第2節『再会』
卵を使えと呼びかけるその声は、床面に刻まれる『転移:Magic Transport』の術式とともに聖堂に響いてきた。先生と少女たち、異形とマークスらとの間に大きな魔法陣を描き出し、眩い魔法光を解き放ちながら懐かしい人物の姿がそこに形作られた。頭上に光り輝く天使の輪を浮かべ、その背に美しい翼を携えたそれは、手にした光の剣で迫りくる異形を薙ぎ払うと、彼我の間に大きく距離をあける。突然の思いがけない介入に、両陣営とも驚きを隠せないでいた。静かに聖堂の入り口の方を振り返って、それが言葉を紡ぐ。
「みんな、久しぶりね。元気だった?」
先生たちはみな揃って目を丸くしていた。
「あいつは!」
「生きていらしたのですね。」
「でも、あの姿は。いったい…?」
驚きの言葉を次々に発する3人。少女たちもまた唖然としているようだ。
「話はあとよ。まずはこいつらを何とかしましょう!」
そう言うと、声の主は手にした光の剣を目前の脅威に向けて構えなおした。
「おやおや、アカデミーを逃げ出した『裏口の魔法使い』までご登場とは、恐れ入る。君には私の作品をずいぶんと駄目にされたからね。スカッチェ通りでの借りを返させてもらおう。」
そう言ってマークスは不敵な笑みを浮かべる。それをかばうようにして、堕天使が臨戦態勢をとった。聖堂内で対峙する天使と堕天使。
「正義の救世主にでもなったつもりかね?いつまでも調子に乗られては困る。どうせ君たちの弱点は分かっているんだ。やれ!!」
マークスがそう命じると、堕天使は両手から複数の光の輪を発出した。その輪は瞬く間に数を増やして少女たちめがけて飛んでいき、その身体を縛り上げて、聖堂の壁に宙づりにした!シーファ、リアン、カレンの3人は、複雑に絡みつく光の輪に締め付けられて、空中で苦悶の表情を浮かべている。
「マークス!」
天使が声をあげるが、彼は余裕の姿勢を崩さない。
「さぁ、この子たちの命が惜しければ、無駄な抵抗はすぐにやめるんだ。私もいい加減、君たちと遊ぶのには飽きているんだよ。茶番はここらで終わりにしようじゃないか!」
堕天使は両手に魔力をたぎらせ、指示があればいつでも少女たちをその毒牙に賭けられるという様相で構えをなしている。その場に鋭い緊張が走った。
「さぁ、どうするのだ?はやくその物騒なものを下ろして投降しないか!ああ、それから、そいつらから取り出したものを返してもらおう?あれはもともと我々のもだからな。どうした?早くしろ。さもないと子どもたちがバラバラになるぞ?」
なおも迫りくるマークス。
「ふざけるな!子どもたちを離しやがれ!!」
そう息巻くウィザーに、天使が言った。
「無駄よ。この男はそれくらいのことは平気でやるわ。子どもたちを助けるためにも、卵を使うのよ!早く!」
ウィザードたちは、互いに顔を見合わせている。
「使えっつったって、どうすりゃあ…。」
激しく困惑するウィザード。
「先生…。」
その頭上で、苦痛に耐えながらシーファが語り掛けた。
「これを…。」
そう言うと、彼女は縛り上げられた不自由な体をかいくって、先日自分の身体から取り出された卵をローブのポケットから取り出し、それをウィザードによこした。リアンとカレンも、同様にしてどうにか卵を取り出すと、それぞれソーサラーとネクロマンサーに手渡していく。
「術式は卵に刻まれているわ!」
「馬鹿なことはよせ。それを使えば人間に戻れなくなるぞ、そいつのようにな!」
3人の先生たちは、手にした卵を前に
「ぐずぐずするな!卵を渡して投降するなら、子どもらと一緒に、その命だけは助けてやろう。さあ、早くよこすんだ!」
声を荒げ、決断を迫るマークス。
先生たちは、天使とマークスを交互に見やっていた。
「この男が約束を守ると思うの!」
