第2話 養子の相談所に行こう

 明けて翌日、相談所に向かう為に家を出た。

 目的地は、自宅から電車で二駅先という事で、比較的近い。


「いらっしゃいませ、ご予約のお客様でしょうか?」


到着早々に対応してくれたのは、二十代の女性。

え、もしかして予約しないとダメだったのか!?


「あ、すいません。予約が必要とは知らなくて……」

「そうでしたか。大変申し訳ないのですが、只今の時間、相談員が全てご予約のお客様を応対中でございます。いかが致しましょう?お待ちになりますか?」


 そう言って頬に手をあてて困り顔を浮かべる仕草が妙に可愛いらしい。


「こちらこそ予約を入れないですいませんでした。急ぎではないので出直します」


 別に養子を何が何でも迎えたいという訳ではないし、きっと縁がなかったという事だな。

 その場を立ち去ろうとした俺に、受付のお姉さんが待ったをかける。


「不慣れではございますが、私で宜しければご対応させて頂きますが……」


 待ち時間がないなら話を聞くのはありだよな、せっかくここまで来たんだし。お姉さん可愛いし。


「こちらとしてはありがたい申し出ですが、受付を空にしても大丈夫なんですか?」

「代わりの者を呼んで参ります。少々お待ちくださいませ」


 そう言って立ち去ったお姉さんはすぐに代わりの人を連れて戻って来た。


「それでは改めまして。初めまして、私の名前は中山と申します。不躾ではありますが、まず最初にご持参頂いた身分証を確認をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


鞄から身分証明書を取り出し、お姉さんもとい中山さんに渡す。


「夕凪様は学生さんでいらっしゃるのですね。失礼を承知でお尋ね致しますが、資産が分かるものはご持参頂いてますでしょうか?」


「一応規定は満たしてると思うけど……」


そう言って通帳を差し出す。

一瞬、中山さんの目が見開かれたが、すぐに表情を元に戻す。


「確認させていただきました。夕凪様の資産は規定を満たしております。新法による養子縁組については把握されてますでしょうか?差し支えなければご説明させていただきたいのですが」


「大枠の部分しか分からないので、説明してもらえると助かります」


 中山さんから昨日のニュースで見た内容をもっと詳しく説明してもらった。


 昨日のニュースでは聞き漏らしていたが、新法による養子縁組には期限があるらしい。

基本的には18歳を迎えた翌年の春をもって養子の関係は終わりを迎えるらしい。


 例外もあり、進学を望む子には大学院卒業までの期間であれば延期する事も可能らしい。


 この制度を使える養子側にも条件があり、18歳未満とされていた。

 大学進学を希望された養父母に拒否権はないらしく、ある程度の年齢の子には、制度への登録時に進学希望についての確認は取っているとの事だった。


 また気になっていた施設利用料の1000万円の用途だが、運営資金に使われ残りは税金として扱われる。

 それでは、養子は何も補償がないかと言うとそうではない。年額300万、18歳までの年数分を先に納めないと養親になれないのだ。

 このお金については、食費以外の必要経費にしか使えないのが更にハードルを上げる。

 文字通り養わないといけないのだ。


 他には、最初に養子を迎えてから半年間は次の養子を迎え入れることは出来ない事や、受け入れ可能な人数にも上限も設けられていた。


 ハーレムへの道は困難を極めるという事だけは理解した。


「説明は以上となります。リストをご覧になりたければ、施設利用料をお支払いいただく必要があります。いかがされますか?」

「支払いは今ですよね?それなら先に振込みますので口座を教えてください」


ここまで説明してもらってやっぱり辞めますとは言いにくい。指定された口座にスマホから振り込む。


 振り込みの確認が取れたところで、差し出されたのはタブレットだった。


「使い方の説明はそちらにありますが、私に聞いていただいても大丈夫です。まずはご覧になってくださいませ」


 性別ごとに閲覧が可能なので、とりあえず女を選択した。

 身長、体重に始まり、スリーサイズまで。養子縁組に至った経緯……そして異性との経験人数まで書いてあった事にこの制度の闇を感じる。

 年齢も赤ん坊から僕と同じ高校生までと様々だった。


 親と死別という理由が比較的多いが、心がぎゅっと胸が締め付けられる内容もある。


 身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクト……。


 性的虐待を受けた子に関しては、同性でしか養親になれない(同性愛者は除く)との事だった。


 救いがあるとしたら、その子の特徴も事細かに書かれており、養子側の保護を至上とし、心を砕いてるのが伝わってきた事だ。


 歳の差婚狙いの制度と言うのは完全否定出来ないものの、昨日の自分の下衆な考えを少しだけ恥ずかしく思った。


 そして、この制度を応募した当事者やその周りの人達の必死さが伝わってきた。

 少しでも良い環境に身を置きたくて、この制度を望んだのだろう。


「夕凪様はお若いので、親と死別した子を養子とされてはいかがでしょうか?幸いご家族と同居されてますので、ご家族のご協力がいただけるのでしたらまだ幼い子でもお任せできそうですね」


 幼女好きの変態と思われたくなかったので、どう切り出そうかと悩んでいたら、お姉さんの方から提案をしてくれた。

 別に幼女趣味ではないが、据え膳食わぬは……って事だよな。


「そ、そうですね。家族の協力はおそらく大丈夫なので……まだ幼い子でも問題ないですね。それに同い年ぐらい子だと、俺が養父じゃ相手も嫌だろうし……」


 よし、それらしい理由もスラリと言えた。せっかくなら幼女を養女に迎えたい。

 つまらないダジャレみたいになってしまったが、どうせなら俺色に染めたいんだ!!妹には何か言われるだろうが、そんな些細な事は気にしてはならない。


 なぜなら俺は現代の光源氏になるのだから!!

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