第3話

 配信では、何やら昨日の配信の感想を話しているようだった。

「改めて、みんな昨日はありがとうね」

「みんなが見てくれたおかげで、無事に収益化出来そうだよ!」

リスナーが“良かったね“、“まるちゃんの努力の賜物だよ“などのコメントをしていた。

 まるるはそのコメントを読んでいるようだった。

「いやいや、みんなのおかげだよ、本当に」

 なんだか含みのある話し方だった。

他のリスナーも気づいたのか、コメントが少し静寂に包まれた。

数秒後、まるるがハツラツとした声をあげて話し始めた。

「もう、そんなにみんな暗くならないでよ!ほら、みんなのこと知りたいから、話そう?」

 そんな配信を見ていると、駅構内でメロディが鳴った。

「三番線ホーム、電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください」

 大架はスマホをポッケにしまい、電車が来るのを待った。

改めて駅のホームを見ると、人は少なく静寂に包まれていた。

 しばらくすると、ホームに電車がやってきた。

 幸い、電車内に人は少なく、座席に座りイヤホンで音楽を聴きながら、自宅の最寄りに着くまで目を瞑っていた。


 おそらく、この時間は夢を見ていたような気がする。


「チッ、さっさと消えろよ」

 まごうことなき昔の記憶。

 忘れたいが、忘れられることのない。

 忘れもしない、虐待を受けていた日々を。

 毎日殴られ、罵声を浴びせられていた。

 相談も出来ずに、18年間耐えていた日々を。


「っっ!!」

 大架は飛び起きた。

ここ最近夢を見ること自体もなかったし、尚更だ。

ましてや思い出したくもない悪夢。

冷や汗もかいていた。

 起きたのと同時に、車内アナウンスが鳴った。

「次は横浜〜。お出口は左側です」

 大架は荷物を持って席を立ち上がった。

電車は止まり、扉が開いた。

 ホームまで出ると、電車はまた次の駅へと出発していった。

大架は改札まで出て行った。

 そこからは家に黙々と帰っていった。

だが、さっきの悪夢のせいで嫌悪感を感じていた。

 足早に帰る事にした。


家に着くと、時間はすでに23時を過ぎていた。

 さっさとシャワーを浴びて、部屋着に着替えた。

カップ麺にお湯を入れて待っている間に、スマホでまるるの配信を開いた。

 幸い、まだやっているようだった。

「そうだよね〜。私もさ、実は兄妹がいてさ〜」

 どうやら家族の話をしているらしい。

 大架からすると、あまり共感できる話はないかもしれないと思ったが、聞いてみる事にした。

「兄妹って言っても、お兄しかいないんだけどね」

「でも、引っ越しとか手伝ってくれて、本当に良いお兄だよ」

「まあ、面と向かっては絶対に言えないけどね」

 なんだか妹にすごく似ているような気がした。

そこからは、他愛のない話をしていたら、配信が終わった。

 時間は午前0時を回っていた。

 明日は休日だが、夜更かしをする事なくさっさと寝る事にした。

疲れが溜まっていたのか、ベッドに入るとすぐに瞼が落ちていった。



 休日は特に目覚ましをかけることもないので、大体は午前10時に起きる。

今日も普段の休日と変わらず、午前10時過ぎに起きた。

 今日の予定は妹に家に家事をしに行くので、妹に電話する事にした。

「あ、お兄?おはやで〜」

「ちゃんと起きてたか、良かった」

「今日こっち来るんやっけ?何時ごろになりそう?」

「午後には着くよ、飯とか作っていくから、ちょっと前後するかもだけど」

「おっけい〜。じゃあまたね〜」

 電話が切れた。

大架は妹に料理を作っていくために、キッチンに向かった。

 ちょっとした惣菜を作り、タッパーに詰めて家を出る準備をした。

一応、家を出る前に妹にメッセージを送っておいた。

“一時間後に着くからな“

 妹からはすぐに返事が帰ってきた。

“はいよー、待ってるわ“

 最寄りから電車に乗り、妹がいる西海大学前駅に向かった。

平日よりも電車に乗っている人数が多く、寿司詰め状態で移動して行った。

 いつ乗っても慣れないな、と思っていたら、いつの間にか西海大学前についていた。

 駅をさっさと出て、妹の家まで歩いて行った。

数十分歩いていくと、やっと妹が住んでいるアパートに着いた。

 2階まで階段で上がり、部屋のインターホンを押した。

「はーい」

 数秒すると、玄関の扉が開いた。

「お兄!入って入って〜」

妹に手招きされるがままに、玄関で靴を脱ぎ、リビングまで歩いて行った。

 中は案外広く、一人暮らしでは有り余るくらいの広さだったのを覚えている。

 引っ越しの際に来た時よりも物が増えていた。

ちゃんと生活をしているんだなと心の中で感じた。

 リビングはある程度片付いていたが、隣の部屋の有り様は散々だった。

一つ疑問に思ったのは、デスクの上にモニターが乗っているのに気づいた。

 流石に気になったので、妹に聞いてみる事にした。

「なあ、これってもしかしてパソコンか?」

「そうやで〜、大学の先輩から貰ったんだ〜」

「そうなんだ。まあ、色々とほどほどにしとけよ〜」

 そう言うと、大架は掃除を始めた。

「いいよ〜別にやらんでも」

「お前一人だと絶対に掃除しないだろ、やってやるからさ」

「お兄がどうしてもって言うなら〜」

「はいはい」

 大架は淡々と掃除を続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る