第21話 麒麟の儀式*

*は念のためにつけてますが直接的なレィティング表現はありません(R15)



「さあさあ、準備は整いましたぞ! 麒麟きりん様がた!」


 数日たって騒々しく現れたのは大司教とその取り巻き達だった。

 彼らは僕たちに麒麟きりんの儀式をやらせたいのだそうだ。

「ねえ、いったい麒麟きりんの儀式って何をするのさ」

「えっと寝ている私に刺激を与える儀式……かな?」

「え……? それって?もう起きてるから必要ないんじゃ?」


「ささ、寝床に連れて行ってくだされ。私共もこの日の為にみそぎをし、心身ともに清めてまいりました。麒麟きりん様? いかがなされた? ささ。契りを見せてくだされ」


 その言葉に僕は青ざめた。契りって、もしかして。もしかするの?


「はああ?! 何言ってるの? 僕と一麒かずき閨事ねやごとを見たいってこと?」

「はっ。あの……さわりだけでもいいので。儀式として……」

 司教たちがしどろもどろに答えだす。きっと信者にとっては大事な儀式と伝わっていたのだろう。 


「大司教よ。悪いがさすがに麒麟きりんの寝床は霊獣の癒しの地なれば、人の目に触れさすことは出来ぬ。元は私の目覚めを即すためためのものであろう? 準備に手間暇とらせて感謝する。されどすでに私は目覚めた。どうだろうか。ここはリンと私の麒麟きりんとしての復活の儀式としてはくれまいかな?」


 一麒かずきの声には不思議な揺らぎがある。低く優しく甘い声が風に乗るように耳に届く。

 麒麟きりんは仁の力を持つという。愛し慈しむ。一麒かずきの声にはその力が乗るのだという。だから聞いたものは心を落ち着かせ陶酔していく。


 大司教や取り巻き達がうっとりと一麒かずきの声に耳を澄ます。

 侍従達が簡易の台の上に供え物をし、信者達が舞いを踊るのを一通り見た後、一麒かずきがおもむろに僕を引き寄せた。


「皆、麒麟きりんを讃えてくれてありがとう。私たちは愛し合うつがいだ。互いを尊敬し思いやりを持って慈しみ、末永く愛し合う。皆も人に優しく愛をもって他人と触れ合うのだ」


 ひとしきり口上を述べると、僕に向きなおし、ニカっと笑うと頬に一つキスをした。


 ほお~~~っという信者の歓声に気をよくしたのか、一麒かずきが更に僕を引き寄せ口づけをした。優しくついばむ様に……そして濃厚にへと……。


 ん~。これってちょっとやりすぎだよね? 僕見られてスル性癖はないよ!


 僕は信者に見えないほうの一麒かずきの耳をぎゅっとひっぱった。

「いてっ……」

 一麒かずきが離れたのを合図とばかりに僕がにっこりとほほ笑む。

「今日は皆様、お集まりいただきありがとうございました。私たちはこのとおり元気で仲睦まじくしておりますので今後ともよろしくお願いいたしますね」


◇◆◇


「なんだよ一麒かずき! わかってたんなら僕に教えてくれてもいいじゃないか」

 僕がぷりぷり怒ってると、にこにこしながら一麒かずきが抱きしめてきた。

「ふふ。ごめんよ。でもね、未だに皇子の影響から抜けれない侍従もいてね、実際に麒麟きりんとして仲睦まじい姿を見せた方が良いかなって思ったんだよ」

 

 そうか。侍従達は毎日皇子の世話に明け暮れていたのだから仕方ないような気もする。

 いきなり麒麟きりんは目覚めるわ。つがった相手は違うリンだったとしたら納得いかないこともあるだろう。


一麒かずき。僕も侍従さん達と関りをもちたい」

「いやだ。ここには他の者をいれたくないんだ。せっかくのリンとの蜜月なんだから」

「み……蜜月?!」

 僕が真っ赤になってあわててるとくっくっくと笑い出す。

「か、からかったな! もぉ一麒かずきのバカぁ!」

「いやいや。可愛いなって。からかってなんかないよ。本気で言ってるんだよ」


 一麒かずきは僕が穢れにあってから、必要以上に心配性になってしまったようで決して僕をひとりにすることはない。

 一緒に居ると暖かいし、安心するし、目が合うだけでも落ち着くしチカラが湧いてくる気がするから不思議だ。

 寝る前に一麒かずきの声を聴くと心も体もホカホカして僕はすぐに眠りに落ちてしまうが一麒かずきはそうでもないらしい。

 だからと言って無理やりに僕を襲う事もない。そうすべては僕次第なのだ。


 一麒かずきが僕の耳たぶを甘噛みしてきた。

「霊獣にとってつがいは失くした欠片の一部と同じ。片時も離したくはないしずっと繋がっていたいのだよ。心も体も全部。リン。あふれ出す君への愛で私が溺死する前に君の中にチカラを注がしてくれないか?」

