第2節『銀髪の天才ソーサラー』
やれやれ、毎日毎日飽きないものだ。
今日もウィザード科のあの子は私に喧嘩を売ってきた。私ってそんなに嫌な女かしら?あの子に恨まれる心当たりなんてとんとないんだけど…。
更衣室の鏡を覗き込みながら、銀髪のソーサラーはひとりそんなことを考えていた。
だいたい、喧嘩するにしてもああもワンパターンだとやりようがないのよね。基本術式の『火の玉:Fire Ball』は、確かに初等術式の『氷礫:Ice Balls』より上位の術式だけど、模擬戦で重要なのはスピードと手数、威力は二の次なのよね。輻輳して繰り出される彼女の火の玉のひとつひとつは重いけれど、生成速度の遅さと手数の少なさは致命的だわ。
その間に私はいくつも氷礫を繰り出すことができる。そのうち彼女は詠唱もままならなくなるわ。要するにやりようなのよ。それさえ分かれば、結構いい線行ってると思うんだけど…、残念だわ。
でも、こう毎日だとさすがに困るわね。特にハンナたちがイライラしているのが気になる。あの子たち、ひとりひとりはそんなに悪い子じゃないんだけど、集団になると嵌めを外しがちになるから正直ちょっと心配だ。ウィザード科がこちらの練習に水を差しているのは事実だけど、それくらいのことで揺らぐようなら、それはむしろ私たちの方の実力が足りないというだけのこと。少々の雑音はものともしないで、臨機応変に対応できるチームワークと集中力がなければ中等部の上級生はとても相手にできないわ。ハンナたちにもそれがわかるといいんだけど、まぁ、彼女たちには彼女たちの考えがあるだろうから、言っても仕方がないわね。本当は、あの子と一度ゆっくり話してみたい気もするけど、まあ、相手があの剣幕じゃ無理かしらね…。
そんなことを考えているところにハンナとその取り巻きたちが連れ立って更衣室に入ってきた。室内は一気ににぎやかになる。
「さすがお嬢ね、今朝もあの金髪バカはコテンパンよ!」
ハンナがあけすけに言う。まぁ、喧嘩に勝ったのは事実だ。
「私たちには、劣等種のウィザードを相手にしている暇はないって、昨日もあいつに言ってやったのに全然懲りてないんだから、こっちが参っちゃうわ。まったくバカの相手は疲れるわね。」
そんなことがあったのか…。あまりエスカレートしなければいいが。一抹の不安が脳裏をよぎる。私とあの子の悶着くらいはたいしたことではない。喧嘩といっても公式のルールにのっとった模擬戦をやっているだけだし、第一お互いに選手権を持つのだから、練習試合を申し込む権利も受ける権利もある。私はただ、彼女の挑戦を受けているだけなのだ。
でも、ハンナたちの敵愾心には、時々、私でもちょっと怖くなるものがある。特に、あのウィザードの親友なのだろうか、いつも一緒にいる女の子にハンナたちが執拗に手を出しているのは前々から気がかりで仕方がなかった。今のところはただの言葉の応酬だけで、大事には至っていないし、相手も差して気にしていないようだけど、この大事な時期にエスカレートされると、私としては正直そっちの方が困る。
「ねぇ、お嬢。いい加減あいつらいっぺん分からせてやった方がいいかもね。」
ハンナが言った。
「馬鹿なことはやめてよね。厄介事はごめんよ。第一、同学年のウィザード科なんて相手にもならないわ。今朝も見たでしょ?目標はもっと上に置かないと!同じウィザード相手なら、中等部の上級生を相手にするくらいじゃないといけないわ。そうでしょ?」
「やっぱりお嬢ね!考えてることが違う。大丈夫、お嬢の快進撃の邪魔は誰にもさせないわ。今年こそ、ソーサラー科初等部の選手権チームは、その実力をギルドに見せつけてスカウト獲得よ!」
