16. 真相
身動きできない俺は、膝をついた姿勢のままずるずると魔導僧の方へと引きずられていった。
僧侶は懐から何かの瓶と小さな盃を取り出し、中身を注いで俺に差し出した。
恐らく、あの戦士の自由を奪っている薬と同じものだ。
「心配はいらぬ……奴の様子を見ただろう? 元気そのものだ。健康を害することはない……」
そして、一度飲み下せば健康な操り人形に成り果てるわけだ。
僧侶は盃を俺の唇に当てて傾けた。
俺は歯を食いしばって薬の侵入を防ごうとしたが、見えない力が俺の顎をつかんで引き下ろそうとした。
口に含んだところで止めたかったが、見えない力は喉にも働きかけてきた。
だめだ……
その時、別の大きな力が俺の背後から体を引っ張り、洞の入り口まで一気に引きずり戻した。
一瞬、口にかかっていた力から解放された俺は、含んでいた薬をべっと吐き出した。だが、体は術による束縛から解放されていない。
「ジャコーイン!」
俺の傍に立った魔導士ドルイエの声が洞に響いた。
奥に立つ僧侶は一瞬、驚きの表情を浮かべてからニヤリと笑って見せた。
ジャコーイン……ドルイエや俺の親父と共に、あの巨人討伐に参加していたという僧侶が……
「これは……偉大なる七芒星の魔導士ドルイエ殿だったか」
「貴様……生きていたとは……」
治癒術式で回復しかけたとはいえ、ドルイエの声にはまだ疲労の色が濃厚だった。
「ドルイエ……」
俺に蹴られて倒れ伏していた幽鬼の戦士が立ち上がった。
「ドルイエ……俺を殺してくれ……」
「クマラハ……お前も……」
クマラハ!
この幽鬼も巨人の討伐隊にいた戦士だったのだ。そして、俺の親父が命を落とすきっかけを作った密告者……
「そうか……そうだったか。何もかも貴様が仕組んだことだったのだな?」
ドルイエは俺の肩に手をかけて言葉を続けた。これからの話をよく聞け、と言うかのようだった。
「今の様子を見て思い出したぞ……あの日……あの時、巨人討伐へ向かう前に、わしらは盃を交わした。酒はジャコーイン、貴様が出したのだったな。あれに一服盛ったのだろう。わしの力が衰え、
俺はかろうじて動く首をめぐらして、魔導士と僧侶の顔を見比べた。
ジャコーインはドルイエの言葉を否定することなく、相変わらず酷薄な笑みを浮かべている。
「ありがたく思ってもらいたいものだな。本当ならお前たちは皆わしの傀儡となり、巨人を退治した後で始末されるはずだったのだ。助かったのは、薬にかけるわしの術式が未熟で、中途半端な……魔導士の力を弱める効果しかもたらさなかったからだ」
「本当なら、巨人退治はお前一人の手柄になるはずだったわけだ……だが失敗した」
ジャコーインの笑みが大きくなった。
「失敗? これは僥倖だったよ。おかげで退治ではなく巨人を眷属化する手段が手に入った。偶然ではあったが、わしはあの時、自分に呪詛神タイバローブネの加護があると確信したね」
「どうやって……」
「それは明かせぬ。だが、なんとか思い通りになった巨人は精強な軍団に等しかった。どんなに固く守られた村も町も城塞すらも、あいつの力と炎の前には砂上の楼閣だった」
俺は思わず口を開いた。
「巨人が暴れたのは、ささくれのせいじゃなかったのか!」
「ささくれ巨人の伝説か……なかなかよくできた話だろう」
ジャコーインははっきり声に出して笑った。
「わしはかつての仲間がまた巨人に挑戦してくるのを怖れた。本当なら、奴らにはそれだけの実力があった。特に戦士レイ・ドには何としても消えてもらいたかった。そこで一計を案じたのだ。愚かなクマラハを傀儡に仕立て上げ、領主の元で全てがレイ・ドのせいだと証言させたのだ。それで牢獄にでも入ってくれればよかったが、領民どもがきれいさっぱりと始末をつけてくれた。巨人を思い通りに暴れさせるのは簡単ではないが、人間は流言ひとつで想像以上に荒れ狂う。面白いじゃないか!」
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