第18話 麒麟のつがい*

*は念のためにつけてますが直接的なレィティング表現はありません(R15)



「リン、その……よかったのか? わ、私で……」

「何言ってんの! 一麒かずきは僕でなきゃダメでしょ?!」

「それはそうなんだけどさ。白虎はリンを守るチカラもあるしカッコいいし」

「うん。そうだよ。白虎はいつも僕を守ってくれるしとってもカッコいいよ」

「うっ……」

 一麒かずきが凹んだように背中を曲げる。


「だから何? 一麒かずきは何を聞きたいのさ」

「リンは白虎が好きだったんじゃないの? そのつがいだから仕方なく、私とって思ってるんじゃないのか?」

「まあったく! 何をウダウダ言ってるの! 癒しの霊獣が聞いてあきれるよね!」

「ううう。すみません……」

「怒ってるんじゃない。少しは僕を信用してよ。僕はもう自分が麒麟きりんだと自覚してるんだよ。それなのに他の霊獣とつがうと思ってるの?!」

「だ、だって私はずっと見てるだけで何もできなくて……」

「そうだね、今まではね。でも僕を穢れから助けようとして実体化してきてくれたんでしょ? 朱雀すざくのチカラを奪ってまでも!」


「うん。リンの中のけがれを浄化できるのは麒麟きりんのチカラだけだから」

 リンが一麒かずきの目の前に立つ。身長差のせいでリンが見上げるような姿勢だ。

「ぐずぐず言うくせに僕より身長が高いのが気に食わない。ベットに座って!」

「はい」

 言われるままに一麒かずきが座ると、どっこいしょとリンが膝の上に乗ってきた。


「わわわ! り、リン? 何を?」

「何をって僕から誘わなきゃ、何もできないでしょ?」

「そ、そうだけど。いやいや……えっと」

「それとも、永く眠りにつきすぎて愛し方も忘れてしまった?」

「そ……そんなことは。その、本当にいいのか?」

「何遠慮してるの? 白虎に遠慮してるの?」

「それも……少しある」


一麒かずき。大丈夫だよ。きっと白虎にとって僕はペットみたいなものだったんだよ」

「ぺっとぉ?」

「そうだよ。可愛がって大事にして庇護したい対象」

「ん~。それってつがいとしてじゃないのか」

「何言ってんの! つがいってそれだけじゃないでしょ?」

「もちろんそうだけど……」

「きっと白虎のつがいはどこかにいるよ。おそらく身近にね」

「そうなの?」

「うん。なんとなくだけど、西方の街に行った時に感じたんだ」

「白虎は知ってるの?」

「多分まだ知らないと思う。あの場面で僕がそれを言っても信じないと思ったから言ってないけど」


「リン。私は長い間、君を待っていた。待ちすぎて切なくて眠りについてしまうほどに」

「ふふ。相変わらず口説き文句だけは上手いよね」

「本気なんだよ!」

「ふふふ。わかってるよ。茶化さないとさ、心臓がもたないんだ」

 

 ――――ドキドキしすぎて。


「本当はちゃんと麒麟きりんの寝床でチカラを交換したかった」

麒麟きりんが寝る場所が寝床だよ。一麒かずきがいれば場所なんてどこでもいい」

「リン! なんて可愛いんだ! 大事にする。ずっとずっともう離さない」

 

 一麒かずきが震える手で僕を抱く。そんなに大事に想われていたのかとちょっと驚いたけど、同時につらい思いをしていたんだということに気づいてしまう。

一麒かずきごめんよ。いなくなっちゃってごめんね」

「……リン。いいんだ。こうして戻ってきてくれたんだから。だからもう二度と離れないで」

「ふふふ。やっと、本音を言ってくれたね」

「うん。白虎のつがいにならないで。私のつがいになって欲しい」

「いいよ。僕が聞きたかった言葉が聞けたから。つがいになってあげる」

「ああ! リン! 愛してる!」


 僕はきっとわかってたんだ。一番最初に一麒かずきを見た時に僕と同じ目だって。心の半分だけ置き去りになったような色。それはきっと足りないものを取り戻すことを忘れない様に目印にしたのかもしれない。