「おー!」だの「やー!」だのいう威勢のいい声が更衣室中にこだまする。私は正直そんなことに興味はない。まあそう言い切ってしまうと嘘になるが、ハンナたちが考えているような壮大な野心は私にはないし、他人を見下して軽んじるというのも本当は好きじゃない。誰しもそれぞれの事情があり、みな自分が置かれた場所で一生懸命にやっているんだ。私だってそう。『貴族のご令嬢』なんてもてはやされてはいるけれど、現実はそんなにいいものではない。血統、伝統、格式、戒律、あれはだめ、これはだめ、あれをしろ、これをしろ、正直うんざりだ。本当のことをいうと、貴族の『お嬢』じゃなく、ひとりの人間として向き合ってくれる友人が私は欲しい。もし今、我が家が没落して、名声を失えば、私がどんなにソーサラーとして優れていたって、ここにいるみんなは一人残らず私を見限るだろう。それは分かっているんだ。はぁ…。
「どうしたのお嬢?浮かない顔して。」
「別に、どうということはないのよ。気にしないで。」
「やっぱりあいつね。あいつのしつこさにうんざりしてるんでしょ。わかるわ。私たちに任せておいてよ。お嬢の邪魔は金輪際させないわよ。」
「大丈夫、そんなんじゃないから…。」
午前の講義の予鈴が聞こえてくる。
「急がなきゃ遅刻よ。」
チームリーダーとして、みなを急かす。
「遅刻者は特別訓練メニューをこなしてもらうからそのつもりでね!」
「もう、お嬢にはかなわないわね。」
そんなことを口々に言いながら、蜘蛛の子を散らすようにみんな更衣室をあとにした。さあ、私も急ごう。
* * *
その日のお昼のことだった。食堂わきの少し開けた場所に私たちの選手権チームの面々とハンナの取り巻きが一堂に会しているのを偶然見た。彼女たちは何事かを計画しているような様子だったが、声がかかっていないということは、私が気にする必要はないということなのだろう。しかし、10人余りも集めていったい何をしようというのだろうか?今朝、去り際にハンナがいった言葉が急に思い出される。「金輪際邪魔はさせない」とは、いったいどうするつもりなのか?本人には昨日直接伝えたが効果がなかったと言っていた。まさか…。いや、いくらなんでも彼女たちだってそんなに短慮ではないはずだ。まして、大会を一か月後に控えたこの時期に集団で問題なんて起こそうものなら、選手権それ自体に影響する。それは分かっているはずだ。自分に言い聞かせるようにして、私はその場を去った。まさか、その判断が致命的な後悔をもたらすことになるとは、その時はまだ知る由もなかった…。
* * *
「おら、てめぇ、なめてんじゃねえぞ!」
ただごととは思えぬ怒号が、普段からひと気のない研究棟の裏に響く。時刻は夕方5時を回ったころだ。陽は傾斜を強め、ぐるりと何かを取り囲む10人余りの人だかりをオレンジ色の光が照らしていた。
「わかってんのか?あいつのせいで、お嬢も私らもずいぶん迷惑してんだよ。」
その一団に取り囲まれて、ひとりの少女がうずくまっている。ひどい暴力を受けたようで顔は痛みに歪み、目からは涙がこぼれている。
「そのくらいでいいんじゃない?劣等種だけど、死なれても困るし。」
そう言ったのはハンナだった。彼女は一団から少し距離をおいたところで一部始終を見物していた。どうやら彼女たちは放課後にリズをここに呼び出し、集団で暴行を働いたらしい。ついに一線を越えてしまったのだ。
ハンナはリズに近づくと、片手で彼女の髪の毛の生え際を雑に握り、ぐいとその顔を持ち上げた。
「あの金髪もとんだバカよね。まあ、そんなのは最初からわかってるんだけどね。これだから劣等種は嫌いなのよ。」
心底からの嫌悪の言葉を発する。
「昨日の、この私の忠告をちゃんと聞いてれば、かわいそうなあんたはこんな目に合わずに済んだのにね。恨むならあいつを恨んでね。私を無視する方が悪いのよ。」
そう言うとハンナは手荒にリズの身体を振り払った。
