第22話 唯一無二

 あれから僕は一麒かずきとずっと行動を共にしてる。いや、一麒かずきが僕から離れないというのが正しいかもしれない。


 ただ、昼間の数時間は一麒かずきが朱雀の南方に出向くようになったので、その間は白虎と共にいる。邪神の動きがまだわからないからだ。もちろん、モフモフさせてもらっている。四神の一人を僕が独り占めしてもいいものだろうかと思ったがここに来てからずっとだったから気にしないことにした。だから基本的には僕の生活は今までとあまり変わりはない。中庭に散策にでて新しい植物が芽吹いてないか確認したりもしている。


 一麒かずきは口には出さないが朱雀を寝たきりの状態にしてしまったことに罪悪感を抱いてるようだった。日に日に辛そうな表情になっている。

 朱雀は今、南方の朱雀殿で眠りについてるらしい。


「リン。一麒かずきの野郎が浮気したら俺に言うんだぞ」

「白虎。これは僕が口出ししてもいいのかな?」

「もちろん。お前と一麒かずきは二人で麒麟きりんなんだ。それなのに他の奴にうつつを抜かすなんてありえねえぞ」

「そうか、そういうもんなのか。親友がそういうなら、すぐに言うし相談に乗ってもらうよ」

「……親友か」

「そうだよ。白虎は僕の大事な親友だ」


「お前って、ズルいよなあ」

「え~? なんで?」

「そんなこと言われたら俺はお前から離れられねえじゃねえか」

「あのさ、今は確かに白虎に助けられてばかりだけどさ、そのうち僕が白虎を助けるから」

「お前みたいに弱っちいのに俺が助けられるのかぁ?」

「ふふふ。そうだよ。僕は大事な親友のためにひと肌ぬぐのさ」

「ひと肌ぬぐって? どういう意味だ?」

「それはまだまだ先のお話になりそうだよ」

「なんだそれ??」

「ふふふ。楽しみにしておいてね」

「なんだかわんねえがお前が楽しそうならそれでいいや」



「白虎。リンの相手をありがとう。では交代しようか」

 一麒かずきは戻るとすぐに白虎から僕を奪う様に抱きこんだ。 

「ちぇっ。なんだよ。すぐに追い返さなくってもいいじゃねえか」

 白虎が苛ついた声で一麒かずきを睨む。

「まぁ……そうだね、今日は南方の菓子をもらったから食べて行くがいいよ」


 一麒かずきが腕を上げると目の前に円卓が現れた。可愛らしい茶器が乗っている。

 手慣れた仕草で一麒かずきが手際よくが茶を淹れる。ジャスミンに似た香りが鼻に抜けた。

「美味しいっ。すごい! 一麒かずきはお茶をいれるの上手だね!」

「おや、ありがとう。ふふ。さあ、甘味もあるよ。お食べ」

 一麒かずきが手を差し伸べると目の前に皿が現れる。魔法使いみたいだ。

「胡麻だんごだ! 僕、甘いものが好き。白虎も食べようよ」

 香ばしい胡麻の香りと中から出てくる餡に思わず口元が緩む。甘いものは脳の働きをよくすると言われてるし、考えるためには食事をとらないとね。あぁ、甘いものって最高だなぁ。

「白虎、イライラするのはお腹が減ってるせいかもよ」

「俺は人と違って腹は減らな……」

 言い終わる前に白虎の口に団子を突っ込むとモグモグと黙って食べだした。

「美味しいよね。ふふふ」

 僕が笑うと一麒かずきも白虎も笑う。


「リンの笑顔には勝てねえな。美味そうによく食べる」

「そうですね。白虎、さきほどはすみません。いつもリンを守ってくれてありがとう」

 今度は一麒かずきも丁寧に白虎に礼を言った。

「……べつに。いいけどさ」

 白虎も照れくさそうに返事をする。元々この二人仲は良いいんだな。

 その後は一麒かずきから南方の様子を聞いた。


 南方は熱い国らしい。太陽が降り注ぐ、活気の溢れる国らしい。

「ただ、日照りが目立ってきている。雨を降らした方がいいかもしれない」

「雨って青龍?」

「おや、リンは意外と博識だね? そうだね、水流を自在に操れるのは青龍だね」

「だが、あいつは今使いモノにはならねえだろうから玄武に頼んでみるか?」


「青龍が使いモノにならねえってどういうこと?」

「あ~、リンは皇子が玄武の元に行ったことを知らなかったのか?」

「え? どういうことなのさ?」

「私も詳しい事はよく知らないのだが、今皇子は青龍の手を離れている」

「まあつまり、青龍がまぬけだったということかな?」


「へ? えっと、青龍はフラれたってこと?」

「おそらく……そうなのかな?」

「そこまでは俺もしらねえが……とにかく青龍が落ち込んでる事は確かだ」

「そうか。それでしばらく青龍を見かけなかったんだね」


「ねえ、それって僕がなんか関係している?」

「リンが気に病むことは何もないよ」

「そうだ。お前が気にする事などなにもねえぞ」 

「……わかった。二人が言うならそういうことにしておくよ」


「おそらく近いうちにリンは完全に麒麟きりんに覚醒する。身体も徐々にヒトから霊獣へと変化しているはずだ。リンは存在するだけで私に英気を与えてくれてる。私の癒しは君なんだよ」

 一麒かずきはそういって僕の頭を撫でた。一麒かずきって見た目は若いのに威厳があって、この声を聴くと心地よくなる。懐かしいような安心するような気がするのだ。だから彼に言われるとそうなんだろうなと自然に思えてしまうのが不思議だ。

 いや、これこそが一麒かずきのチカラなのだろうか?


「そうか。お前も霊獣になるのか……」

「そうなのかな? 僕自身はよくわかんないけど」

「ふふ。そこが四神たちのリンと違うところだよ。君は御霊なんだよ」


「やはり麒麟きりんは違うんだな。一麒かずき、四神のリンはヒトなのか?」

「そうだね。限りなくヒトに近いつがいになるね」

「じゃあ、質問を変えるが、もしリンがお前を選ばず、俺を選んでいたら、その、一麒かずきは御霊をどうするつもりだったんだ?むりやり奪うつもりだったのか?」

「いいや、 その時はもう麒麟きりんをやめようかと思っていた」

「…………っ」


麒麟きりんってやめれるものなの?」

「さあ、どうだろうね」

「……それだけの覚悟は決めていたってことか」

つがいってさ、唯一無二の存在なんだよ」


つがいか……」

 白虎が遠くを見つめた。




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