そい言って天使は語り掛ける。
「人間に戻れないのは本当よ。でも、あの子たちを助けるにはそれしかないわ!」
いよいよ分からなくなる先生たち。どうすればいい?子どもたちの安全を最優先すべきなのは間違いない。そもそも犠牲者をなくすためにここまでやってきたのだ。こんな意味の分からない卵を渡すだけで済むのなら、むしろそれでよいのではないか?マークスが欲しているのはこの卵であって、子どもたちの命ではないはず。でも…。様々な考えが矢継ぎ早に頭を駆け巡った。
「悩んでいる場合じゃないでしょ!早く!」
声を大きくする天使。
そう言うその声の主はどんなひととなりだったか?3人は懸命にそれを思い出していた。彼女は、あけすけで自由気ままに振舞う、一見して身勝手な人柄だったが、その勇気と正義感はいつでも本物だった。己の信念に反することをせず、大切な秘密はいつでも固く守った。ネクロマンサーの脳裏には、『アッキーナの瞳』をめぐる経緯が浮かんでいる。
あの時、私たちはとんでもない間違いを犯してしまった。自分たちだけではもう解決しようのない状況に陥っていたとき、同級生というだけのよしみで手を貸してくれたのは誰だったか?そう、彼女だ。彼女がいたからこそ、リズを守り、ハンナを助けることができたのではないか。ウィザードとソーサラーも当時に思いを馳せていく。
どちらかの言葉を受け入れなければならないのならば、信じるべきはどちらか?考えれば、それは迷うべきことでもなかった。答えは最初から分かっているではないか!
「あたしは、あんたを信じるぜ!」
最初に意を決したのはウィザードだ。卵を眺めまわして術式を探す。あった!見つけるや否や、迷うことなくその術式を詠唱する。
『火と光を司る者よ。我は汝といま契約せん。我は神秘の継承者なり。汝が意志を継ぎ、その力をなさしめよ。星天の見守りの中で永遠の誓いをなさん。星々の盟約:Astral Dogma!』
「やめろ!卵を無駄にするな!」
マークスの声をかき消すようにして、ウィザードの身体は大きな魔法陣に取り囲まれ、
「すげぇ。これがあたしかよ。信じらんねぇ。本当に天使になっちまったぜ。」
そう言って手にした真紅のフランヴェルジュを振るうと、頭上につるされたシーファの戒めを解いた、その身を解放してやった。尻もちをつきながら、シーファが羨望の眼差しでウィザードのその新しい姿を見つめている。
刹那、もうふたつの大きな魔法陣がそこに展開されて、周囲を光に満たした。ソーサラーとネクロマンサーの二人も、ウィザードと共に意を決したようである!やがて光の中から新しいその姿を現した。
美しい氷の剣を携えて姿を現したソーサラーは、瞬く間にリアンを解放してその小さな体を抱きとめ、床におろしてやった。
「もう怖くないわ。いい、じっとしてるのよ。」
こくこくと頷くリアン。ソーサラーは向きを変えて、異形とマークスを見据える。
ネクロマンサーも光の中からその場に姿を現した。彼女もまた、カレンをその邪悪な戒めから解放し、マークスたちと対峙の構えをとる。
「貴様ら、またしても!」
口惜しそう
「どうやらこれで形勢逆転ね!」
ウォーロックがそう言った。
* * *
異形の堕天使は両手から再び稲妻をほとばしらせる。『招雷:Lightning Volts』の術式だ。聖堂内にけたたましい轟音が鳴り響き、幾筋もの雷がほとばしり出た。しかし、ソーサラーは強大な防御障壁を繰り出して、その全てを見事に受け流して見せた。
『死霊の血よ、叢雲をなせ。我が敵に注ぎて、その生命を蝕まん!死血の雨:Deadly Blood Rain!』
ネクロマンサーは聞いたことのない術式を行使した。あたりが俄かに暗くなり、そこから血色の雨が異形に向かって降り注いでいく。
