17. 逆襲

「ジャコーイン!」


 ドルイエが俺の肩から手を外し、魔導僧に向かって印を結んだ。

 見えない力が俺たちとジャコーインの間でぶつかり、弾ける。

 ジャコーインの高笑いが洞に響き渡った。


「どうした、ドルイエ。破閃光術デルミナーを撃つがいいぞ。封縛術などでわしを捕らえるつもりか。いずれにせよ、疲れ果てているおぬしの力ではどうにも出来ぬがな!」


 ドルイエの意図はわかっていた。

 ジャコーインを捕らえて出すべきところへ引き出し、クマラハの証言を覆そうというのだろう。

 だが、もう俺にはどうでもいいことだった。

 ささくれ巨人の伝説が忘れ去られても、親父が生き返るわけではない。俺の中で親父の名誉は回復したも同然だ。そしてドルイエへのわだかまりも、すでにないものと言ってよかった。

 父の仇は、ささくれ巨人でもドルイエでもなく、ジャコーインだ。奴に一矢報いれば、俺の宿願は果たされる。


「くっ!」


 見ると、ドルイエも俺と同じように体の自由を失いかけているようだった。

 ジャコーインの封縛術は、確かにすごい力を持っている。

 このままでは……


「うれしいことだな。伝説級の魔導士と若々しい戦士が、手駒として我が手に入るとは。末永く、我が野望の実現に貢献してもらおうか。第二の呪詛王として世に君臨するための、な」


 術に抵抗しながら、ドルイエがふっと笑った。


「ずいぶんと大それた夢を見ているようだな……己の器に見合わぬ野望は身を滅ぼすぞ。あの時も、自分の力を見誤ったのだろうが。巨人を手に入れたはいいが、わしとレイ・ドを生かしたのは命取りと言っていい過ちぞ!」


 ジャコーインの笑みが少し小さくなった。

 その手が再び瓶を傾けて、盃を満たす。


「へらず口を聞いていられるのも今のうちだ。この隷命酒メキイラの味におぬしの自由が完全に潰えるまでのな……」


 俺とドルイエの体は少しずつジャコーインの方へ引き寄せられていった。

 その時、俺の脳裏に一つのひらめきがあった。

 もしかしたら、ドルイエの考え通り、ジャコーインを殺さず捕らえられるかもしれない……

 俺は魔導士にささやいた。


「ドルイエ……一瞬でいい。俺の体にかかっている術を断ち切れないか?」

「何をするつもりだ? すぐ同じことになるだけだぞ」

「さっきより腕が多少動くようだ。二人を抑えている分、力が弱いのかもしれない。隙をつくチャンスはある!」

「よし……三つ数える。三で行け」


 俺は手をマントの後ろに伸ばし、足に力を入れてその時に備えた。


「一……二……三!」


 ドルイエがひざをついて手を挙げ、俺の束縛を断ち切った。

 俺は逆に立ち上がると、全力で後ろの洞窟に向かって駆け出した。


「逃さぬよ!」


 すかさず、魔導僧の見えない力が俺の体を捕らえる。だが距離をとったせいで、その力はさっきまでほど強くない。

 そしてもちろん、俺には逃げるつもりなどなかった。

 俺はマントの中から油圧式投擲筒グリューブを抜き、装填してあったフックを魔導僧の顔に向けて放った。

 防御に長けると自負していた通り、ジャコーインは難なくその攻撃を逸らし、フックは奴の背後の岩壁に突き刺さった。


「飛び道具など……」


 だが、ジャコーインは次の俺の行動は予測出来なかった。

 俺はウィンチからネジヅタのロールを外し、ジャコーインに向けて投げつけたのだ。

 ロールはジャコーインの足元に落ち、ツタの一部が奴の体に触れた。

 ネジヅタはジャコーインに触れたことで刺激を受け、ロールのシャフトではなくその体に巻きつき出した。

 ネジヅタの巻きつく力は凄まじい。たちどころに、ジャコーインはネジヅタによってがんじがらめとなりかけた。


 そして、事故が起こった。

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