第22話 恋人とのクリスマス 1
家に帰ってくると、当然出発前と同じ状態で部屋は維持されているのだけれど、帰ってきた時の気持ちは出発前とは全然違う。出発前よりもずっと楽しい気分だった。これからは恋人としてのリディアと一緒に同棲できるのだから。
「そうだ、リディアにプレゼントがあるんだった」
「プレゼント?」
「そう、プレゼント!」
先日玖実に相談したけれど、結局わたし自身が考えなければならなかった。何をあげたらリディアが喜んでくれるのか考えたけれど、リディアは今までお嬢様の身分で欲しいものはほとんど手に入っていたはず。
ダイヤだって、家だって、きっと欲しいものはなんでも手に入れられたリディアを満足させるなんて至難の技。だから、わたしのできることは世界で一つしかないものをプレゼントするくらいしかない。
そう思って、手作りのリディア様人形をもう一つ作ってみて渡そうと思ったけれど、いざ渡そうと思うと、自分の人形なんて愛が重すぎるのではないだろうかとも思って不安になってしまう。せっかく付き合えるようになったのに、気持ち悪いから別れたい、とか言われないだろうか……。
ちなみに、一応わたしが昔から持っていて、一緒に寝ていたお手製のリディア様人形は異世界令嬢バージョンで、リディアに渡したのはこちらの世界の私服バージョンだから、別物ではある。
「い、いらなかったら返してくれたらいいから……」
リディアはフェルト人形を受け取ると、クスッと笑う。
「本人に本人の人形渡すなんて、なんだか面白いわね」
「だよねぇ……。もらっても困るよね……」
「困りはしないわ。とっても嬉しい」
リディアは自身をモチーフにしたフェルト人形をそっと抱きしめた。
「ね、どっちが可愛いかしら?」
抱きしめているリディア人形と、リディア本人どちらも可愛かった。
「どっちも可愛いよ」
「わたしの方が可愛いわよ!」
自分で聞いておいたのに、自分で答えを決めつけてしまった。相変わらず自信満々な様子のリディアに苦笑いをしつつも、そんな彼女のことが大好きだった。
「詩織のお人形も作って欲しいと思ったけれど、よく考えたら本人のことは人形でなくても直接抱きしめて眠ればいいから、詩織人形はなくても大丈夫ね」
リディアに抱いて眠ってもらえるなんて、嬉しすぎるけれど、ドキドキして絶対眠れないと思う。
「大事にするわね」
とりあえず、喜んでもらえてホッとしていると、リディアが続ける。
「……とはいえ、困ったわ。わたし、何も詩織へのプレゼントは用意していないわね……」
リディアが長い人差し指を頬に当てながら宙を見つめて考えごとをしていた。
「良いよ、お返しは。わたしがリディアのことを好きすぎて個人的にあげただけだから」
「よくないわよ! わたしも詩織のこと好きすぎるくらい愛してるんだから! 何かあげたいわ! もうわたしは詩織の彼女なんだから、一方的な愛は禁止よ!」
リディアがわたしの方にグッと顔を近づけてくる。
「そ、そんな麗しいお顔で大しゅきとか言わないでぇ……」
蕩けてしまいそうだ。彼女のリディアがわたしを愛してくれてるなんて……。
「わたしは当然詩織のこと大好きだけど、詩織も相当わたしのこと好きでいてくれてるみたいね」
「そ、そりゃ、リディアと出会う前から好きだったんだから……、っていうか、恥ずかしいし、そんなこと言わせないでよ……」
今まで一方的な感情だった推しに対する好きという感情が、恋人としての好きの感情になってしまったから、なんだかちょっとむず痒くなってしまう。
リディアはそんなわたしの反応を確認してから、大きく頷いた。
「よし、決めたわ!」
「何を?」
「詩織にわたしから贈れるプレゼントよ!」
「そんなの良いのに……、って、何してるの!?」
リディアは突然服を脱ぎ始めたのだった。あっという間に、重たそうな胸を包んでいるブラジャーと、長い足がしっかりと見えてしまう、ショーツだけの状態になってしまった。
普段は洗面所で着替えてもらっているから、下着だけの状態のリディアを見るのは初めてだった。芸術品みたいに綺麗な体を露わにしている。
「ちょ、ちょっとリディア! 恥ずかしいからやめてってば!」
「あら? 将来の婚約者に下着姿を見せることの何が恥ずかしいのよ」
「そうなのかもだけど、まだ慣れないし、突然脱ぎ出すなんて、何考えてるのかわからないよ……」
お風呂でも入るつもりだろうか。困惑しているわたしのことは気にせず、ついにリディアはブラジャーとショーツも脱ぎ捨ててしまった。
「な、何してんの!?」
わたしは慌てて顔を背けた。女性同士だし、例えば友達の玖実が同じように部屋で下着を脱ぎ捨てても、わたしはこんなにも慌てなかったと思う。でも、他でもない、リディアの裸体なんて、綺麗すぎて直接見られないし、見てはいけない気がする。
「せっかく脱いだのに、俯かないでよね」
リディアが口を尖らせて不機嫌そうにしている。
「だ、だって……。そんな姿になられたら、リディアのことエッチな目で見ちゃうよ……?」
「だからどうしたのよ? 今からエッチするんだから、正しい見方じゃない」
「えぇっ!?」
いや、いやいやいやいやいや……! 電気ついてるし、晩御飯の食べ残し片付けてないし、ムードとか、なんかそんな雰囲気とか、そういうのは……?
「い、いきなりすぎない……?」
「プレゼントのお礼よ。詩織がわたしのこと好きにしてくれたらいいわ」
そう言って、リディアはベッドの上に仰向けになってゴロリと寝転んだ。
「む、無理だからぁ!」
「嫌なの……?」
リディアが寂しそうな声を出す。やめてよ、なんだかわたしが悪いことしてるみたいじゃん……。
「嫌じゃないよ……。でも……」
「なら、何も迷わないでよね。やっと、本当に好きな子と温め合えるんだから……。初めて心の底から好きになった相手からの愛が早く欲しいわ」
リディアが全てを脱ぎ捨てた状態でジッとわたしを見つめてくる。リディアは本気だ。
「わかったよ……」
仕方がないから、わたしも同じように服を脱ぐ。リディアと違って、わたしの体はちんちくりんだし、胸も小さいから、なんだか恥ずかしい。
「笑わないでね……」
「笑うわけないでしょ? とっても可愛らしいじゃない」
「それ、ディスってるんじゃない?」
「ディスってないわよ。褒め言葉よ」
わたしがベッドに近づくと、リディアがわたしを引っ張って、抱き寄せた。
「好きにして」とリディアが耳元で囁いてくる。
「好きにして、か……」
嬉しいけれど、わたしはリディアに好きにされたかった。
「ねえ、リディア。命令してよ」
「命令?」
「わたし、リディアに好き勝手されたい。リディアがめちゃくちゃにして愛してくれることがわたしの望み」
「ふうん……」
妖艶な笑みを浮かべてから、リディアはわたしの耳に口を近づけてから、ゆっくりと耳たぶを舐めた。リディアの温い舌が、わたしの耳をゆっくりと這っていく。それから耳元で小さく囁いた。
「詩織って、変態なのね」
クスッと笑うリディアの笑みにゾクっとした。大好きな推しの声で囁かれるなんて。……いや、今は大好きな彼女の声か。
「なら、あなたの望み通りにしてあげる」
そう言うと、リディアはわたしの唇に口付けをしたのだった。
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