その雨に触れた箇所が呪わしい煙を上げて焼けただれる。堕天使は苦痛の中で、その雨を振り払おうともがいていた。
「かわいい教え子たちをよくも痛めつけてくれたな。礼は存分にしてやるぜ!」
そう言うと、ウィザードはさっと前に躍り出て術式を詠唱していく。
『星々よ。その光と熱を我が手に集めて、敵を撃て!天星光:Star Light Beams!』
刹那、あたりはまばゆい色の光に包まれ、ひときわ明るい星々の集積のような明滅が現れたかと思うと、そこから幾筋もの光線が撃ち出されて、異形の身体を射抜いていった。貫通した光の群れは、なおもその汚れた身体を蝕んでいく。
「これで終わりね!」
そう言うや、ウォーロックは構えた光の剣を上段から大きく振り下ろし、異形の首を一太刀に切断した。切り口からは、やはり明らかに人間のものとは違うどす黒い血が噴き出して、堕天使はどさりと身体をその場に横たえた。
ようやく、あたりに静寂が戻る。夏の陽は西に傾き、聖堂のステンドグラスを通して、その中を燃えるように赤く照らしていた。哀れな異形のむくろは、その中でなおおぞましく黒い影を落とし続けている。
「マークスを!」
そう言うソーサラーを尻目に、彼は『転移:Magic Transport』の術式を用いて、そそくさと退散を図っているではないか!しかし、聖堂の入り口に身を潜めていたシーファは、その男の身体目掛けて『魔法の道標:Magic Beacon』の術式を間髪入れずに撃ち込んだ!それは、異国で言うところの GPS のようなもので、それを受けた相手の居所を、以後、魔法的に探査・追跡することができるという代物なのであった。
「よくやった、シーファ!これで奴の足取りを追える!」
歓喜の声を上げるウィザードのそばで、ソーサラーは早速その道標の追跡を始めている。
「どうやら、まだ学内にいるようよ。中央尖塔に向かっているわ。」
「追いましょう!」
そう言って
「あら?私は置いてきぼりかしら?」
いつもの皮肉に、一同が振り返える。長い歳月を経て、懐かしい顔ぶれがようやく再び一堂に会したのだ。
「それだよ!あんた、生きてたんだな!」
「『スカッチェ通り』の事件の後、アカデミーがあなたを処刑したと発表しましたから、もう亡くなってしまったのだとばかり…。」
ネクロマンサーは涙を浮かべて、声を震わせる。
「本当によかった。」
ソーサラーはウォーロックに抱き着いた。少女たちは、聖堂の入り口からその光景を不思議そうに眺めていた。
「よしてよ。私が死ぬわけないじゃない?」
笑顔で答えるウォーロック。
「でもよう、今までいったい、どこでどうしてたんだよ?」
そう問うウィザードに、
「あら、気づかなかった?結構一緒にいたのよ?」
「一緒にって、どこで…?」
「ほら、例えば、シーネイ村に向かうあなたに、死霊の剣を渡したのは、実は私なの。」
「じゃあ!」
「そう、『アーカム』の物言わぬ仮面の店員が私だったってわけ。話すとバレちゃうからね。口がきけないことにしてたってわけ。」
「なんだよ、そりゃあ!あんたもずいぶん人が悪いぜ!」
そう言って4人は笑いあった。
「でも、どうしてそんな面倒なことをしていたのですか?私たちだけには本当のことを打ち明けてくれてもよかったのに?」
ネクロマンサーが訊ねる。
「ごめんね。アカデミーの側にいたのではわからないことを調べ、できないことをするために、ここを離れる必要があったのね。それからは仮住まいに身をひそめながら、時折アーカムを訪れていたというわけ。」
ウォーロックはこれまでの経緯と事情をそう説明した。
「ごめんね。巻き込んじゃって。みんなを天使にしちゃった。」
「これのことか?いいんだよ。あの時、こいつらを救うにはどうせそれしかなかったからな。結果オーライだぜ!」
