第9話 リディアとの探索 1
わたしとリディアはとりあえず外を歩いてみた。今日は晩秋のカラッとした秋晴れの空だったから、外をふらつくにはちょうど良い気候なのは幸いだけれど、一体全体どうやって元の世界に戻るための手段を探せば良いのか、見当もつかなかった。
「元に戻るために探すって言っても……」
土地勘の無いリディアと、一体リディアがどうやってここにやって来たのかまったくわからないわたし。そんな2人で闇雲に探しみても、うまく見つけられる気がしなかった。
ちなみに、リディアには服は着替えてもらっている。平日の昼間の街中をドレス姿で歩かせるのは、間違いなく浮くだろうから。ただでさえ、リディアの美しさは現実世界で浮いてしまうのだから、さらに浮かせる服装をさせたくない。
表向きは、異世界からやってきた子を必要以上に目立たせたら、異世界から来たことがバレてしまって騒ぎになってしまうかもしれないという理由から。本音はリディアが目立ってしまったら、わたしから遠い存在になってしまいそうで怖いという理由から。
そんなわけで、とりあえずわたしの持っている服の中では比較的大きなサイズだったニットセーターとロングスカートを着させてみている。ほとんどの服が背の高いリディアには合わなかったから、またリディア用の服は買ってあげたほうが良いかもしれない。
今日はたくさん歩くだろうから、靴はスニーカーを勧めたのだけれど、リディアはどうしても高いヒール靴を履くと言って妥協してはくれなかった。リディア曰く「視線が人より低くなるのが嫌」らしい。わたしにはわからない感覚だ。さすが悪役令嬢。
そもそもリディアって174センチもあるんだから、ヒールのない靴でも充分視線は高いと思うけど……。おかげで、今のわたしは部屋にいるとき以上にリディアのことを見上げて話さなければならない。小学生の頃の、先生と話をするときの視線の高さを思い出す。
そんなわけで、リディアを目立たないようにしたつもりだったのに、ドレスという現代日本においては少し変わっているような格好をしても綺麗だったリディアの見栄えは、現代日本に溶け込めるような格好をすると、さらに綺麗さが際立ってしまっていた。ヒール込みで185センチくらいある長身も相まって、道行く人のほとんどがリディアのことをジッと見ていた。
「みんなわたしのことを見ているわね。やっぱりわたしって人気者なのね」
リディアがドヤ顔で喜んでいる。少し自意識過剰にも思える発言だけれど、今のリディアは街行く人に好意的な目で見られているから、そこまで的外れなことは言ってはいないかもしれない。
元々高飛車な性格のせいでゲームの中では周りからドンドン浮いていっていた子だけれど、今のリディアは事実として周囲から良い意味で浮いてしまうような美しさだったから、彼女の自意識過剰な性格のせいで、むしろ嫌みのない子に思えてしまう。
「リディアは元の世界に戻らなくてもこっちの世界で生活した方が向いてるんじゃない?」
「あら、あなたはわたしに帰ってほしく無いくらい、わたしが好きなのかしら?」
リディアがクスッと笑っていたけれど、わたしは真面目な顔で頷いた。
「好きですよ、リディアさんのこと」
わたしが結ばれても良いなら、エドウィンの代わりに結婚しても良いくらいには。リディアのことが好きだもの。もちろん、リディアはわたしみたいに平凡な大学生相手は嫌だろうから、そんな烏滸がましいことは口にはしないけれど。
わたしが真面目な顔で言うと、リディアは「へぇっ!?」と変わった声を出して驚いていた。一瞬目を大きく見開いてこちらを見たけれど、すぐにまたクールなツンとした表情に戻る。
「そ、そう。まあわたしは人気者だから、そう思ってもらえるのも当然ね」
その声が普段よりも上擦っていて、可愛らしかった。リディアでも想定外のことを言われたら緊張しちゃうんだ。普段とはちょっと違うリディアを見られて、得した気分だった。
わたしたちはのんびりと歩いたけれど、当然手がかりなんて何も見つからない。
「ねえ、リディアってどこで目が覚めたの?」
「知らないわよ。起きたら硬い道の上にいたけれど、同じような景色ばっかりで全然わからないわ。ここかもしれないし、さっき通ったところかもしれないし」
リディアがため息をついた。
確かに、この辺りの道ってどこを通っても同じような住宅街で初めて異世界からやってきた人にとってはまったく見当もつかないのかも。
「もう歩けないわ。疲れちゃったからおんぶしなさいよ」
リディアがわたしの首元に背中側から手を回してきて、ギュッとしがみついてくる。
「だ、だから、リディアさんに乗られたらわたしが潰れちゃいますから!」
まだ昨日無理やりおんぶさせられて転んだ時に打ちつけた膝が痛いんだけど。
「名家の令嬢であるわたしに向かって、体重が重たいなんてとっても無礼なことを言うのね」
「別にスタイルが悪いって言ってるわけじゃ無いですよ?」
悪いどころか、リディアの重さの原因を作っているのはスラリと高い背と、今もわたしの背中にしっかりと当たっている大きな胸のせいだから、スタイルはかなり良い。
「なんでも良いから、おんぶして進みなさいよ」
昨日とは違って、勝手にわたしに全体重を預けてこなくなった分、ちょっとは性格は丸くなっているのだろうか。でも、言葉には有無は言わせない感じだし。そこはちょっとわからないかも。
このままおんぶさせられるのはちょっと困るから、どうしようかと考えていると、視線の先にファーストフード店の看板が目に入る。
「とりあえず、ちょっと休みましょうか」
「もう歩けないわ!」
「あと1分だけ頑張ってもらえません?」
「本当に1分で着くのね?」
「着きますよ」
「じゃあ、さっさと案内しなさい!」
リディアがわたしに体をくっつけたまま言う。
「どいてくれないと歩きにくいんですけど……」
地に足はつけてくれているけれど、体重はかなりわたしに預けて来ているから、重たいことは重たい。
「歩けないのに、歩いてあげてるのよ? そのくらい許容しなさいよ」
「……わかりましたよ」
リディアが背中に体を密着させてくるから、ドキドキしながらファーストフード店へと歩いた。リディアが邪魔でうまく歩けないふりをしながら普段よりもずっとゆっくり目のペースで歩くけれど、本当はリディアに密着されている時間を少しでも長くしたいから、なんてことは本人には言えなかった。
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