ドーム それはあらゆる願いを叶える

否石

第1話 ドームの発生

「おはよう」


「あ、おはよー」


 視界の端に黒髪ボブの少し小さめな身長の女の子が映る。

 あ、もういるじゃん。珍しい。

 鞄を机の上におき、俺は松田蓮火に挨拶する。

 松田は声を弾ませて返事をした。

 ニヤリと松田は俺に笑顔を向ける


「ねえ、今日の宿題やった?」


「あーそりゃねえ」


「やり、ちょっと見せて!」


「えーーー」


 宿題くらい自分でやれと俺は松田を白い目で見る。

 駄々をこねるように足をばたつかせる松田。


「写すために急いで学校きたんだよー。これじゃ無駄になっちゃうじゃん!」


「勝手に無駄にしてなよ」


「えー」


 ブウブウと文句を垂れているが、さてどうしようか。

 すると、


「高校生にもなってそれはどうなのよ」


「ん? 楓じゃん、おは」


「おはよ」


 ちらりと声がした方を見ればそこにいたのは木下楓だ。

 このクラスの委員長であり、名ばかりではなくきちんとクラスを統率するタイプ。

 キラリと光る眼鏡と艶やかな長髪がトレードマークの女の子だ。

 友人の一人である。


「勇気くんもおはよ」


「おはよ」


 挨拶を交わし、話は先程の宿題を写すかどうかに戻る。


「ねえ、宿題はー?」


「えー、まじてみせんの?」


「だって昨日部活終わりに疲れて寝落ちしちゃってできなかったんだよー、気づいたら朝。良いじゃん、今日だけだから!」


 確かに普段は文句を言いつつなんだかんだやってきてるタイプなんだよね。


 今日だけ忘れたのなら見せてもいいか。

 こういうのは持ちつ持たれつってことで。


「あー、仕方ないなあ」


「やった」


 はにかむように笑顔を浮かべる松田

 木下は呆れたようにマツダを見ていた。


「はい」


「ありがとー」


「あざす!」


「ん?」


 見れば差し出したノートを受け取ったのは横から割って入った大柄の坊主の男。

 土屋大地だ。

 野球部の彼は今日も朝練の後だったのだろう。

 シーブリーズの匂いが漂っていた。


「ちょっとあたしのノート返してよ!」


「いや俺のな? てか大地、お前も忘れたわけ?」


「うい、普通に忘れてたわ。ノート見て思い出したぜ。サンキュな」


「勝手に借りんな」


 聞く耳を持たずへへへと笑ってノートを持ってく大地に松田も席を立ってノートを取り返しに行った。

 残された俺と木下は呆れたように彼らを見送る


「いいの?二人も写したら先生も気づくかもしれないわよ」


「確かになー。けど片方にしか見せないのもあれだし。……木下が松田に見せてくれる?」


「無理ね。推薦って一年生からの素行も見られるらしいのよね」


「え? 今から進路考えてんの? さすが委員長」


「委員長やめて」


 今は俺たちは高校一年の六月。

 普通の高校生は親睦を深めるための遠足も5月に終え、そろそろ始まる夏休みに思いを馳せるだけってのが普通だと思うけど木下はもう進路の事を考えて行動してるらしい。


 行く大学さえ決まってない俺とは雲泥の差だね。

 さすが委員長。

 意識と行動がガチ委員長。


 俺は一つの机で並んでノートを写す窓際の二人を見て、一限で回収されるから早く写してくれないかなと思った。


 だから、たぶん、二人やクラスの大半に先んじてそれを見つけた。


「なんだあれ、光?」


 木下も俺の声につられて俺の方を見る。

 俺の視線が外に向けられているのに気づき、同じように窓の外を見た。


 木下も俺と同じく固まった。

 それはそうだろう。なんたってあんなものが空に向かって伸びていくんだから。


 それは光の柱だった。


 緑色に妖しく輝く光が空に伸び、天に届いたと思えば大きく空に広がっていく。


 いや、ちがう。


 あれはドームだ。ある一定の範囲を囲む様に光が地面に降りてくる。


 それはこの校舎を超えて街全体を覆うように広がっていた。


「なにあれ、やばくない?!」

「わ、すご」

「え、花火??」


 喧騒はクラス中に広がり、みんなが空にスマホを向ける。

 宿題を写していた二人もぽかんと口を開け、外を見ていた。


「ねえ、あれ何だと思」


「……え?」


 委員長の声が途中で止まる。

 聞き逃したのかと俺はとっさに委員長の方に視線を向ける。

 俺は疑問の声を漏らした。


「え、木下?」


 ドサリと委員長が持っていた鞄が地面に落ちる。

 鞄が床に転がった。だけど、それなら鞄を持っていた木下はどこに行った?


 視線の先には木下はいなかった。


 まるで先程話していたのは幻だとでも言うように、木下の痕跡はどこにも見当たらなかった。

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