第26話 口は災いの元とはよく言ったものである。

 その後、僕は3日3晩。麒麟きりんの寝床から出してもらえなかった。麒麟きりんとして一体化した反動が大きかったせいだ。

 一麒かずきは一日の内、昼間の数時間だけ寝床から出た。朱雀が居る南方の偵察のためだ。朱雀は目覚めたが、今回は勝手にチカラを吸い取った罪滅ぼしとしてしばらくは朱雀の領地の手伝いをすることにしたそうだ。それ以外はずっと僕を愛でて僕にチカラを分け与えていた。


 僕は確かに一麒かずきの手伝いがしたい。一緒にこの世界を守りたいんだと言った。そのために麒麟きりんとなったが、ヒトである部分が残っていた為動けなくなるほど負担がかかってしまう。自分の身体の加減もわからなかったんだ。そんな僕を見て一麒かずきに心配をかけすぎちゃったのか部屋から出してもらえずに軟禁状態にされてしまっていた。



「この色ボケ麒麟きりん! そろそろリンを離しやがれ!」

 しびれを切らしたのは白虎だった。

「……白虎かい? 人聞きが悪いなあ。誰が色ボケだって?」

 にこにこと引き攣った笑顔で一麒かずきが扉をあけた。開けた瞬間に花吹雪が舞い暖かな風がそよいだ。


「お前……その髪……」

「うん。リンのおかげかな。元に戻ったんだよ」

 一麒かずきは綺麗な金髪になっていた。頭からは鹿のような角も生えている。

「白虎? 来てるの?」

「リン?いるのか?」

「いいよ白虎。おいで。リンに会わせてあげるよ」

 一麒かずきの後について白虎が中に入ると眼を瞠っていた。気に入ってくれるかな?今までとは違い明るい壁紙に陽だまりのような空間。テーブルには四脚の椅子が四つ。それぞれの椅子には四神の透かしぼりをいれた。

「リンが四神の居場所を作ったんだ」

「あったかい。それに力がなんだか湧いてくるぜ」

「そうか。良かった。本来の聖廟殿 《せいびょうでん》の機能が回復したな。このまま偵察に出るからしばらくリンを頼むよ。白虎」

「わかった」


「白虎ぉおっ。会いたかったよ~。僕のモフモフ!」

 部屋の奥で両手を広げて僕は白虎にしがみつく。

「おう。元気か? ……お前も金髪になっちまったんだな」

 僕の頭の上にも角が生えている。だけど一麒かずきのよりも小さいんだ。

「ん~? これが元の髪の色なんだって。それより獣体になってよ」

「いいけど……」

一麒かずきの事は気にしないでいいよ。僕が今腰が抜けた状態は一麒かずきのせいなんだから!」

「リン。お前、本当に麒麟きりんになっちまったんだな」

「何言ってるのさ。見かけが変わっても僕は僕だよ」

「おう。そうだな。お前らしいよ。おかえり麒麟きりん

 白虎がちょっと寂しそうな笑顔で僕に話しかけてくる。


 言っちゃおうかな?どうしようかな。

「ん?なんだ?言いたいことがあるなら言えよ」

「ありゃ。どうしてわかちゃうのかな?」

「だって、お前はすぐに顔に出るじゃねえか」

「え~。それって前にりんさんにも言われたなあ」

「凛か。玄武のつがいだな?正直言うとあいつが玄武の番になるとは思ってもみなかった。いや、玄武ならやりかねないとは思ってはいたがな」

「まあね。僕も青龍かな?と最初は思ったけど、そうじゃなかった。彼は玄武の番だよ」

「言い切れるのか?」

「うん!だって僕には四神のつがいがわかるんだもの」

「……へ?」

 白虎が唖然とする。

「あ、えっとさ。ここに来た時はもちろんわからなかったよ!徐々にだよ。麒麟きりんとしてのチカラがついてくると段々とわかってきたというか」

「そ、そうなのか!じゃ、じゃあ俺の番ってのも……」

「うん。わかるよ。聞きたい?」

「……あ~。ん~。ちょっと待ってくれ。心の準備が……」

「くすくす。だよね。じゃあさ、ここだけの話で、他の四神の話をすると。朱雀の番はまだ現れてはいない。彼はいまだに一麒かずきに捕らわれているからね」

「それってお前はいいのかよ!」

「良いも悪いもそれを決めるのは一麒かずきだからね。不思議とさ、麒麟きりんになってからは嫉妬心というものが持てないというか。そういうのをすべてひっくるめて愛したいと思ってしまうんだ」

「なんだよ。惚気かよ」

「ははは。惚気ではないんだけどね。麒麟きりんの習性だね」

「そういうものなのかよ」

「うん。後は青龍だけど、近いうちにまた時空が歪む気がする」

「また邪神のせいか?」

「いや違うかも?そこまでは僕もまだわからない」

「じゃあ、お前と同じ異世界からくるのか」

「おそらくはそうじゃないかと思う」

「むむ。そうなったらまたややこしいかもな。リンはちゃんとこちらの世界に馴染んだが、それは元々麟りんとしての御霊を持っていたからだ。何も持たずしてきた異邦人がここに馴染めるのか心配だな」

「だから僕がいるんじゃないの?」

「お前が?」

「うん。僕の役目って麒麟きりんとしてだけじゃなく四神の番を見つける役目もあるのではないかなって思うんだ」

「ほ、本当なのか!」

「たぶん……。そんな気がするんだよ」

「じゃあ、じゃあ本当に俺の……」

「うん。きっとその子は……」

「わあ!待て待て言うな!頼む。まだ言わないでくれ」

 ふぅ、ふぅと白虎が息を整えている。

「ふふふ。どうする?」

「俺の番は居るんだな?」

「うん。居るよ」

「わかった!わかったからそれ以上は今は良い」

「え?聞かなくて良いの?」

「ああ。そういうのは運命だと思うんだ。だから俺自身が俺のチカラで見つけたい」

 白虎がカッコ良すぎる。

「そっか!ふふふ。やっぱり僕は白虎が好きだよ」

「おう!一麒かずきに飽きたら俺のところに来いよ!」


 最初はどうしようかと思ったけれど。今はこの世界が愛おしい。僕に過保護すぎる一麒かずき。モフモフでカッコイイ白虎。見た目が冷たそうな玄武も番には優しいし朱雀はツンデレだし、堅物過ぎて今回は番を手にすることが出来なかったが仁の心を持つ青龍。きっと次は見つかるよ。

 皆それぞれ自分の領分をわかっている。この世界を護ってくれている。


 今度は僕がこの世界を護って行く。僕はこの世界が好きです。



                           了










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異世界で眠りの麒麟と皇子でない僕が結ばれ溺愛されるお話 夜歩芭空(よあるきばく) @yukibosiren

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