12. ある魔導士の蹉跌

 ドルイエは俺に告白した。


 約二十年前。平原の領主に依頼され、ドルイエと俺の親父…もう一人の戦士クマラハと、僧侶ジャコーインの四人は、巨人の討伐に向かった。

 湖畔の森に潜む巨人を発見した彼らは、作戦を立てた。


 ドルイエが僧侶の補助を得ながら破閃光術デルミナーで巨人を牽制する。

 その隙を突き、クマラハが強弓で巨人の後頭部に荒縄を繋いだ矢を撃ち込む。

 荒縄の一端を握った親父が木から巨人の背に飛び移り、耳の後ろまで這い登って魔剣で〈核〉を突く、という段取りだった。


 しかし、牽制の段階で計画は崩れかけた。


 ドルイエの放った破閃光術デルミナーが、思ったほどの効果をあげなかったのだ。

 あまりに巨大なその巨人は感覚も鈍く、攻撃に対する反応が想定したタイミングと大きくずれていた。

 それにも増して……


「わしの術が未熟だったのだ……」


 ドルイエは一行の中で最も若かった。

 魔導士としての経験も浅く、この巨人退治で一躍名を挙げようと勇んでいたのだった。


 しかし、その思惑は巨人の圧倒的な力の前に潰えた。

 巨人は魔導士と僧侶の姿を発見すると、炎を吐いて攻撃してきた。

 ドルイエは、背後に控えていた僧侶ジャコーインが恐れをなして逃げ去るのを見た。


 次は自分の番だ……

 

 恐怖にうろたえたドルイエは、逃げる途中で転倒して足を痛め、巨人の手に捕まりそうになった。

 そこへ割って入ったのが、俺の親父だった。

 親父は〈核〉を突くための大事な剣で、ドルイエに迫っていた巨人の指を突いた。


 親父はドルイエの危機を救ったのだ。


 剣に込められた魔力は巨人に激痛をもたらし、怒り狂わせた。

 巨人は刺された手を振り回したが、親父は懸命に剣にしがみつき、放そうとしなかった。

 そうこうするうち、ついに剣が折れ親父の体は墜落した。


 巨人は手当たり次第に森の木々を叩き折り、そのうちの一本に登ってた戦士クマラハもどこかに飛ばされてしまった。


 荒れ狂う巨人はそのまま森の奥へと姿を消した。

 ドルイエは負傷した親父を探し出し、回復魔法で手当てを施した。

 逃げ延びた二人は捲土重来を誓い合い、新しい仲間を得たのちに合流しようと約束して別れた。


 そして、指にささくれを持った巨人が人里に出て暴れるようになった。


 ドルイエは一刻も早く雪辱に向かいたかったが、ある日ささくれ巨人の凶暴化の原因となった戦士が領民たちに殺されたという話を聞いた。生き残っていた戦士クマラハが、全ての原因は親父にあると領主のもとで証言したからだった。


「なぜクマラハが事実と異なる証言をして、親父さんに責任をなすりつけたのかは分からぬ……だが親父さんは決して過ちでささくれ巨人を凶暴にしたのではない。わしを救うために勇敢に戦った、その結果なのだ。だから全ての責任は……わしにあるのだ……」

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