虐待された彼女達が俺の養子になりました

大崎 円

第1話 養子と結婚できる社会になりました

  『本日をもって、【ひかるのげんじ法案】を可決する』


 リビングのソファーでテレビを見ていると、新法成立のニュースが流れていた。


「なぁ、この法律ってどんなの?」

「おにぃ……興味ないとはいえあんなに騒がれていたんだから、せめて内容ぐらいは覚えておきなさいよ」


 そう言ってこれ見よがしに溜息をつく妹。その態度に、苛立ちを覚えるが……気にしてない素ぶりをして再度尋ねる。


「へぃへぃ、私が悪うございました。どうぞこの無知な兄へご教示頂けませんでしょうか?」

「その言い方絶対に馬鹿にしてるでしょ?そういう所が子供っぽいって思われてるのに、本当に治らないんだから……」


『では、新法について改めてご説明させていただきます』


ニュースキャスターがあらかじめ用意していたボードの方に移動した。


「お、テレビで説明してくれるみたいだ。妹よ、もう説明はしなくていいぞ」

「もうっ」


 手のひらを返した俺に対し、妹は不満を露わにするが、それを無視してテレビのの音声に耳を傾ける。


 今までも養子という制度はあった。だが、この新法はそれとは少し違うものらしい。


 新法での養子縁組は、国に一定の金額を納める事により年齢・家族構成に関係なく養子を迎える事が可能である。

 そして何より今までの養子縁組制度と決定的に異なる点が存在する。


『養子と結婚が出来る』のだ。


 もちろん一定の衣食住を提供できる事、養子に暴行(性的な意味も含む)を加える行為の禁止、教育をきちんと受けさせるとか最低限のルールは存在するらしいが、そんなものは今までの養子縁組だって同じだ。


 歴史に名を残した偉大なるロリ○ンの名前を使っている時点で、碌でもない気がするのは俺の気のせいか?

