11. 嘘

 魔導士が苦しげな吐息を漏らした。


「ここは……ここが……ぬしの穴だ……」

「ぬし?」

「あの……ささくれ巨人の主だ……」


 ドルイエは絞り出すように言葉を続けた。

 一言口にするのに、かなり力を費やしているようだ。


「空位転術の……飛び先を探す時に……気づいた……あの巨人を縛っている霊波に……それを逆にたどってここへ……」


 魔導士の声は徐々に弱くなっていく。

 俺は膝をついて魔導士の顔に耳を近づけて聞いた。


「その霊波の源がここにあるのか?」

「そうだ……魔導士か、呪術師か……あの巨人を操っている……あるいは憑依している何者かが……主がこの洞穴の奥に……いる……」

「そいつを倒せば、巨人も死ぬのか?」

「いや……だが恐らく普通の、愚鈍な巨人に戻るはずだ……そうなれば倒すのは容易い……」


 俺は立ち上がるとかすかな光を送ってくる洞穴の奥に目を凝らした。

 ドルイエの言葉通りなら、ここは巨人の「主」を倒すのが先決に違いない。

 だが、俺にはその前に一つ確かめておかなければならないことがあった。


 俺は再びしゃがみ込んで魔導士の顔を覗き込み、単刀直入に切り出した。


「ドルイエ……あんたは嘘をついているな」

 

 魔導士が少し目を見開く。

 

「あんたは、ささくれ巨人を見たことがないと言った。だが俺は巨人の顔をかすめ飛んだ時に気づいたんだ。奴の顔には七芒星の形をした火傷のような跡があった。あれは……あんたの杖から破閃光術デルミナーを食らった跡だろう。」

「……」

「七芒星の杖を持っている魔導士はあんただけだ。あんたは、あいつと戦ったことがあるんだ。かなり昔に……」


 そう言ってから、俺は一つのあり得るべき事実に気がついた。


「もしかして……俺の親父がいた討伐隊の魔導士は……あんたじゃなかったのか?」


 ドルイエはぎゅっと目をつぶると、力を振り絞って半身を起こそうとした。

 俺は一瞬躊躇してから手を伸ばし助けようとしたが、彼は片手を挙げてそれを制した。


「あいつの顔にそんなものが……気づかなかったな……年を経るにつれて、浮かび上がってきたものかもしれん……」


 俺は黙って魔導士が事実を明かすのを待った。


「いかにも……わしはお前の親父さんとともに、あの巨人の討伐に向かった魔導士だった……」


 一瞬、ドルイエは俺と視線を交わし、すぐにうつむいて言葉を続けた。


「そして……あいつを仕留め損なったもの……親父さんが殺されたのも……すべてはわしのせいなのだ……」


 無音の衝撃が、俺の胸中を激しく震わせた。

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