15. 魔導僧

「ほう……ネズミがここまで入り込んだか」


 僧侶が言った。

 あざけりと警戒がないまぜとなった口調だった。


「入り口は固く封印していたはず。術の心得があるか……いや、おぬし自身ではないな? 連れの男が魔導士だったか」


 頭上で受け止めた剣が、さらに力を得て俺に近づいてきた。

 見ると、僧侶がゆっくりと手を挙げるに連れ、その力が増しているようだった。


「目の前で消え失せたのも術のせいだったか。あの短い間にここをつきとめて飛んで来るとは、かなりの手練れ……だが一緒にいないところを見ると、巨人の炎で深傷を負ったようだな?」


 もう間違いない。

 この僧侶が巨人に憑依し、俺たちを追い詰めていたのだ。


「俺を殺してくれ……」


 幽鬼のごとき戦士がまたつぶやいた。

 その風貌や言葉とは裏腹に、ものすごい力で剣を押し下げてくる。

 視界の隅で、僧侶が皮肉な笑みを浮かべるのが見えた。


「その男の頼みは聞かずともよいぞ。もう何年もここで用心棒として使っているが、まだ役に立っているでな。術と薬のせいで本当の実力以上の力も与えてあるし、死なれるのは惜しい」


 つまり、この戦士も巨人同様に僧侶の傀儡くぐつというわけだ。

 人間にこんな扱いをする魔導僧に、俺は怒りを覚えた。だが、このままではその怒りをぶつけることも出来ない。


「しかし、ここらで用心棒を入れ替えるのもありだな。見ればおぬしはかなり若いようだ。うまくすれば、こいつをこのまま使い続けるより長持ちするというものだ。ひとつ、採用試験としてみるか」


 僧侶の言葉に楽しげな響きが加わった。

 それが俺の怒りを煽り、力も呼び起こす。


「俺を殺せ……」


 腕をいっぱいに伸ばし、幽鬼の顔が眼前であらわになるところまで剣を押し上げて、俺はそこに渾身の頭突きを喰らわせた。


「!」


 相手がひるんだ隙に僧侶に襲いかかれればよかったが、幽鬼の戦士はすかさず体勢を立て直して三度みたび斬りかかってきた。

 今度は組み合いにならぬよう慎重に間合いを取りながら、俺はギムファーで敵の攻撃を弾き返し続けた。洞の岩肌に、激しい金属音がこだまする。


 やがて俺は、一つの事実に気づいた。

 確かに戦士は無理矢理に並外れた体力とスピードを与えられていたが、剣の方は何も配慮されていないようだった。ギムファーの鉄棒と打ち合う内に、その刃があらぬ音を発し始めているのを俺は聞き逃さなかった。


 俺は気合いと共に剣の一箇所に集中して連打を浴びせ、ついにその刃をへし折った。

 すかさず幽鬼の腹に蹴りを入れて距離を取り、僧侶に向かって突進した。


 が……


 一瞬で俺の動きは封じられた。

 こちらに掌を向け呪文を詠唱する僧侶の前で、俺は大きな力によって膝をつかされた。


「見事だ。合格だよ。わしは攻撃系の術式に疎いが、防御と束縛系には自信がある。それと、心霊操術ならば誰にも引けを取らぬ。さて、おぬしもわしの忠実な傀儡となってもらおうか……」

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