18. 崩落

「小癪なマネを……」


 苛立ったジャコーインは、斬撃の術を駆使してネジヅタを切り離しにかかった。

 だが、その切り方はネジヅタの特性を考えない思慮を欠いたものだった。切られたツタの端々が絡まるべきものを求めて踊り狂い、その一部がジャコーインの首をとらえたのだ。


「!」


 たちまち魔導僧の顔に苦悶の表情が浮かび、術を施していた全ての力が途絶した。

 体の自由を取り戻した俺とドルイエは、ジャコーインの元へ駆けつけたが、手遅れだった。

 魔導僧は必死に何かの術を施そうと呪文を唱えているようだったが、その声は形にならず、ひたすら無意味なあえぎとなって洞にこだました。

 助けてやろうにも、この状態のネジヅタに触れればこちらも絡みつかれて始末に負えないこととなる。俺たちの前でジャコーインはネジヅタに締め付けられるまま、白目を剥いて空気をむさぼり続け……


……ついに絶命した。


「あっけないものだな……」


 かつての仲間の亡骸を見下ろしながらドルイエは言った。


「ドルイエ……」


 背後から魔導士を呼ぶ声がした。

 見ると戦士クマラハは仰向けに横たわったまま、起き上がることもできずにいるようだった。

 そちらへ向かいながら、俺はドルイエに聞いた。


「ジャコーインの術はもう無効になったのだろう?」

「だから、クマラハも力を失ったのだ。あいつはジャコーインの術と薬の力だけで生かされていた……不憫なことにな……」


 その言葉通り、クマラハの皮膚は完全に色を失い、顔には濃い死相が浮かんでいた。


「ドルイエ……すまなかった……感謝する……奴から解放してくれて……」

「クマラハ、我らはあの巨人を倒さねばならぬ。お前の強弓はまだここにあるのか?」

「ある……そこの横穴の奥に……」


 出し抜けにクマラハはかっと目を見開き、最後の力を振り絞って告げた。


「あ、あの巨人な……あの巨人、実は……」


 そこまでだった。

 力尽きたクマラハの肉体は黒い瘴気となって蒸発し始め、あっという間によるべないされこうべだけが残された。


「クマラハは……何を言おうとしたんだろう?」


 俺の問いに答えるかの如く、突然凄まじい轟音と震動が俺たちを襲った。

 頭上の岩肌が割れ、土砂が降り注ぎ、洞全体が崩壊し始める。

 俺とドルイエは洞窟の方へ退避しながら、崩れた頭上から光が射し、それを縫って巨大な赤い腕が現れるのを見た。


「奴だ!」


 主を失った巨人の咆哮が、洞窟の崩落音と共に俺たちの耳をつんざいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る