ささくれと睫毛と永久の愛と
藤泉都理
ささくれと睫毛と永久の愛と
我が国の王族には、大人になる十五歳を迎える為の通過儀礼として、乗り越えなければならない儀式があった。
左手の親指にできるささくれを、自らの手で斬り落とすのだ。
王族の証である、左手の親指のささくれを。
生まれた時から十五歳までずっと護り続けてきた、左手の親指のささくれを。
我も明日、自らの手で、斬り落とすのだ。
「ジャスティッティ」
大切に守って来た包帯を解いては、左手の親指にできたささくれに、ジャスティッティにそっと触れた。
王族の証である左手の親指の、綺麗に巻いている、くるりんささくれは、爛々と輝く黄金の光を放っていた。
「ジャスティッティ」
我は笑った。
悲しくなどない。
これは必要な別れ。嬉しい別れ。ジャスティッティと別れて大人入りするのだ。
「ジャスティッティ。ほんに感謝する」
翌日、我は、一太刀でジャスティッティを我から斬り落とした。
そして、その瞬間から、我の左手の親指には、ぽっかりと、穴が開いたのだ。
そなたに出会うまではずっと、開いたままだったのだ。
ポメガバース。
ポメガは疲れがピークに達したり体調が悪かったりストレスが溜まるとポメラニアン化する。
ポメ化したポメガは周りがチヤホヤすると人間に戻る(戻らない時もある)。
周りの人がいくらチヤホヤしても人間に戻らない時は、パートナーがチヤホヤすると即戻る。
ポメガはパートナーの香りが大好きだから、たくさんパートナーの香りで包んであげるととてもリラックスして人間に戻る。
「オメガバース」の世界観を踏まえて作られた「バース系創作」のひとつである。
「そなたの睫毛を見た時に。そなたのポメラニアン化した時の姿を見た時。我は、確信した。そなたは、ジャスティッティの生まれ変わりだ。我の左手の親指に開いた穴は、塞がったのだ。そなたは」
「王子様。わたくしはずっと、王子様の傍におります」
我はジャスティッティ、否、ジャバディンの胸に飛び込んで、深く息を吸ったのであった。
ささくれと睫毛と永久の愛と 藤泉都理 @fujitori
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