第19話 白虎Side

 白虎は朝まで部屋の中に入れなかった。弾かれてしまったのだ。 

「ってことは二人は契ったんだよな」

 完全につがいになったてことだな。

 白虎ははあっと深いため息をついて中庭にでるとリンをはじめて連れ出した時の事を想いだす。


 リンが手を触れただけで蘇った場所だ。

 今も花は咲き乱れ、穏やかな空気が流れている。

「ここはまるでリンみたいだな」

 そうだ、ここの空気はリンに似ている。今にもリンが木の影からひょっこり顔をのぞかせてきそうだ。

「リン……もう俺の手はいらないのか」

 突然守るべきものがなくなった喪失感がこんなにも大きいなんて。


 人懐っこくて可愛くって、俺の毛並みが気に入ったって散々モフりやがって!

 暖かくてちっこくて。手元に抑え込んで守り続けたかった。

 だけど、そんなこと。アイツにとっては迷惑でしかない。

 迷惑がられて困られるなんてことはしたくねえ。


――――白虎は僕の親友だよ――――


「親友か。まぁ、それも悪くねえか……」



 しかし、これから先、すんなりリンを認めようとしない奴らがでてくるだろうな。

 元々麒麟きりんの皇子としては別のリンの方が表にでていたからな。 


 それにこのタイミングでけがれが入ってきたのも気になる。

 今までこの聖廟殿せいびょうでんは外からの攻撃に対しては鉄壁といわれていた。 だが、中に入りこまれると弱いという事が露見してしまった。


 これ以上ヒトをここに入れなければいいのだが、完全にヒトの出入りを封じるのも難しい。

「ん~、警備の強化と育成を考え直さないといけねえなあ」


 それと朱雀すざくをどうするかだな。

 アイツのことだから一麒かずきの為になることが出来て喜んでるかもしれねえが、なんにせよ。チカラを奪われたんならしばらく動けねえだろうな。

「変態やろうめ」

 チカラの譲渡なんて俺とか青龍には出来ない技だから、どうやって譲渡するかもわかんないが、いままでのチカラの譲渡とは加減が違うのだろう。動けなくなるようになるまでってかなりの量を吸収したんだろうな。


 俺の足なら千里を駆けるのはあっという間だが、南方というのが少し苦手だ。

 太陽が溢れる熱い地。まるで朱雀すざくみてえだな。


 あとは青龍と玄武と相談だな。まともに相談するのも久しぶりかな?

 元々四神は麒麟きりんを通じて会話を通していた。なぜなら割り振られた時間ごとに俺らはやらないといけない仕事がある。同じ時間に顔を会わせる事はほぼなかった。この聖廟殿せいびょうでんを除いては。

 ここは四神の疲れをとる癒しの場所だ。だから皆と顔を会わせることが出来る麒麟きりんに仲を取り持ってもらっていたのだ。


◇◆◇


「白虎、少しよろしいですか?」

 音もなく俺の背後を取る奴なんて一人しか浮かばねえ。

玄武げんぶだな? ……朱雀すざくの件か?」

「いえ、貴方はあの子を手放されたんですね?」


「……なんの話だ」

 リンの事だな?こいつなんなんだいったい!

「いえ、リンが麒麟きりんになったと聞きましたんでね」

「それがどうした? 収まる場所に収まっただけだが……」

「私なら一度手にした獲物を手放したりはしないのですがね」

「?! ……お前、まさか、青龍から皇子をとったのか?」


「案外感が良いのですね。でも皇子は元から青龍のモノではありませんでしたよ?」


「だって、ありゃあ……」

「皇子は麒麟きりんつがい候補だっただけです」

「……お前。最初から狙ってたのか?」

「さあどうでしょう?」


 なんだ? 玄武がいつもと少し違う?


「自分でもよくわからないのですよ」

 あぁ。その感覚は少しわかるかもしれない。

「……そうか。……そうだな……」

「白虎はリンとすごした時間が長かったのでしょう? 貴方にとってリンとはどういう存在でしたか?」

「はは……難しいな。一言では言えない。とにかく目が離せないし、会うたびに惹かれる」


「ふふふ。ただの惚気じゃないですか? よく手放せましたね?」

「ちっ。しょうがないじゃねえか。庇護対象から親友になりたいって言われたんだからさ」

「ああ、なるほど。リンは本当に白虎の事を理解してたんですね」

「そりゃ、どういう意味だよ」

「だって貴方は可愛いいもの好きですぐに庇護したがるタイプでしょ?」

「ぐぅ……なんだそりゃ」

「自分のこともわかってないかったのですか? でも、リンはそういう白虎の事を全部理解してたんでしょうね」


「…………」

「逃した魚は大きかったんではないですか?」

「ああ。もぉっ! なんだよお前! 俺の失恋の傷に塩を塗る気かよ!」

「いえ、ちょっと四神にとってリンとはどう影響するのだろうと思って。白虎の話も聞いてみたかったのですよ」


「青龍にも聞いたのか?」

「いいえ、あれは聞くほど理解できてなかったみたいです」

「どういうことだ?」

「青龍は建前や自分の立ち位置ばかりに気を取られて焦っていたのでしょうね。せっかくの獲物を……リンをリンとして見てなかったという事ですよ。龍は仮にも麒麟きりんについで仁を持つ霊獣のくせにね」


「青龍は頭が固いところがあるからなあ。俺は皇子とは関りがなかったからわからねえが」

「……綺麗な方ですよ。黙っていればね」

「なんか含みがある言い方だなあ」

「ええ。少しばかし闇を抱えてらっしゃる」

「はんっ。闇はお前のお得意だろ?」

「そうなんですよね。……だから惹かれてしまうのかもしれない」


「……そうか、玄武。お前も大変だな」

「っ! よしてくださいよ。白虎に慰められるなんて縁起が悪いです」

「お前、俺に喧嘩売りにきたのか……いや、失恋したばかりの相手に言われてもか……」

「……すみません。そんなつもりでは。でも、少しは参考になりました」

「はは……少しは……かよ」

「ふふ。ええそうです。四神はリンに惹かれてしまうっていうのがわかりました」


「……ふん。参考料はなんかもらえるのか?」

「考えておきましょう」

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