 一部のゲスな中高年の独身金持ち連中がこの制度を利用して年の差婚で下衆な事を考えていそうな気がする。

 言い方が悪くなるが、人身売買とあまり変わらない気がする。


 そんな風に考えていたら同じ事をニュースキャスターも言っていた。

 まあ、結局そういう輩をターゲットにして国税を増やしたいだけなんだろうな……。


 だが、この新法による養子縁組には落とし穴もあるらしい。

国に納める税金というのが高額で、当然ながら養子側の承諾も必要。

 なるほど。そりゃ、養われる方にだって選ぶ権利はあるよな……。


「養子か……」 

「え?おにぃ、ま、まさかロリコンなの?気持ち悪いから近づかないで欲しいんですけど」


 思わず漏れた独り言を聞いた妹が、蔑んだ視線を俺に向ける。あまつさえそのまま距離を取った。


「ち、違うわっ!!別に養子が欲しくて言ったんじゃない。無意識に呟いただけだ」


 誤解されたままなのは癪なので、慌てて否定だけはしておく。


「え?無意識に幼女を求めたって事!?まじか……おにぃの性癖に気づいてあげれなくてごめんなさい。謝りますから、今後は私に近づかないでください、お願いします」


 そう言って妹は、更に俺から距離を取る。


「ぐわぁぁぁぁ、だから違うって言ってるだろうがぁぁぁぁ」

「本当かな……」


 どうやら疑念は晴れない様だ。ジト目を向けてくる妹を無視して、俺は再びテレビに視線を戻す。


『そしてこの新法の最大の特徴は、この新法で迎えた養子との結婚に限り重婚が認められる点です!!一夫多妻、一妻多夫ですか……これは凄い事ですね!!』


「「はぁぁぁぁぁ〜!?」」


妹とハモってしまった。私知ってますよ的な雰囲気だった妹もこれは知らなかったらしい。


「え?どういう事……国がハーレムルートを容認したって事……?」


 ハーレムルートって……妹よもっと他に言い方ないのかよ……。

 そういえば前に妹の部屋にイケメンがたくさん描かれたゲームのパッケージが置いてあったのを思い出した。

 兄はお前の将来が心配だぞ。


「まぁ……そういう事だろうな。でも金持ちしか使えない制度なら俺達には縁のない話だろう」

「おにぃ、それ……本気で言ってるの?」

「ん?本気も何も、この家のどこにそんな金があるんだよ?」

「おかあさん、おにぃの頭がおかしくなっちゃった」


 失礼な事を言いながら、キッチンにいる母親の元に走っていく妹。


「一体何なんだ。今日も騒がしいなこの家は……」


 そんな風に考えていると、こちらに向かってくる足音が2つ。


透空とあ、あなた覚えてないの!?」


俺に駆け寄った母親が血相を変えて尋ねてくるが、何を言ってるのか分からない。


「覚えてないのって言われても分からないんだが……」

「あなたが昔作ったプログラム……あれが多くの企業で商用利用されてて、あなたの財産凄い事になってるのよ!?前に話したでしょ!?」

「…………」


 そう言えば、前にじいちゃんの要望を聞いて夜遅くまでパソコンに向かってたな……。

 どうやら俺にはプログラミングといった、その辺の才能があったらしく、当時はこき使われた覚えがある。


 あの頃の記憶で鮮明に残っているのはご飯が凄い美味しかった事だ。

 最近爺ちゃんとこに顔出してなかったし、今度久々に行ってみよう。


 ぐぅ〜。


 ご飯の事を考えていたら、腹が鳴った。


「母さん、とりあえずその話長くなる?先にご飯にしない?」

「もぅ…この子は本当にお金に無頓着なんだから……。全く誰に似たのかしら……。まあ、いいわ。そこに通帳置いとくから、ちゃんと確認しておきなさい」


 母さんがキッチンに戻っていったので、テーブルに置かれた通帳を取る。

 表紙を見れば、僕の名前が記載してあった。


「こんな通帳持ってたっけ?」


何の気なしに捲ってみる。

残高の所に注目する、一、十、百、千、万………。8桁!?9桁に届きそうな額が印字されていた。

はっ!?何だこの金額は……。


「おにぃ、本当に覚えてなかったの?」


 妹の問いかけに、無言で首を縦に振る。


「だから言ったじゃん。幼女を求めてるの?って。おにぃなら数人ぐらいなら養子を迎えても大丈夫なんじゃないの?」

「もしかして俺……本当に養子お迎え出来る立場なのか……」

「うん、沢山の幼女を自分色に染め上げてハーレムを作るのもおにぃの財力ならいけるね……あ、でもおにぃキモいから相手が嫌がるかも?」


 そう言って意地の悪い笑みを浮かべる妹。

 本当にコイツは煽る事しか取り柄がないのだろあか?


「うっさいわ。でもまぁ、養子には正直興味ないし、住むってなるとここで一緒に住むわけだろ?余ってる部屋もないし現実的な話ではないな」

「は?そんだけお金持ってるんだから、そんなケチ臭いこと言わないで新居に2人で住んだらいいじゃん。どこか別なとこに家を買うなり借りるなりしてさ」


 女の子と同じ屋根の下か……。それは確かに悪くないかもしれない……。

 養子うんぬんは正直興味ないが、年齢イコール彼女いない歴の俺にも、これを機に春が来るかもしれない。


 ほんの僅かな下心を抱きつつネットで調べると……相談所なるものを見つけた。


 必要書類は身分証明書。学生証でもいいのかな?それと資産が分かるもの……これは通帳でいいか。施設利用料を当日いただきますとも書いてあるな。


 あぁ?1000万だと……。


 これ普通におかしくないか?どう考えても桁間違えている気がする。

 とりあえず明日は学校休みだし……試しに話を聞きに行ってみるか……。別に養子には興味ないけど、男はいつまでも探究心を忘れてはならないって名言もあるしな。


 母さんにネットバンキングが使えるかだけは後で確認しておこう……。

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