第5話
兄が部屋の掃除をしているのを見ていると、ふと料理を持ってくるとのことを思い出した。
「そういえば、お兄。作ってきた料理とやらは?」
「ああ、渡すの忘れてたな。リビングに置いてあるリュックに入ってるから、勝手にとって冷蔵庫に入れておいてくれ」
「はいよ〜」
そう言って、リビングに向かった。
床に無造作に置いてあるリュックを開けて、料理が入っているタッパーを取り出した。
数は五個もあった。
しかも全部違う惣菜。
『私が妹じゃなかったら惚れてるで、これ』
そんなことを考えながら、タッパーを持って冷蔵庫へ向かった。
冷蔵庫の扉を開け、真ん中の段に入れた。
「ピーンポーン」
「宅急便です」
なぜかインターホンの音が聞こえてきた。
宅急便など頼んでないはずだが、一応玄関に向かった。
「ガチャ」
扉を開けると、運送業のおっちゃんが段ボールの箱を持って待っていた。
「あのー、宅配便なんて頼んでないのですが、、、」
おっちゃんは段ボールに置いてある紙を見て言った。
「いや、こちらで間違いないですね」
「紙見してもらいますね」
おっちゃんから紙を受け取った。
確かに、届け先は間違いなく自宅になっていた。
送り先は、なんと運営事務所からだった。
商品の内容は、情報機器と書いてあった。
代引きでも無いようで、近くに置いてある印鑑で紙に押印をした。
紙をおっちゃんに渡すと、私に段ボールを手渡し、「あざした〜」と玄関前から消えていった。
段ボールを開けると、中にはASMR用の人型のマイクが入っていた。
「へ??」
無意識に声が出た。
兄に見られるわけにはいかないと思い、さっと段ボールに戻した。
玄関の近くに段ボールを置くと、兄が掃除をしている部屋へと戻った。
ある程度掃除が終わっており、兄は床にあぐらをかいてスマホを見ながら座っていた。
兄はこちらが帰ってきたのを見ると、スマホをポッケにしまい立ち上がった。
「さっきのインターホンは?」
「ただの宅配便やで」
私はベッドに飛び込み、仰向けになってスマホを確認した。
連絡アプリを見ると、運営からメッセージが届いていた。
『今日、ASMR用のマイクが届きますので、配信などでご活用ください』
なるほど、勝手に送りつけてきたのか。
私はもちろん、欲しいなんて一言も言ってない。
私は運営に呆れ、メッセージを返した。
『無事に届きました。ありがたく使わせていただきます』
その後、スマホを手で持ったまま横に自由落下させて、リラックスした体勢で天井を見上げた。
兄の方を見ると、こちらを見ていた。
私は再び天井を見上げた。
「悩みか?」
兄が私に聞いてきた。
私は、笑いが少し混じったような笑みを浮かべた。
「まあ、そんなとこかな。せやけど、そんな重大じゃないで。大丈夫」
グッと胸に気持ちを押し込んだ。
「あんまり抱え込みすぎんなよ。いつか爆発するからな」
「うん、分かってる」
数分間、沈黙が続くと、兄が立ち上がった。
「そんじゃ、帰るわ。作ってきた料理、さっさと食えよ」
「分かった。じゃあ、見送るわ」
兄はリビングに行って荷物を取り、玄関に向かっていった。
靴を履き、扉を開けてこちらを向いた。
「じゃあ、また近いうちにくるわ」
「うん。じゃあまたね」
兄は笑みを浮かべながら、玄関を出て行った。
その後、一人になった私は、早速兄が作ってきた料理を温めて食べた。
この味は、実家にいた時に兄がよく作ってくれた味だ。
自然と笑みが溢れた。
ペロリと平らげた後、洗い物をしていると、ふと先程の段ボールが目についた。
洗い物をさっさと終わらせ、段ボールを寝室に持って行き、再び開けた。
中にはやはり、頭の形をしたASMR用のマイクが入っていた。
少しこの製品について調べると、正式名称はヘッドマイクというらしい。
とても高価なものらしく、値段は三桁万円と目が点になるような値段だった。
私はそっと、部屋の中で一番安全な場所に置いた。
そこから、今日の配信内容や時間をリスナーに知らせる旨の内容を発信した。
すぐに返信やイイねがついた。
待ってくれている人がいるという事実が、何よりも嬉しい。
『へへっ』
少しきもい笑いをしながら、デスクの前に座った。
パソコンの電源をつけて、事務所の先輩がいるボイスチャットの部屋に入った。
「でさ〜」
「お、まるるじゃん!お疲れ〜」
「先輩、お疲れ様です〜」
この人は事務所の先輩、天戒のの。
白を基調とした服で、頭に天環があるのが特徴だ。
デビューからは半年で、界隈の中ではまだまだ新人だ。
「待ってたよ!もう、のの先輩と二人っきりで話してたんだから」
「ごめんごめん、遅くなっちゃった」
この子は私の唯一の同期、月乃てすら。
メイド服のような衣装が特徴で、私の衣装の色違いのような服だ。
作っている絵師が同じなので、まあそういうものだろう。
私と同じで、つい先日デビューした紛れもない新人だ。
今はいないがもう一人先輩に、猫咲えるという先輩がいる。
天戒のの先輩と同期である。
「すみません。ちょっと色々用事がありまして、、、」
「前も聞いたけど、色々大変なんでしょ?配信も無理しなくていいからね」
「そうだよ!体は資本、自分を大事にしよ?」
「二人とも、、、」
先輩や同期が温かすぎて、ずっとここにいたい。
運営さえ良ければなあ
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