浸透、支配し、直接その体を燃やすというもの。
的確に魔力を支配し、5体それぞれの体に火をつけたことはそれなりに高等技術ではあるが、やられた側は、体の表面、薄皮一枚の範囲でも九尾がやったように魔力を支配出来ていれば防げる代物である。
体内の魔力、妖力が大きいものであれば、垂れ流しにするだけでも防げるだろう。
「(最も世が乱れた時期には獣でさえ本能的に身につけていたものだけど...)......案外この世界は平和だったりするのかな?」
九尾の言う乱世というのは陰陽師達の全盛期のことだ。
原因不明の魔力濃度の上昇に伴い、妖、怪異達が急速に力をつけた、それを追うように陰陽師達の質も上がり、両者の衝突が最も盛んな時期だった。
誰もが常在戦場を強いられる時代、そんな時代と比べられては平和と言わざる得ないだろう。
「とまぁ、変な邪魔が入ったけど、この世界の人類の事だの生き物の生態だの知るためにも、取り敢えず周辺の観察、調査から行こうか♪」
そう言うと九尾の元から再び10枚ほどの形代が空へ舞い上がり、散開した。
「いやぁ、やっぱり退屈に未知というものは最高のスパイスだねぇ、それに僕史上最大級の未知!面白いもの、あるといいなぁ............ンフフ♪...フッ......フフフフ♪」
そうして九尾は小一時間ほどニヤニヤしながら形代越しに当たりを見渡した。
すると、形代を飛ばしてからすぐに、生息する野生動物らしき者達がチラホラ見受けられた。
「ふむ、やっぱり姿形は元の世界と比べて似ても似つかないようだね。魔力濃度が高い分、攻撃的で強靭な身体を持っているみたい」
九尾の見る先には4本の強靭な腕を持った熊のような生物、牙と呼ぶにはあまりに長く、いっそ不便ではないかと思ってしまう虎のような生物などがいた。
「植物も大きいね、栄養価も高いのかな?いやぁ、新鮮な気分だ。......お、湖だ、近いし結構広いね、あとで行こ。いいねぇ、あとはこのまま集落とか、村とかあったら最高なんだけどぉ......」
九尾は森を俯瞰しながら考える。
「(このまま探し続けるのも楽しそうだけど...)...手頃な植物とかも調べたいし、一旦勝手に記録させて後で情報受け取ろう」
そう言い、九尾は形代に刻んだ術式を書き換える。
「さてさて、僕の探究心は最高潮だが、急くことは好きじゃない。ゆっくり味わおう」
そう言い九尾は手頃な植物を物色し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます