第9話 交渉

(ふう、これでようやくこの組織のボスとお話ができます、了承してくれるといいですが…最悪脅してでも協力してもらわねば)



廃倉庫の中を歩きながらオノダはそんなことを考えていた。



「ここがボスのいる部屋です」

「御苦労」

「もう…私も帰っていいですか?」

「そうだね…帰ってもらって構わないですよ」



そう言うと、リーダー格の男は今来た道を全速力で戻っていった。



「さて、行きますか…」



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部屋の中はスラムの廃倉庫とは思えないほど綺麗であった。



部屋の中央には大きなソファーがあり、筋肉質な大男が座っていた。



「てめぇは誰だ?」

大男がいきなり入ってきたオノダにびっくりしてソファーから立ち上がった。

「私はしがない科学者ですよ、それよりあなたがここの組織のボスで間違いありませんか?」

「そうだが、お前は何しに来た?」

「私のスポンサーになっていただけないかと…」

「どういうことだ?」

「私はあなた方の組織を拡大を手助けする、ただしそれは生体兵器の為、人体実験が必要となります。しかし人体実験など国の監督する国立研究所でなければ行うことも難しい…だから私は生体兵器を提供する、あなたは実験用の人間を確保する。いかがですか?」



大男は危害を加えに来たわけじゃないとわかると、ゆっくりソファーに座った。



「いくつか質問がしたい」

「どうぞご自由に」

「まず、本当に用意するのは人間だけでいいのか?」

「いえ、正確に言えば実験用の部屋と食事ですね、私はこの都市に家を持っていないので」

「人体実験の人間は攫ってこいってことか?」

「おっしゃる通りです。付け足すならば男女同数用意できれば開発は早く終わるでしょう」

「最後の質問だ。お前の狙いは何だ?」

「何だと言われましても、ただの親切心ですよ」

「嘘だな…で?本当のところは何が狙いなんだ?」

「私が本当にやりたい実験をするとなると正直に申し上げればこんな組織の規模の支援じゃ足りません。国規模で後ろ盾が必要になります。今回は国に自分を売り込むときの為の実績作りの契約です」

「わかった…交渉成立だ」

「良い判断をしましたね」



二人は固い握手をした。



「それで、交渉成立したということで本格的に実験の内容の話をしたい」

「えぇ、こちらとしてもそういうことは早い方が助かります」

「いつから実験を始める?」

「研究室さえ用意していただければ今日からでも始めますが?」

「分かった、二時間後またここに来い。それまでに部屋を確保して掃除も済ませておく」

「おお!判断が速い人は好きです!では、今日から泊まり込みで研究開発を進めましょう!」



そうして、私は一旦宿に帰宅した。



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その日の夜からオノダは実験を開始した。



「トントン」

闇組織が用意したオノダの部屋を誰かがノックする。

「どうぞ」

すると入ってきたのは闇組織のボスであった。

「貴方でしたか。で、ここには何用で?」

「俺の名はオルドだ、今度からそう呼べ。用は人体実験用の人間を男女3人ずつ連れて来てやった。元々奴隷商人に売るはずだった奴らだ」

「おお、素晴らしい!ありがとうございます!オルドさん」

オノダは興奮気味に言った。



(異世界に来てまだ3日ほどなのにもう人体実験できるなんて!

私は天才どころか、神にも愛されているのでしょうか!)

薬をキメてるような顔をしながらオノダは部屋の中をスキップした。



そんな私を連れてこられた男女6人が涙を流しながら見ている。

「おっと、すみません。私としたことが。一応あなたたちの言い分も聞いておきましょう」

オノダは男女6人の口に騒がないように付けられているガーゼを一人一人外した。

「わ、私たちをどうする気なの?」

その中でも一番気が強そうな女がオノダに尋ねる。

「今はまだ、貴方達を具体的にどうするかは決めてはいませんよ」

「決まったら?」

「もちろん、自分が決めた通りにやるだけです。貴方達は私の『マウス』なのですよ」

「ど、どういう意味よ?」

「マウスとは実験動物としておそらく一番使われている動物です、つまりあなたたちは私の実験動物ということですよ」

「そんなことしたら国が黙っていないわよ!」

女が声を張り上げてオノダに言う。

「だからこその闇組織ですよ、行政の名のもとでそんなことを表立ってできるわけないじゃありませんか」

「さて、これからあなた方には私の問診を受けていただきます。その後はこちらの服に着替えて下さい」

そういって背後から真っ白い清潔なシャツを取り出した。



「念のため言っておきますが逃げても無駄ですよ。あなた方の居場所なんて私には筒抜けですから。さっ、早く服を脱いで着替えて下さい」



その後、着替えさせられた男女6人は研究室の隣の鉄格子の檻がある部屋に入れられた。



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次の日



「おはようございます。今日はいい天気ですね!」

オノダは笑顔で研究室の隣の『実験動物』用の部屋に入ってきて言った。

「嫌味か何かなの?この部屋に窓なんてないんだかから、わかるわけないじゃないの」

「それもそうですね、失礼しました」

「さて今日から3つの実験動物用のスケジュール通りに動いていただきますので、そのつもりで」

檻に入った6人の顔が固まった。

「な、何よそれ?」

「名前の通りですよ。一定の運動などの一般人と同じスケジュールの方、何もしない方、ひたすら働き続ける方の3つに分かれてもらいます」

「何のために?」

「様々なデータを収集する為ですよ」

そう言うと女は黙った。



その後、オノダによって男女3組に分けられ、スケジュール通りに行動させられた。






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