5. ある戦士の蹉跌

 そもそも、巨人とは人間ともいかなる動物とも違う生き物だ。


 あるものは石で出来た巨像であり、またあるものは朽木や石塊といった無生物が巨大な人の形に集まったものだ。それらが何者かの呪術によって生命を得、その者の意志通りに動き出すのだ。

 はるか昔、呪詛戦期と呼ばれる時代には、呪術師の数と相まって多くの巨人が造られた。そして主である呪術師が駆逐されるに連れ、寄るべなくさまよい人間や村々を襲う無頼の巨人が増えていった。


 ささくれ巨人は、そんな無頼巨人の中でもことさら大きく、また強い力を持ち危険な存在だった。

 平原のとある領主はこの巨人を駆逐するべく、攻撃系の術式に強い魔導士、防御系の術式に優れた僧侶、それに二人の戦士たちを雇い入れた。


 その戦士の一人が俺の親父、巨人猟師バイケンの息子レイ・ドだった。


 俺の家系は巨人狩りを生業とする戦士の一族だった。

 親父も子供の頃から巨人狩りの技を叩き込まれ、東岸の国々ではかなり知られた腕の持ち主だった。だから、誰もが親父たち討伐隊の成功を確信していた。


 だが、彼らは失敗した。


 巨人狩りの段取りは通常、魔導士や僧侶たちが術式を用いて巨人を牽制し、生じた隙を狙って戦士がその体によじ登る。そして、あらかじめ魔力を込められた剣で体のどこかにある術式の〈核〉を刺すことで倒すのだ。

 〈核〉の場所を探すのも、魔導士か僧侶の役目だ。


 親父はもう一人の戦士と共に、術式で動きを鈍くさせられた巨人の体に登り、魔導士に指示された〈核〉の場所……右の耳の裏を目指していた。

 ところが、肩まで這い上がった親父はそこで足を滑らせて墜落し、巨人の足元で術式をかけていた魔導士に激突してしまった。


 魔導士はそのまま絶命。

 術式を解かれた巨人は、肩にいたもう一人の戦士を叩き落とし、離れたところで術式を補強していた僧侶を口から放った炎で焼き殺した。

 そして、足元で必死に逃げようともがいてた親父に手を伸ばした。

 親父は巨人の手から逃れるためにやたらめったら剣を振り回し、巨人の指に突き刺したところで剣を折ってしまった。


 剣はそのまま巨人の指に刺さった「ささくれ」となり、その痛みで巨人を大いに怒らせた。封じられた魔力によって、その剣は巨人の手では抜くことが出来ない。


 巨人がささくれと格闘している間に親父は逃げ延びた。


 巨人はささくれによって一層凶暴化した。

 魔力の残滓が取り除けない痛みを生み、その苛立たしさが巨人を大暴れさせた。

 領主の国では村がいくつも焼き払われ、甚大な被害をもたらした。

 

 もう一人の戦士の証言によって全ての原因は親父にあることが暴露され、親父は領主の衛兵たちによって捕縛された。

 親父は牢獄へと引っ立てられる道中、激しい非難の嵐の中で領民たちの手にかかり殺されてしまった。


 こうして「ささくれ巨人のレイ・ド」の名は国外にも広まり、東岸地方で軽蔑の対象として知らぬ者はなくなった……


「そういうことだ。俺はそのレイ・ドの息子。是が非でもささくれ巨人を倒さなきゃ気が済まん。親父と一族の汚名を晴らすために……な」

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