 甘く響く低音が耳から犯されていきそうになる。

「うぅ……このイケメンボイスめ……」

 言ってることはエロ過ぎるのに拒めそうもない。


「私は目覚めたばかりで。朱雀の地に遠出をしないといけないしチカラが足りなくなるかも」

「う……」

「一番活性化できるのは身体と心を繋げる事なんだけどな。二人だけの麒麟きりんの儀式をしないかい?」

「んもぉ。どうしても僕に言わせたいんだね!」

「ふふふ。うん。言って欲しいんだ」

「……一麒かずき僕の力を使って……」


「リン! リン! 優しくするよ! いっぱいいっぱい!」

「ええ? いっぱい?」

 一麒かずきが嬉々として僕を抱き上げ麒麟きりんの寝床へ連れて行った。


「ここは私とリンだけの寝床だ。ここで私たちが繋がれば聖廟殿せいびょうでんすべてに癒しのチカラが充満する」

 そうだったのか……。それで一麒かずき麒麟きりんの寝床にこだわってたのか。


 一麒かずきが嬉しそうに口づけを繰り返す。

「いっぱいチカラを感じて。リンが感じてくれると癒しのチカラが増大するんだ」

 ひゃあっ。そんなの恥ずかしい!ってその言い方! 感じるとチカラが増すって……。


「もぉばかっ。エロ一麒かずきっ」

「うん。私はリンの前ではただのバカでしかないよ」

 

 だめだ。何を言っても今の一麒かずきには通用しない。


「リン。愛してるよ。もう離さない」

 甘い囁きと共に一麒かずきがほほ笑む。

 苦しい。だけど不快感はなく、暖かいチカラが入ってくる。


 ――――ああ。一麒かずきだ。一麒かずきのチカラが僕の中にいる。


「リンは暖かいね。ぁあリン。恋しかった。寂しかったんだ」

 一麒かずきがぐりぐりとおでこをおしつけくる。

「ふふっ……くすぐったいよ……」

「うん。体温を感じる?もう透けてないよ。もっと私を感じて? 」

「ばっばか。何言ってんの!どっかのエロ監督みたいな台詞じゃん!」

「ふふふ」

 まだ緊張して強張る僕を微笑みながら抱きしめる腕の力が強くなる。。

「リンは心も身体も暖かいね。癒されるよ」

 一麒かずきの低く甘い声だけでどうにかなりそうだ。


 静かに抱きしめあうだけでチカラが流れてくる。一麒かずきから僕へ。僕から一麒かずきへと。


 重ねた手のひらから腕に背中に這い上がると脳天を通り越してお腹へと下がる。

 そしてそのチカラは一麒かずきへと循環していく。

「ぁあ、リン。凄いね、チカラが循環して活性化されていく」

 うっとりとした様子の一麒かずきが直視できない。なんか今までと違うような。イケメン過ぎてどきどきが加速する。

「もう。イケメンオーラ全開すぎる。僕には耐性がないのに」

 そうだ。恋愛経験がない僕にはこんなに整った顔を間近で見ることはなかった。

「リン、何言ってるんだい。君もとっても綺麗だよ!」

「ばっばか……な、なにを言って……ん?」

 ドキドキが更に加速すると激流に飲まれ押し流される様にチカラが大きく循環する。身体の中に走るたびにチカラが頭の中がスパークするみたいだ。ひとつまたひとつめくられるように記憶が浮かび上がってくる。


 そうだ。僕の中には麒麟きりんりんとして生きた記憶とりんという人間として生きた記憶が入り混じっているんだ。人の身体に二つの記憶は負担が大きい。


「リン。愛しい私のつがい。私の精気を受けるたびに君は体も麒麟きりんに近づく。今よりももっとその器は大きくなる。だから大丈夫だよ」

 僕の心配がそのまま一麒かずきに伝わったようだ。

「……ってことはこのまま一麒かずきと精気交換をしたらもっと僕は麒麟きりんになるの?」

「正確には麒麟きりんに戻るってことだね」

「そうなのか……」

「私はリンが人でも麒麟きりんでも変わらず愛してるよ」


一麒かずき。僕、一麒かずきの手伝いがしたい。一緒にこの世界を守りたいんだ」

「リン。君の口からそんな風に言ってもらえるなんて嬉しいよ!」

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