第17話 庇護から親友へ

「……朱雀すざくのって。お前……」


「そうだ、朱雀すざくの隙をついてチカラを吸い取ってきた」

「…………」

 朱雀ってあの赤い服のキンキラキンの人だな。派手だけど美麗って感じだった。


一麒かずき。それってチカラを奪われた朱雀はどうなるの?」

「…………」

「…………」


「なんで黙るのさ! まさか朱雀ってもう……」

「いや、違う。眠ってるだけだ。そんな簡単に消えちまう奴ではない」

「リン。朱雀は不死鳥だ。これくらいで命を落とす霊獣じゃない」

「じゃあ、なぜ黙るの? 何か不都合なことがあるんじゃないの?」


「……霊獣には定められた使命がある。朱雀は南の地を任された霊獣だ。季節なら夏。もう夏の終わりで初秋だからあいつの出番は少ないが、昼間の偵察はあいつの仕事だ。おそらくそれが……しばらくできねえんじゃねえのかな」

「……そうだ。私の責任だ」

「できなくなるとどうなるの?」

「それは……」

「わかんねえ。こんなこと初めてだからな」


「耐えられなかったんだ!リンの身に何かあったら私はもう霊獣ではいられない」

「っ。恐ろしい事いうんじゃねえ!」

「それって僕の為に実体化を急いでくれたの? だからチカラが必要だったの?」

「そうだ。でもリンのためだけじゃない。私の為だ」

「はあ。麒麟きりんもわがまま言うんだな」

 そうか。一麒かずきはいままで麒麟きりんとして君臨するうえで自分の意見を通したことなかったんだな? 無理をしてたんじゃないかな?

「さっき、夢の中で白澤はくたくにあったんだ。そしたら、慣れないことをして傷つくのは自分だよって一麒かずきに伝えてって言ってた」


「え? 白澤はくたくってあのチャラけた霊獣か?」

「ん~、そんな感じだったかな?」

白澤はくたくにリン探しの依頼をしたのは私だ。四神や私のチカラが弱まってるからと自分から名乗り出てくれたんだ」

「そうだったんだ? そういえば僕がここに渡るきっかけも白澤はくたくだったよ」

「ふ~ん。まあ、あいつは以前からりんと仲が良かったからな」

「ああ。白澤はくたくつがいを見つけたのがりんだったからな」

「僕?そうだったの?」

「俺も知らなかったぜ。初耳だ」

りんにはえにしを感じる能力があるんだよ」

「じゃあ僕が完全にすべてを思い出せたら出来ることが増えるの?朱雀すざくの代わりもできる?」

「朱雀は青龍に任せてきた。朱雀の仕事の穴埋めは私がするつもりだ」

一麒かずきが直接するってことは麒麟きりんのチカラでということだな?」

「……そうだ」

「…………」


「そろそろ……夕暮れだ。リン。ちょっとついてきてくれねえか」

「え?どこへ」

「お前に西方を見せてやりてえんだ」

「え? 見せてくれるの? やったあ!」

「白虎……」

「選ぶのはリンのはずだろ?」

一麒かずきは? 大丈夫なの?」

「なに、すぐ戻る。だから一麒かずきはしばらくこの部屋にいてくれ」

「わかった」



◇◆◇


「リン、俺の背に乗れ! 首の後ろにつかまれ、そうだ! では行くぞ!」

 掛け声とともに白虎は獣体となり普段よりも一回り大きくなった。リンをゆうゆうと乗せて駆け出す。

「わああっ! 速い!」

 周りの景色が後ろに飛んでいくような感覚。そうだまるでジェットコースターだ!

「凄いっ! 速い! 」

 木も建物もあっという間に過ぎ去っていく。やがて小高い丘の上に登ると白虎は足を止めた。


「ここが一番大きな街だ」

 夕暮れの茜色に照らされる街は幻想的でとても美しかった。

「絵画みたいだ……綺麗」

「俺が護っている場所だ」

「うん。素敵だよ。白虎が護っているからこんなにも綺麗なんだろうね」

「おお! そうだろう、そうだろう」


 さっきから尻尾と耳ががぴくぴく動いている。う~、モフモフしたい!

「リンが、望むならずっとこの街で一緒に住むこともできるぞ。そのときは俺の身体全身をモフったっていい」

「え? ……それって」

 それってここに住むってことは白虎のつがいになるってこと?


「俺は……このままお前を返さずさらっちまうこともできるんだぜ」

「だめだよ。白虎に悪党は似合わないよ」

「似合うとかじゃなくて、お前を他の奴にやりたくねえんだ」

 白虎が人型に戻り、リンを見つめる。切なそうな金色の瞳が綺麗だ。


「白虎。ありがとう。でも白虎も本当はわかってるんでしょ?」

 僕が誰を選んでいるかなんて、僕自身が気づく前に白虎はわかってたはず。それにこの街には……いるんじゃないか?


「りん……」

「あなたのリン(鈴)になれなくてごめん。ねえ白虎。僕を今の庇護ひごの対象から親友へ昇格させてくれない?」

庇護ひごから親友?」

「そうだよ。白虎はずっと僕を庇ってくれてた。麒麟きりんつがいになったら僕に二度と会わないつもり?」

「まさか。そんな寂しい事言わないでくれ」

「そうでしょ? 僕は白虎とはずっと親友でいたいよ。」

「親友?俺と親友になるのか?」

「うん。だから今よりもっといっぱいタメ口でしゃべって、たまには僕の愚痴ぐちも聞いて欲しいんだ」

「わかった。それで、あの一麒かずきに飽きたらいつでも俺の元へ来いっ」

「ふふふ。ありがとう。そう言ってくれて。君は僕の大切な親友だよ」

「そうか……それがお前の答えなんだな」



◇◆◇


 白虎がリンを連れて行った。それがどういう意味か。

「リンに自分のつがいを選ばせる気だな」

 この期に及んで、私はなんと弱腰なんだろうか。確かリンの世界でヘタレって言うんだったな。

 

 もしも、リンが私ではなく白虎を選んでしまったら、今まで通り私はほほ笑んでいられるだろうか? まったくもって自信がない。でも、みんながそれで平穏無事に過ごせるならそれも仕方がない……事なのだろう。


「ただいま~。一麒かずきどこ?」

「リン! ここだよ!」

 帰ってきた。リンが帰ってきたんだ! 部屋に入ってきたリンにガバっと抱きつくと白虎と視線が合った。

「……ゴホンッ。俺の目の前でイチャつくなよ」

 不機嫌そうな白虎がうなる。え? ということはリンは白虎を振ったの?


一麒かずき苦しいよ。腕緩めて」

「あ? ああ、ごめん、大丈夫かい?」

「ふふ。またそんな情けない顔をする。イケメンなのに八の字眉だね」

「リンの前だけだよ。君の前だと笑顔の仮面をかぶれないんだ」

「お前なあ、仮面とかいうなよ。仮にも癒しの神、麒麟きりんなんだぞ」

「まあ、そうなんだけどね。へへ」

「はあ、リン、本当にそいつでいいのか? 」

「うん。僕がいないとだめそうだからね。僕は一麒かずきを支えるよ」


「……そうか。そうなんだな……」

 白虎が自分に言い聞かすようにつぶやく。

「……朱雀の代わりになるなら、チカラの補充が必要だろう? ここの結界を強めておいてやる。俺はしばらく帰ってこないから。だから、その……」

「うん。ありがとう。白虎、大好きだよ。僕の親友」

「ああ。俺もお前が大好きさ。俺の……親友」


 白虎が辛そうに背中を向けるとそっと扉を閉めた。


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