「劣等種の分際で貴族にたてつくなんて、反吐が出るわ。悔しかったら何かやってみなさいよ、この劣等種!」
ハンナの言葉はどんどんエスカレートする。周りの取り巻きの中にも、その態度に動揺を見せる者が現れるほどだった。
「なにもできないでしょ?劣等種だものね。それがあなたたちの運命なのよ。才能も素質もないくせに、私たちと同じ魔法使いですって!冗談じゃないわ。乞食と一緒にされちゃ迷惑なのよ。」
ハンナの心はどうしてこうまで歪んでいるのか?その見下し方には憎しみというより一種の狂気が宿っているようにすら思えた。
「悔しいでしょ?悔しいなんて高尚な感情が劣等種にあるのか知らないけど、あはは。」
ハンナは高らかに笑う。その瞳は尋常でない色と輝きをたたえていた。
「ねぇ、いつまでもはいつくばっているのってどんな気持ち?私たち貴族には永遠に分からないのよ。教えてくれないかしら。あははははは。」
その罵倒と侮辱は留まるところを知らない。
「そんなかわいそうなあなたにね、いいものをあげるわ。この私が、あなたに力というものを教えてあげる。」
そう言うとハンナはリズの前にしゃがみこんだ。
「これはクリスタル・スカルという禁忌の魔法具よ。冥府の力を直接取り込むことができる代物なんだけど、あなたたち劣等種はもともとが空っぽだから、きっとたくさん取り込めるわよ?そしたらちょっとは強くなれるんじゃないかしら。どう、試してみる?」
ハンナはリズにその魔法具を見せつけた。
「どう、これが力よ。私たちとあんたら劣等種を隔てる絶対の壁。でもこれがあればあなたも私たちに近づくことができるかもね?」
不気味な表情でリズに迫るハンナ。全身に走る痛みでリズは答えることができない。
「ふん、やっぱり劣等種ね。何も言えないなんて全くの屑だわ。いいわ。ここに置いておいてあげる。使う使わないはあんたの勝手だけど、私たちにも我慢の限度ってのがあるのは覚えておいてね。もし、あの金髪バカがまたお嬢を煩わせたら、次はあいつの番。その時は半殺しでは済まないかもね。」
それを聞いて、リズがキッとハンナの顔を見据える。
「なによ、まだ足りない?まあ、あんたをこれ以上痛めつけてもしょうがないし、自分に何かできると少しでも思うんなら、それを使って私たちを止めてみることね。」
そういうとハンナは立ち上がって一団を見た。
「帰るわよ。」
その言葉につき従って一団はその場を去っていった。
すっかり陽が落ちていた。その陰りの中に、リズと魔法具だけが残されている。初秋を思わせる少し乾いた風がその場を吹き抜けた。リズは倒れ込んだまま、唇を固く噛み締め、目から大粒の涙をこぼして泣いている。唇には痛々しく血が滲んでいた。
更にあたりは暗くなる。やがてリズは痛みに耐えながら、その魔法具を右手に握りしめて立ち上がった。その姿はハンナたちの仕打ちの凄惨さをありありと物語っていた。
彼女は寮棟の方へ向かって痛む足をゆっくりと引きずり始めた。
幾分か、夜空が高くなっているように見える。涙のしずくのように、星々と星座の瞬きが宵闇の虚空を彩っていた。
* * *
翌朝のウィザード科の更衣室である。
今日も朝の練習がこれから始まろうとしていた。そこに一人の少女が駆け込んでくる。
「ねぇ、聞いた!?」
「朝からうるせぇな、なんだよ?」
「あいつら、ついにやりやがったわ!」
「やったって何を?」
「あんた本物のバカなの?この時間にリズがいないのを何とも思わないわけ?」
「それって…、まさか!!」
「そう、そのまさかよ。あいつら昨日、研究棟の裏でリズをリンチしやがった!」
「なんだと!?ちくしょう、許せねぇ!」
そういうが早いか、ウィザードは更衣室を飛び出すと、ウィザード科の練習フィールドに向かって一目散に駆けて行った。あたしが気に入らねえなら、あたしに言えばいい。なんでリズを。ゆるせねぇ!怒りがこみあげてくる。前後の見境など、もはや考えられる状態ではなかった。
