第25話 襲撃

「来やがったか!」

 白虎の声に一斉に動き出す。

 次の動きを考える間もなく僕は一麒かずきの腕の中に。りん玄武げんぶに抱きしめられていた。自分達のつがいを護る速さはさすがだ。

「玄武、取りこんでくれ」

「わかった」

 凛が 言うが早いか玄武がヒト型から聖獣に変わりその甲羅の中へ凛が吸い込まれていく。

「え?凛さん?」

 ぎょっとした。聖獣の中に食われたように見えたから。

「大丈夫だよ。玄武の甲羅は硬い。どんな攻撃も跳ね返すから一番安心できる隠れ場所だよ」

「そうなの?それにしても随分と慣れた様子で甲羅の中に入って行ったけど今日が初めてではないような?」

「ああ、そうだな。おそらく玄武達はすでに一戦交えたのかもしれないな」

 なんだって?じゃあここに来る前にすでに邪神の手先と戦ってきたというの?

「ええ?そうだったの?凄いっ」

 僕なんて戦ったこともないのに!それにさきほどまで普通に僕と喋っていたじゃないか?

「四神のつがいだからね。麒麟きりんとは役割が違うんだ」

「……え?」

 役割って何?何が違うの?

麒麟きりんは常に中央に存在する。我らは仁の生き物。愛を持って接し太平の世に平安をもたらす。そのため闘いには身を投じることが出来ない。邪気を払い、吉兆きっちょうを招く聖獣なのだよ。そのため四神達が闘神となってくれる」

「そうなんだ……僕と四神の番とは違うんだね」

「ああ。彼らは聖獣の半身だが、麒麟きりんつがいのリンは聖獣なのだよ」

 なんとなくわかった。僕は聖獣なんだ。

「さあ私たちも」 


◇◆◇


 扉の外は別次元のようだった。人型の黑い塊のようなものが触手を伸ばし襲い掛かってくる。結界のほころびはかなり大きくなっていたのか。

 黒い塊はジグザグに地面に割れ目をおこした。すぐさま玄武が地割れを元に戻す。

 前方からは光のない瞳で侍従達がむらがってくる。かつて皇子の侍従だった人達の中に闇を潜ませていたのだろう。彼らは操られるようにゾンビみたいな動きをしている。すでに自分たちの意思はもうないのだろう。

『ぶわっははは。どうだ。人間を攻撃できないだろうが!』

 黒いドロドロした塊が笑う。邪神の化身か?僕の中に入って来たもやのようなヤツよりも強そうだ。

 こいつらはほおっておくとどんどんと湧いて出てくるのだろうか。一旦、内側に入れてしまったものは根こそぎ排除しないといけない。


「彼らはもうダメだ。ヒトではない」

 青龍が叫ぶ。

「わかっている!」

 白虎が尻尾でなぎ倒し片隅へとそのむくろを積み上げていく。あの人たちは大丈夫なのだろうか?

『ではこれはどうだ!』

 ぐぉおおおおという地の底からのような響きと共に地面がどす黒く変わる。どろどろとした瘴気が湧く。瘴気の中から何かを産み出そうとしてるみたいだ。

「させるか!」

 青龍が飛び上がり雨と共に地面に雷を落とした。濡れた地面はバチバチと感電したように青白い炎で燃え上がる。

『ぬぐぐぐ……』

「今だ!」

 玄武がほころびを見つけ周辺を凍らせていく。パリパリと音を立てて氷の壁面が出来上がっていった。



「リンっ手を繋いで!」

「はいっ」

 そうしないといけない気がした。一麒かずきと手をつなぐと抱き寄せられた。

「もうできるはずだよ。心穏やかに目を閉じてね」

 口づけされ身をゆだねると一麒かずきと同化していくのがわかる。


「やっと麒麟きりんのお出ましですな」

 やれやれという感じの玄武の声が聞こえた。

「待たせたね。浄化していくよ」

 カッカッとひづめを鳴らして辺りを駆け回ればどす黒かった地面が白く輝いていく。凄いね~。僕は映画でも見てる様な感覚だった。確かにこれは僕だけど一麒かずきでもある。麒麟きりんという生き物に僕はなっていた。そうなって初めて二人で一つという意味が分かった。僕と一麒かずきの二人合わさっての麒麟きりんなのだ。

 邪神は見誤っていたのだ。四神の統制が取れていない隙に襲撃をかけようとしてきたのだろうがすでに統制は取れていたのだ。一麒かずきはわざとほころびを見逃し慌てて三神が集まるふりをして邪神をおびき出したのだった。敵をあざむくにはまず味方みかたから。その言葉通り僕らは一麒かずきに欺かれていたのだ。同化したことから一麒かずきの考えが分かるようになった。


 甲高い鳥のなき声が聞こえたかと思うと辺り一面が赤く輝き。炎の翼の朱雀が現れた。

『どういうことだ?何故お前が……』

「うるさいっ!外道の分際で私に口をきくな!」

 朱雀が黒い塊を睨みつける。

「遅いぞ朱雀!」

 玄武が呆れたように言い放つ。

「ふん。亀に言われたくないわ!」 

 相変わらずのプライドの高さ。朱雀はこうでなくちゃね。 

 

 四神達と目を合わすと僕と一麒かずきは天に向かって大きく鳴き声をあげた。この声で邪気を払うのだ。僕らがひとしきり鳴いたところで朱雀が羽を広げた。ばさりばさりと大きく羽ばたきを繰り返すと緑が芽吹き、片隅でゾンビになっていた人々が元の人間となり目を覚ました。

「朱雀は再生と復活のチカラを持つんだよ」

「ああ。さすがだね」

 僕たちが浄化をし朱雀が再生をする。聖廟殿せいびょうでんは元の姿に戻って行った。




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