第17話 庇護から親友へ
「……
「そうだ、
「…………」
朱雀ってあの赤い服のキンキラキンの人だな。派手だけど美麗って感じだった。
「
「…………」
「…………」
「なんで黙るのさ! まさか朱雀ってもう……」
「いや、違う。眠ってるだけだ。そんな簡単に消えちまう奴ではない」
「リン。朱雀は不死鳥だ。これくらいで命を落とす霊獣じゃない」
「じゃあ、なぜ黙るの? 何か不都合なことがあるんじゃないの?」
「……霊獣には定められた使命がある。朱雀は南の地を任された霊獣だ。季節なら夏。もう夏の終わりで初秋だからあいつの出番は少ないが、昼間の偵察はあいつの仕事だ。おそらくそれが……しばらくできねえんじゃねえのかな」
「……そうだ。私の責任だ」
「できなくなるとどうなるの?」
「それは……」
「わかんねえ。こんなこと初めてだからな」
「耐えられなかったんだ!リンの身に何かあったら私はもう霊獣ではいられない」
「っ。恐ろしい事いうんじゃねえ!」
「それって僕の為に実体化を急いでくれたの? だからチカラが必要だったの?」
「そうだ。でもリンのためだけじゃない。私の為だ」
「はあ。
そうか。
「さっき、夢の中で
「え?
「ん~、そんな感じだったかな?」
「
「そうだったんだ? そういえば僕がここに渡るきっかけも
「ふ~ん。まあ、あいつは以前から
「ああ。
「僕?そうだったの?」
「俺も知らなかったぜ。初耳だ」
「
「じゃあ僕が完全にすべてを思い出せたら出来ることが増えるの?
「朱雀は青龍に任せてきた。朱雀の仕事の穴埋めは私がするつもりだ」
「
「……そうだ」
「…………」
「そろそろ……夕暮れだ。リン。ちょっとついてきてくれねえか」
「え?どこへ」
「お前に西方を見せてやりてえんだ」
「え? 見せてくれるの? やったあ!」
「白虎……」
「選ぶのはリンのはずだろ?」
「
「なに、すぐ戻る。だから
「わかった」
◇◆◇
「リン、俺の背に乗れ! 首の後ろにつかまれ、そうだ! では行くぞ!」
掛け声とともに白虎は獣体となり普段よりも一回り大きくなった。リンをゆうゆうと乗せて駆け出す。
「わああっ! 速い!」
周りの景色が後ろに飛んでいくような感覚。そうだまるでジェットコースターだ!
「凄いっ! 速い! 」
木も建物もあっという間に過ぎ去っていく。やがて小高い丘の上に登ると白虎は足を止めた。
「ここが一番大きな街だ」
夕暮れの茜色に照らされる街は幻想的でとても美しかった。
「絵画みたいだ……綺麗」
「俺が護っている場所だ」
「うん。素敵だよ。白虎が護っているからこんなにも綺麗なんだろうね」
「おお! そうだろう、そうだろう」
さっきから尻尾と耳ががぴくぴく動いている。う~、モフモフしたい!
「リンが、望むならずっとこの街で一緒に住むこともできるぞ。そのときは俺の身体全身をモフったっていい」
「え? ……それって」
それってここに住むってことは白虎の
「俺は……このままお前を返さず
「だめだよ。白虎に悪党は似合わないよ」
「似合うとかじゃなくて、お前を他の奴にやりたくねえんだ」
白虎が人型に戻り、リンを見つめる。切なそうな金色の瞳が綺麗だ。
「白虎。ありがとう。でも白虎も本当はわかってるんでしょ?」
僕が誰を選んでいるかなんて、僕自身が気づく前に白虎はわかってたはず。それにこの街には……いるんじゃないか?
「りん……」
「あなたのリン(鈴)になれなくてごめん。ねえ白虎。僕を今の
「
「そうだよ。白虎はずっと僕を庇ってくれてた。
「まさか。そんな寂しい事言わないでくれ」
「そうでしょ? 僕は白虎とはずっと親友でいたいよ。」
「親友?俺と親友になるのか?」
「うん。だから今よりもっといっぱいタメ口でしゃべって、たまには僕の
「わかった。それで、あの
「ふふふ。ありがとう。そう言ってくれて。君は僕の大切な親友だよ」
「そうか……それがお前の答えなんだな」
◇◆◇
白虎がリンを連れて行った。それがどういう意味か。
「リンに自分の
この期に及んで、私はなんと弱腰なんだろうか。確かリンの世界でヘタレって言うんだったな。
もしも、リンが私ではなく白虎を選んでしまったら、今まで通り私はほほ笑んでいられるだろうか? まったくもって自信がない。でも、みんながそれで平穏無事に過ごせるならそれも仕方がない……事なのだろう。
「ただいま~。
「リン! ここだよ!」
帰ってきた。リンが帰ってきたんだ! 部屋に入ってきたリンにガバっと抱きつくと白虎と視線が合った。
「……ゴホンッ。俺の目の前でイチャつくなよ」
不機嫌そうな白虎がうなる。え? ということはリンは白虎を振ったの?
「
「あ? ああ、ごめん、大丈夫かい?」
「ふふ。またそんな情けない顔をする。イケメンなのに八の字眉だね」
「リンの前だけだよ。君の前だと笑顔の仮面をかぶれないんだ」
「お前なあ、仮面とかいうなよ。仮にも癒しの神、
「まあ、そうなんだけどね。へへ」
「はあ、リン、本当にそいつでいいのか? 」
「うん。僕がいないとだめそうだからね。僕は
「……そうか。そうなんだな……」
白虎が自分に言い聞かすようにつぶやく。
「……朱雀の代わりになるなら、チカラの補充が必要だろう? ここの結界を強めておいてやる。俺はしばらく帰ってこないから。だから、その……」
「うん。ありがとう。白虎、大好きだよ。僕の親友」
「ああ。俺もお前が大好きさ。俺の……親友」
白虎が辛そうに背中を向けるとそっと扉を閉めた。
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