階段を駆け上がった先に、ソーサラー科のフィールドが見えてくる。
「くそ銀髪、出てきやがれ!」
ソーサラーは、フィールドの一角で、朝の教練に備えて準備運動をしていた。
「また、あなたなの?今日はまたずいぶんな剣幕ね。」
「すかしてんじゃねえぞ、この野郎!てめぇ、よくもやりやがったな!あのクソ舎弟を使ってリズに手を出すなんて、きたねぇんだよ!」
それを聞いてソーサラーはハッとする。俄かに昨日の昼の光景が脳裏によみがえった。
「まさか…。」
「まさかも、さかさもあるか!リズの仇だ、覚悟しやがれ。」
「お願いよ、ちょっとまって。少し落ち着いてちょうだい。」
「おちつけだぁ?てめぇ、ふざけてんのか!?」
「とにかくお願いよ。」
その騒動を聞きつけてソーサラー科の選手権メンバーたちが集まってくる。もちろんその中には首謀者のハンナもいた。
「なによ、コイツ。あれだけやってもまだ懲りてないの?」
その声の方向をウィザードがにらみつける。
「てめぇ、よくもリズをやりやがったな!ぶっ殺してやる!」
「なによ、劣等種の分際でまたしても私の忠告を無視するつもりなのね。許せないわ。そっちこそ覚悟しなさい!」
「しゃしゃあと、冗談抜きで容赦しねぇ!」
いよいよふたりがやりあおうかというところで、大きな声がこだました。
「お願いよ、やめなさい!!」
声の主はソーサラーだった。その美しい姿のどこからそんな声が出るのか、その場に居合わせた者がみな一様に同じ驚きを隠せないでいた。
「ハンナ、どういうこと?」
「だから、こいつが毎日毎日お嬢の邪魔をしないように…。」
パァン!!!
乾いた音が辺り一面に響いた!
「お嬢、何を!?」
身体を横たえ、左の頬に手を置きながら、ハンナは涙をにじませている。ソーサラーが思い切りその頬をはったのだ。
「誰がそんなことを頼んだの?」
「だから、こいつが…」
「誰が一体そんなことを頼んだのよ!」
先ほどと同じ、大きな声があたりに響き渡る。
「ご、ごめん。」
ハンナがしおらしい声を絞り出した。
「謝ってすむことじゃないわ。ハンナ、あなたは自分のしたことがわかってるの?」
「っつ!」
それ以降、ハンナは口を利かなくなった。
それから、ソーサラーはウィザードの方に向きを変えると、静かに膝まづいた。
「謝って済むことでないことはよくわかっています。」
その声が震える。
「でも今の私にはこうすることしかできません。実は、私にはハンナたちの非道に気付く機会がありました。でも、それを見過ごしてしまったのは私の落ち度です。結果的には全部私の責任です。ほんとうにごめんなさい。」
学年一とも言われる高貴な純血のソーサラーは、ウィザードの前に手をついて深々とその銀髪の頭を下げた。周りも、その光景が俄かには信じられないという面持ちで様子を見守っている。さすがのウィザードもすぐには言葉が出なかった。
「何だってんだよ、ちくしょう。」
そうつぶやくのが精いっぱいだった。
「頭をあげてくれ。そこのクソ野郎の独断で、あんたが煽ったわけじゃないことはわかったよ。だからと言って、そのくそ野郎とはきっちり落とし前を付けるが、あんたにそうされたんじゃあきまりが悪すぎる。頼むよ、頭をあげてくれ。意地を張ったあたしも多分責任がある。悪かった、謝るよ。」
そういうとウィザードはソーサラーのもとに膝まづきその手を取った。ソーサラーはそれに応じてゆっくりと頭を挙げる。
「本当に、ごめんなさい。あなたのお友達にはどうお詫びしていいか…。」
「それはいずれきっちりやってもらう。でも今はとりあえずわかった。」
そういうとウィザードはソーサラーの手を引いて立ち上がった。居住まいを正し、ソーサラーは威厳のある声で言った。