 でも、できるだけ考えないようにしてた。だって自分が本当に麒麟きりんなのかわからなかったから。


 だけど癒しのチカラを使うたびに身体の奥から記憶が呼び覚まされる。

 チカラの使い方。一麒かずきへの想い。僕は人として生きた記憶もあるからすぐには馴染まなかったけど。少しずつこの世界の事も思い出してきている。


「リン。口づけてもいい?」

「くすっ。いいよ」


 戸惑いがちにちゅっと控えめに一麒かずきがキスをする。

 ああ、そうだ。いつだって一麒かずきは僕の嫌がる事はしない。

「嫌じゃないよ。一麒かずきになら何をされてもいいから……」

「リンっ」

 怖くないと行けばウソになる。本当は怖い。だけどこのままじゃいけない。


◇◆◇


 僕を膝にのせたまま一麒かずきが口づけを深くする。

 最初は躊躇ためらいがちに。やがてゆっくりと大胆に、

「んぁ……チカラが……」

「このまま感じて」

 一麒かずきとかさなる部分からチカラが入り込む。身体中を駆け回り、それはまた一麒かずきへと戻って行く。循環するたびにチカラが強まっていくみたいだ。

「活性化されていくみたい……」

「そうだよ。私たちは癒しの神。こうして互いを癒しあってチカラを高めていくんだ」


 そっとベットに横たわると一麒かずきと目が合う。どこまでも優しく穏やかな瞳。

 額と額をあわせるとやわらかなチカラが感じられる。うっとりするような心地でキスをねだると、ついばむ様に口づけをし、やがて深いモノへと変わっていく。息が上がり呼吸が苦しくなっていく。


 一麒かずきの手がリンの身体をなでる。撫でられたところから暖かいチカラが入り込んでいく。壊れものでも触るように慎重にゆっくりと強張った身体を時間をかけて解きほぐしていく。

一麒かずき……」

「私のチカラを感じて。目を閉じて感覚を研ぎ澄ますんだ」


 一麒かずきの指が僕の身体をなぞる。

「くすっ……くすぐったい」

「いやじゃないよね?」

 顔を覗き込まれて体温が上がる。特に顔が熱い。

「そんなに見つめるなっ! はずかしいじゃん」

「どうして? 恥ずかしくなんてないよ。リンの身体中、全部、隅々まで見たいよ」

「なっ! 何を言うんだ……ばかっ。すけべ」

「くくく。ごめんよ。照れて可愛いかったから。ついね。リンは色が白いね。綺麗な肌をしてる。触り心地もいいしいつまでも触っていられる」

 一麒かずきの手がわき腹を撫でそのままリンの背中へと伸びた。


「こわくないよ。僕を思い出して。息を吐いてごらん」

 一麒かずきを……思い出す?

「僕たちはずっと一緒で愛し合っていたよ。思い出して ……」


 一麒かずきのチカラが少しづつ僕の中に入ってくる感じがする。同時に記憶がこじ開けられていく感じだ。身体の奥底に眠っている記憶をひとつずつめくって見せられるような感覚。

 そうだ僕らは互いが必要で互いがすべてだった。


 だけど、僕は一度転生し違う世界で生きた経験がある。そのせいか記憶をめくられる度にヒリヒリとした痛みがある。

一麒かずき……悪い。この体はまだヒトなんだ。優しくして……」

「そっ! そうだよね!悪い。ゆっくりとチカラを馴染ませないとね。わかった」

 急にギクシャクした動きになった一麒かずきに苦笑する。

「私達は互いのチカラを循環しあって精気を高めていたんだよ」

 一麒かずきの甘い声が脳内に響くと全身が熱くなる。

「……うん」

「リン……っ!その顔可愛すぎるよ」

 何馬鹿な事言ってるんだ。まったく。ああ、一麒かずきったら、なんでそんなに幸せそうな顔するんだよ。かっこいいな。くそっ。視覚的にも触覚的にも、もうすべてにおいて刺激が強すぎる!このイケメンめ!


 まだ要領が得ないけど、きっと愛しいって感情を相手に向けるとチカラが循環するのかな?少しだけ僕も一麒かずきを抱きしめる腕に想いを乗せてみた。

「っ!リン?……チカラが湧いてくる。私にチカラを送ってくれてるの?ああこんなに素晴らしいなんて」

「へ? 何……言って……?」

「ぁあっリン!愛してる。私にはリンだけだ!愛してるんだっ」

一麒かずき?ちょ、ちょっと待って」

 チカラの循環のスピードが速まっていく。これは一麒かずきと連動してるの?

 体中に英気が流れる。浄化されていくような…… 僕にもう刺激が強すぎて意識が朦朧としていた。


 ……循環が早すぎて意識がついて行けない。頭がくらくらする。チカラの重複酔いかな? 一麒かずきの暖かいぬくもりの中、ぽわぽわしたまま僕は意識を手放した。


「リン?え?リン?大丈夫?リンっ!ごめん。加減が出来なかった。わ~!しっかりしてえ~!」



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