6. 足跡

 俺たちは話をしながら、小高い丘の上に出た。

 吹く風の冷たさが、一層強くなった気がする。


「さて……」

 七芒星の魔導士ドルイエは、土が一段へこんだ窪みのヘリに腰を下ろした。

「お前の動機とやる気のほどはよくわかった。次は戦略だ。わしが術をもってうまく巨人を牽制できたとして……お前はどうやって巨人の〈核〉を突く?」


 俺は背中を覆ったマントの奥から一丁の飛び道具を取り出した。


「こいつが頼りだ」

 ドルイエが眉をひそめる。

「銃のようだが……火薬は聖府が禁制品にしているはずだな」

「火薬は使わない。西岸の工房都市で作られた油圧式投擲筒グリューブだ。空気に触れると爆発的に膨張する油脂の圧力を利用して物を飛ばす。これで巨人の首にフックを打ち込み、ツタで耳まで一気に登る」

「ツタ?」

 

 俺は腰のベルト回して仕掛けをドルイエに見せた。


「南端半島の密林に生えているネジヅタを利用したウインチだ。伸び切ったネジヅタは刺激を与えると、ものすごい勢いで枝や棒切れに巻きつこうとする。その力で人一人くらいなら簡単に持ち上がる。簡単に切れることもない」

「なるほど……」

 魔導士は懐から嗅ぎタバコの袋を取り出し、風に飛ばされないように一つまみを手の甲にのせて吸い込んだ。

「諸国をかなり渡り歩いたようだな。こんな珍しい仕掛けを用意している巨人狩りに会ったのは初めてだ」


 珍しい、という言葉が果たして賛辞なのか揶揄なのか……

 俺はドルイエが巨人狩りの相棒として自分を信用してくれているのか、確かめたくなった。


「俺はこの仕掛けで巨人を仕留めてきた。これでは不安が残る、と思ってるのか?」


 ドルイエはふうと嗅ぎタバコの香りを吐き出して言った。


「不安ではないが、お前がどれくらいそれをうまく使いこなせるかは見ておきたいところだな」


 それなら任せてもらいたい。

 俺はグリューブの口にフックを差し、油脂弾を装填すると斜め上に向けて引き金を引いた。

 フックはネジヅタを引っ張りながら飛んでいた高原鴉に命中し、獲物と一緒に墜落していった。

 ウィンチをバンと叩くと、ネジヅタはたちまちウインチの芯になっているシャフトに巻き付き、あっという間に高原鴉を俺の手元に運んできた。


「トリあえず……今日の晩飯が手に入った。これくらいには使えるわけだ」

「なるほどな」

 納得がいったのか、ドルイエが口元を歪めて笑みのような表情を浮かべた。


「そのツタはどれくらいの長さなのだ?」

「おおよそ七十シャック(約二十メートル)ってところかな」

「ささくれ巨人はでかいぞ。首元まで届けばいいが……」

 ドルイエは立ち上がって土の窪みから出た。

「あんたは、ささくれ巨人を見たことがあるのか?」

「いや? だがおおよその大きさの見当はつく」

「どうやって?」


 今度ははっきりにやりと笑いながら、魔導士は杖の先の七芒星で俺の足元を指して見せた。


「お前が今立っているその土の窪みな。人の背丈の三倍はあるだろう。それが、ささくれ巨人の足跡だ」

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