推しが死ぬ
日の暮
第1話 アイドルの推しとの別れ
_____20歳で、死のうって決めてた。
高校卒業して、特に目標なんかもないまま、何となくで周りから背中を押されて決めた職場で働いて。
面白味も何もない田舎に住んだまま、週末はキラキラした世界に夢を見るだけの人生。
若い頃は良かったなあ、なんて、あの頃に戻りたいなんて思える程の思い出なんか何もない私はただ空っぽのまま年を取り続けた。
年齢はもうすぐ四捨五入したら30歳。彼氏は数年前に別れてから出来ていない。極めつけに男友達はいない。
周りが結婚だと色めく中、ただ誰か一人に身を委ね続ける勇気も無く、手軽に熱中していられるモノを求めて推し活をし続けているダメ人間。
だって推しって最強なんだよ、私が勝手に好きになって、勝手に離れていい。
画面越しに愛を囁いてくれて、私と一生交わらない視線を向けてくれる。
なんて手軽で、簡単な愛情なんだろう。そして何も得られない、虚しい愛情なんだろう。
現実なんか見たっていいことない。どうせ私への期待は私自身が学生時代に捨ててきてしまったのだ。
今幸せだと感じられたらそれでいい。辛くなったら目を逸らせばいい。
そうしていつかこの人生を痛みもなく簡単に終わらせてくれる人が目の前に現れるのを、何もしない私はずっと期待しているんだ。
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私の長年推してきた1番の推しが海外に活動を移して方向性を変えると発表があって、2週間程が経った。
スマートフォンの画面には、キラキラした現役自体の王子様系アイドル、といった風貌とは打って変わってタトゥーだらけの体で髪の毛をオールバックにセットした変わり果てた推しが写っている。
正直発表があってからは、もうアイドル活動をする推しは見れないんだと思うと悲しくなって、気持ちがごちゃごちゃになってしまって泣き崩れた。
ただ、三日三晩泣いて病んで、それでも当たり前だけれど現状が変わるわけではない。整理しきれない気持ちは次第に推しを非難する気持ちに変換された。
__あの英語力で?あの顔面で?アイドル以外、価値なんかないでしょ。
私は良くも知らない「推し」という存在に理想を抱いていた。ステージ上の推しと視線が合ったと錯覚で喜び、気まぐれなファンサで死ぬほど幸福感を得られたような気がした。
グッズを沢山買って、日々を費やして、私の人生は貴方のためにある。私は貴方がいないと生きていけないってそう思い込んで。
理想を詰め込んで肥大した気持ちは、今弾け飛んで宙に散らばり、いつか消え失せる。
「きもちわる....」
届いたばかりの推しのDVDを床に放り投げて、立ち上がる。もう私の理想じゃない貴方に用はない。次の推しを探さなければ。
スマートフォンに手を伸ばして、私はXの更新され続けるタイムラインを眺め始めた。
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