軽やかに笑って見せるウィザードの、その言葉に嘘はないようだった。あとの二人にも後悔の色は見えない。
「積もる話はたくさんあるけど、今はマークスを追わないと!」
ソーサラーが促した。
「そうだぜ、こいつらにお灸をすえるのもそれからだ。」
そう言って、3人の少女たちを見やるウィザード。彼女たちは申し訳なさそうに首をすくめていた。
「でも、何にせよみんな無事でよかったわ。あの子のおかげでマークスの居場所もわかるしね。追いましょう!」
ウォーロックのその言葉に、3人は強く頷いて答えた。
「行こう!」
そう言って聖堂から中庭へと続く広い廊下へ出た時だった。大きな羽音とともに、異形の天使たちの群れがその場に姿を現したのだ。それは相当な数を擁しており、廊下を埋め尽くさんばかりの勢いだった。事ここに至って、どうやらなりふり構わずに襲撃を仕掛けてきたらしい。あたりでは
「こいつらの目的はマークスのいる中央尖塔の防衛だ。だから、そこに通じる道を避けて行けばきっと逃げられる!お前たちは避難誘導をしながら、とにかく裏門経由で逃げろ!」
ウィザードが少女たちに指示を飛ばす。
「わかりました!先生たちもご無事で!行こう!」
そう言うと、シーファは、リアン、カレンとともに、正面に立ちはだかる群れを避けるようにして脇の廊下から建物の外に向かって走り出た。中央尖塔には、聖堂前の大廊下をまっすぐに行き、中庭を越えた先の階段から行ける。ウィザードの読みは正しく、天使もどきの群れは、そこに通じる道を守るように陣取ってるようだ。
「無事でいろよ。」
そうこぼして、ウィザードはその群れと対峙した。天使の姿をしたその哀れな犠牲者たちは、翼の生えた人のような、人形のような姿で、大きな羽音を立てながら敵意をむき出しにしている。
* * *
「どうするの?」
「『どうする』ったって、やるしかないだろうよ?」
「やるったって、道がふさがれてるのよ?」
「そんなもん、作りゃいいんだよ!」
心配するソーサラーをよそに、ウィザードは詠唱を始めた。
『地獄の門よ。その姿を現し、我が敵を薙ぎ払え。火の海の中にすべてを沈めよ。業火への地獄門:Hell's Gate to Inferno!』
詠唱が終わるや、燃え盛る地獄の門が召喚され、そこからおびただしい量の炎が波をなしてあふれ出てくる。火と光の全領域殲滅魔法だ!地獄門から流れ出るその炎の波は、瞬く間に目前の天使の群れを飲み込み、焼き尽くしていった。あたりには、鼻をつく嫌な焼け跡の匂いがむっと立ち込めてくる。そして、異形がひしめいていた廊下はすっかりガラすきになった。
「な、道ができたろ?」
そう言って、両目が動くいつものぎこちないウィンクを送るウィザード。
「さあ、行きましょう!」
ネクロマンサーに促されて4人はまだその不快な匂いが充満する廊下を一気に駆け抜けた。中央尖塔は、アカデミーの最も高い位置にある。聖堂のある1階からそこまではかなりの距離だ。案の定、中庭にも、そこに至る階段にも天使の群れが大挙していた。
「ったく、きりがねぇな。」
領域殲滅魔法を立て続けに繰り出すウィザードに、さすがに疲れが見えはじめた。
「大丈夫?代わるわよ?」
気遣うソーサラーに、
「心配いらねぇよ。任せとけ!まだまだいけるぜ!」
そう言いながら前を駆けていく。天使の群れは次々に襲ってくるが、量産型とでもいうべきなのか、個々の能力はそれほど高いわけではない。マークスが連れていた異形に比べれば対処は容易だった。ただ、とにかく数が多いこと、それから、その個体の1つ1つにもかつては人間としての生命と人生があったのだという厳然たる事実が、4人の頭を大いに悩ませていた。しかしここで立ち止まってみたところで、事態が解決するわけでもない。今は諸悪の根源であるマークス打倒が最優先だ!
