5

 とある音楽家の銀幕を待つ束の間、ガラス扉の入口付近に居た君に、勇気を出して話しかけた。

 

 「太野さん好きなんですね」


 共通点は音楽家。それだけ。次どう繋げよう…なんて言えばいい?そう考えてるうち結局年齢を聞いてしまう。意外にも若くて驚いた。結構な歳の差だったので、早々に夢破れた感が襲ってきた。それでも君は優しかった、こんな僕と連絡先を交換してくれた。ありがとう。心からそう感じた。そのあと、同じ映画を観て、別れを交わさず別れた。なんだか不明なふわっと柔らかい空気に包まれた不思議な感覚に陥って、見てもいないのに、駅に向かう君の姿が頭をよぎった。僕にとって今日は特別に特別な日になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る