「本当にごめんなさい。ソーサラー科を代表して、正式にウィザード科のみなさんに謝罪します。お怒りはわかりますが、ソーサラー科の中の問題として、まずは私たち自身で今回の件を清算する機会を与えてください。お願いします。」
清水が岩にしみいるような、静かでいて威厳のある、説得力を称えた物言いだった。だれもそれに異論をさしはさむ者はなかった。むしろ昨日の件に加担したであろう面々は、身の置き所がないという表情で、バツが悪そうにしている。
予鈴が遠くで鳴り響く。
「お前たちそこで何をしている!予鈴は鳴ったぞ。さっさと教室に行かんか!」
見回りに来た指導教授が声を張り上げた。
ソーサラー科の面々は、それぞれの午前の教室に、ウィザードも自分の教室に向かわざるを得なくなってしまった。その日の朝の騒動はそうしていったん幕が切れたのである。それから…。
* * *
放課後、教練用の教室に向かうとそこにはリズがいた。他の仲間も彼女を囲っている。
「遅刻よ。」
リズがいつものいたずらっぽさで言った。
「大丈夫なのかよ?」
「あたりまえでしょ。あれくらいなんてことないわ。」
そうはいうものの、あちこちにばんそうこうをはり、あざをたくさん作っているその姿はあまりにも痛々しかった。
「リズ、すまねぇ。ほんとうにごめんよ。」
「なんであんたが謝るのよ。」
「だって、あたしがつまらない意地さえはらなきゃ、こんなことにはならなかったわけで。本当にすまなかった。」
「そんなのいいわよ。」
リズはいつもの優しい笑顔を向けてくれる。
「ところで、あんたこれ要る?」
リズがクリスタル・スカルを片手に持ってそれをウィザードに見せた。
「なんだよそれ?」
「なんでもね、理性と慈しみを捨てるのと引き換えに、ものすごく強力な魔法の力を冥府から授かることができる禁忌法具なんだって。『神秘の雲』で調べたらそう書いてあったわ。これがあればくそ銀髪にも勝てたりするかもね?」
「そんなのいらねぇよ。」
「そうよね。あんた、慈しみは端からないからいいとして、その雀の涙ほどの理性をひきかえちゃったら、さしずめ火の魔法を使う猿だもんね!」
「うっせぇ。あたしが火だけじゃないってとこを今度みせてやるぜ。」
「へぇ、大した自身ね。」
「あたりまえだろ。あたしだってやるときゃやるぜ!」
「期待してるわ。」
理性と慈しみを奪うか…。この魔法世界には恐ろしい禁忌があるものだ。耐えがたい苦痛と屈辱に負けてあのときリズがそれを使わなくてよかったと、ウィザードは心底からそう思った。刹那、彼女はリズのその痛々しい身体を抱きしめていた。
「ちょっとやめてよ。私にそんな趣味ないんだから。」
リズが笑う。
「あたしにだってねぇよ。なんていうか、チームワーク確認のスキンシップってやつさ。」
「そうね、ありがとう。」
そこにいあわせた仲間たちからあたたかい拍手が自然的に巻き起こる。
「おい、みんな。今度の大会はリズの弔い合戦だ!派手にやろうぜ!」
「ちょっと、勝手に殺さないでよね。」
教室全体があたたかい笑いにつつまれた。
時刻にすると、昨日の事件と丁度同じころだった。沈みゆく太陽も、涙のしずくのように輝きをたたえていた星々や星座も、変わらぬ姿をしている。しかし、今日はその温かさが昨日とははっきりと違っていた。固定された環境、出自、運命、そうしたものの内にとらわれているのだとしても、人は自分の意思と可能性を自ら選び取ることができる。自然や運命はそれを入れるための器でしかない。器で中身が決まるわけではない。中身が器を彩るのだ。
教室のその談笑のあたたかさは、その夜遅くまでその熱を保っていた。
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