そう思い定めて、次々に階段を駆け上がっていく。マークスの足跡を信号でたどると、それはアカデミー最高評議会の議事堂を指し示していた。襲い来る天使の群れを打ち払い、かき分けながらその場所めがけて駆けていく。
「しかし、これだけ大規模な計画を行使できるということは、マークスが最高評議会の議長なのでしょうか?」
核心に迫る疑問を呈するネクロマンサー。
「それは、十分ありうるわね。」
氷の剣を振るい、天使の波を切り分けながら、ソーサラーがそれに応じた。
最高評議会は、その名の通りアカデミーの最高意思決定機関で、議長はその頂点に君臨する存在だ。しかし、常に重々しいローブで全身を覆っていて、その相貌を垣間見られる機会はほぼ皆無であった。学内の行事には参加こそするが、その場合でも、魔法拡声器を通して音声で語り掛けるだけのことがほとんどで、ローブに包まれたその謎めいた姿すら、滅多に目にすることはできなかったのである。議長と直接の面会を許される者は、評議員や政府重鎮の中でもほんの一握りで、その正体は厚いヴェール下に隠されていた。
ただ、その権力は絶大で、評議会の評決さえ、議長拒否権によって覆すことのできる恐るべき強権を有している。『アカデミー特務班』を使って遺体や瀕死体を回収する、回収した遺体を『アカデミーによる葬送』の儀式から秘密裏に移動するなど、アカデミーの公の活動を通して悪事を行い続けることができたこと、アカデミーの管理部門と政府の両方の監視を巧みにかいくぐり続けることこができていたこと、そうしたことは、マークス自身が実は最高評議会の議長であったのだと仮定すれば、実によく辻褄が合う。孤児や学徒の健康維持と増進のためであると偽り、『天使の秘薬』を使って無差別に天使化の因子を仕込むといった荒唐無稽が実現できたこともまた、頷けるのであった。
きっとそうに違いない!議長の正体について確信を強めながら、彼女たちはなおも階段を駆け上がる。1階から2階、2階から3階へと進み、4階を過ぎて、いよいよ議事堂のある5階の踊り場が見えてきた。上の階に進むほどに襲い来る天使の脅威は大きくなったが、それをことごとく払いのけて、ついに4人はそこに到着した!今、その目の前には、議事堂の扉がそびえ立っている。
学徒が議事堂を訪れる機会はほとんどない。教職員でさえ、議事堂のあるアカデミー中央尖塔の5階に足を運ぶことは稀であった。それくらいにアカデミーの中央権力は秘密主義的なのだ。最高評議会の評議員となるためには、最高の学術位階であるアーク・マスターの学位を持つことが原則で、例外的に、極めて優秀なハイ・マスターが非常任評議員として抜擢されることがある他は、教職員といえども最高評議会の活動に関与することはできなかったのである。
学徒に至っては、議事堂を訪れるのは、中等部から高等部、高等部から
ウォーロックにとっては高等部への進級時以来、他の3人にとっては最終位階への進級時以来で、数年ぶりにその門を目の前にしていた。
シーファが撃ち込んだ魔法の道標は、間違いなくその扉の奥を指し示している。この奥にすべての元凶であるマークスがいるのだ!今度こそ逃がしてはならない!彼女たちの手に力がこもった!
その威厳ある荘厳な扉をウィザードが威勢よく蹴破る。
「マークス、出てきやがれ!」
議事堂の中に駆け入ると、『至聖堂』に通じる最奥の扉の前に、重いローブを身にまとった人影が見えた。それが最高評議会の議長、すなわち諸悪の根源たるマークスに違いない。彼女たちはその人影を取り囲んでいく。
「この先は『至聖堂』、その奥は行き止まりだ。もう逃げ場はないぜ、マークス!」
ウィザードは更に詰め寄った。
「今度こそ、決着をつけさせてもらうわよ。」
気を吐くソーサラー。
「観念してください。」
ネクロマンサーもまた、構えを成して近づいて行く。
「…」
ウォーロックだけは、静かにその重苦しい背中と対峙していた。
ローブの人影が、ゆっくりとこちらに向きを変える。
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