第12話 おにぃ、最低っ……

 下に降りると、先程と変わらず母さんと妹はリビングに居た。

 

「おにぃ、話終わったの?それじゃ遂に2人を紹介してもらえるんだね、ぐふふふふ……」


 どこぞの変態親父の様な笑い方をする妹。


「おい、一応女なんだから変な笑い方するな。雪乃、つきちゃん。この騒がしいのが俺の妹だ」


 さっき話してた時から、早く2人を紹介しろと妹は騒いでいたので、今日ぐらいはこの変な態度も許容してやろうと思った。


「変な笑い方とは失礼だな。可愛い子を目の当たりにしてちょっと興奮が抑えきれず、表に出てきてしまっただけなのに!」

「やかましい、余計な説明しなくていい。自己紹介ぐらいは自分でさせようと思ったけど、話が進まないから俺が代わりにやるからな」

「ちょっと!?それは自分でさせてよ。こほん、雪乃さんそしてつきちゃん、初めまして。おにぃの妹の夕凪衣茉えま、中学2年生です」


 無駄なやり取りに使う時間が惜しくて、勝手に話を進めようとしたが、そこはやはり自分で挨拶したかったらしい。

 それなら、無駄口叩かず早くしろ……と思いもしたが、敢えて口には出さなかった。

 まったく、このめんどくさい性格は誰に似たのだろうか。


「こちらこそ初めまして、月森雪乃と申します。お兄さんと同じ高校1年です」

「つきです、さんさいです」


 2人はそう言って頭を下げる。うん、この律儀な性格は、きっと俺に似たのだろうな。

 これが親になるって事なのか……と感慨深く父親目線で2人を見ていた。


 ちなみに既に挨拶を済ませていた母さんも、このやり取りを傍観している。


 「2人とも小さくて可愛いなー!!」


 妹の言葉を聞いた雪乃の身体がピクッと動いた。

 妹は割と高身長で、中2でありながら、顔つきも大人びているので高校生に間違えられる。知らない人が見たら、雪乃より妹の方が年上に思うだろう。


「そうですね、衣茉さんの方が大きいですね」


 そう呟く、雪乃の視線がとある一点に向けられている事に気づいた。

 ああ……確かにな。そこも妹は育ってるもんな。

 思わぬところで雪乃のコンプレックスを知る事となった。


 雪乃は話し方こそ淡々としているが、結構分かりやすい性格をしている。

 目が笑ってない雪乃を見て、そこについては今後触れないでおこうと心に誓った。


「無駄に伸びちゃったんだよね。私も雪乃さんぐらいが良かったな」

「私は衣茉さんの大きさが羨ましいです」

「立ち話もなんだから、2人とも私の横に座って」


 そう言って妹は、ソファに座りポンポンと叩く。

 噛み合っている様に見えて、全く噛み合っていない2人の会話。

 必死に笑いを堪えている母さんが横目に見えた。


「さて、とりあえず自己紹介も終わったし話を進めるぞ。っと、その前に母さん。プリン出してもいい?」

「ええ、もちろん。私がやるからあなたは座ってなさい」

「ぷりんっ!!」


 お利口にしてずっと黙っていたままのつきちゃんが、目を輝かせながら反応した。

 癒されるな……プリン、また買ってあげよう。

 皆のつきちゃんを見る視線も優しい気がした。


 母さんが戻り、ようやく全員がソファに座った。

 妹の隣に雪乃、対面に俺と母さん。つきちゃんは俺と母さんの間に座る形で落ち着いた。


 つきちゃんが静かにプリンを食べているのを確認し、最初に2人に伝え承諾を得た旨を話した。


「色々とご配慮いただきありがとうございました。このご恩に報いる為にも、私も仲良くしていただける様に努力致します」

「雪乃ちゃん、そんな努力はしなくていいわ。家族との距離は頑張って縮めるものじゃなく自然と縮まっていくものよ」


 恭しい雪乃に対する母さんの切り返しが男前だった。我が親ながらなんと頼りになる事だ。

 妹も同調して何度もうんうん頷いているが、さっきのやり取りを見ていた俺として、こっちには不安しかない。


「それで2人はいつから住むのかしら。透空、転校についての具体的な話はお義父さんにしたの?」

「いや、後で電話しようと思ってる」

「そんな事だろうと思った。さっき私から話して承諾は得ているから、後でお礼を言っておきなさい。手続きすれば直ぐにでもいいって言ってたわよ」


 母さんの手際の良さに舌を巻く。学校についてはすんなり解決したので、問題は家だな。


「それで家の事なんだけどさ?とりあえず明日、2人で探しに行こうと思ってる。未成年だから契約出来るかは分からないけど」

「未成年でも親の承諾があれば契約行為は法的には出来るらしいけど……難しいかもしれないわね。あ、そうだわ。もし良かったら私の家に住まない?」

「いや、だからここには住まないってさっき話したじゃん」

「察しが悪いわね。ほら、亡くなったおばあちゃんの家覚えてない?」

「流石に覚えてるよ。俺はよく遊びに行ってたからな……ってまさか」

「そのまさかよ。売らずにずっと残してたのよ」


 築年数はそれなりに経っているのでお世辞にも綺麗なマンションとは言えないが、オートロックもあるので、セキリュティ的には問題がない。

 何よりこの家から歩いて3分ぐらいの近さだ。


「部屋は2つしかないけど、つきちゃんは雪乃さんと一緒の方が安心でしょ?雪乃さんどうかしら?」

「私としては問題ありませんが、こんなにしていただいて恐縮です」

「気にしないで。空き家のまま放置するのは家にとっても良くないから、こっちこそ助かるわ」

「ありがとうございます、それではお言葉に甘えさせていただきます。ほら、つきちゃんもお礼を言って」

「ありあとごじゃます」

「もう、固いわね……まぁ、それも仕方ないか」


 明日にでもハウスクリーニング を入れて綺麗にするらしく、直ぐにでも住める状態にしてくれるとの事だった。


「2人とも、今日は夜ご飯まで食べて行きなさいな。支度に時間がかかるから、その間に家を見に行ってきたらどうかしら?」


 本当に2人と住むんだな。今更になって実感が湧いてきた。つきちゃんも居るとはいえ、年頃の男女が同じ部屋に住むわけだ。

 アニメとかの主人公にありがちなラッキースケベとか……あったりするかもだよな。


 正面に座る雪乃は、俺を見てなんだか複雑そうな表情を浮かべていた。

 なぜそんなことになっているか分からずに首を傾げたのだが……


 「おにぃ、最低っ……」


 妹の呟きに、ハッとなる。俺……もしかして下心丸出しの顔してたりします?


「雪乃さん、私も一緒に行ってもいいかな?」

「あ、えっと……宜しいですか?」


 雪乃が俺に確認してくるが、これはダメとは言えないどころか、むしろ……助かる。

 妹のファインプレーに心の中で感謝をした。


「それじゃ、皆で行くか。つきちゃん、晩御飯食べたら、俺のプリン食べていいからな。さて冷蔵庫に入れてこよ」

「ぱぱぁ!!」


 つきちゃんの喜ぶ声を聞きながら、手を付けなかったプリンを片手に席を立つ。

 誤魔化してるのがバレバレな気もするが、不自然にならない様に心がける

 妹から向けられるジト目は気にしない、俺は気にしてないんだからな……。

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