第12話 番いたい相手と番うんだ!

白虎びゃっこっ。ねーねー。西の国ってどんなところ?教えてよ」

「おう。西方は夕日が綺麗な国だぞ。なにせ俺がまもってる場所だからな……って!そうじゃねえ! お前ってば無茶ばっかりしやがってっ」

「てへへへ」

 そうなのだ。僕は今ベットの上で横になっている。皇子に治癒をかけた後、意識を失っちゃったんだ。急激にチカラを使ったせいだって一麒かずきが言っていた。


【リン。調子に乗りすぎだよ。でもそれはいやしのチカラだ。リンにいやしのチカラが戻ったんだね】

 一麒かずきが嬉しそうに笑う。一麒かずきの姿は白虎には見えない。だけど僕には見えるんだ。

「そんなチカラがあるなら最初から言えよっ!それならもっと早く他の四神に会わせたのに」

「怒らないでよ。僕も気づかなかったんだよ。中庭に行った時に声が聞こえたんだ」

「声が?なんだよそれ」

【声が聞こえたのか?】

 二人同時に喋らないでよ……。って一麒かずきの声も白虎には聞こえないらしい。

「うん。木が囁く声っていうか。風の声っていうか……」

「マジかよ。リン……お前……。いや、やっぱいいや」

「なんだよ?言いかけたなら全部言いなよ」

「いや、言うとお前を困らせちまうから」

「白虎……?」


◇◆◇


「誰だ!」

 突然白虎が扉に向かって声をあげた。

玄武げんぶです……さすがは軍神白虎。私の気配を読み取ったのですか?」

「白虎、開けてあげて」

 僕が言うと苦虫をつぶしたような顔で白虎が扉を開けた。


 そこには三白眼さんぱくがんで黒装束に身をまとった青年が立っていた。頭には黒のべんぱつ帽をかぶっている。昔TVで見たキョンシーが被っているような帽子だ。帽子の後ろから長い三つ編みが一本腰のあたりまで垂れている。ひょっとして頭のてっぺんは剃りあげているのかな?


「TVでみた中華歴史シリーズにでてきた宰相みたいだ」

「……これはこれは。なかなか面白い子ですね。思ったことをすぐ口にする」

 こわっ。目が笑っていない。

「挨拶が遅れてしまいましたね。お初にお目にかかります。私めは玄武げんぶ。北方を護っております。白虎が新たなリンをかくまっているというので会いに来ました」

「はじめまして僕がリンです。白虎は僕を心配してかくまってくれたのです」

 本能的にこういう相手は気を引き締めて対峙たいじしないといけないと感じた。


「ふむ。物怖じしない。根性もありそうです。貴方には人を思いやる気と勇気がおありですね?」

「……玄武は頭がキレるんだ。こいつには叡智えいちがある。だがな、ねちっこくて陰険なところもあってな意地悪なじいさんだ。俺は苦手なんだ」

「はっはっは。私の中にはがいますのでな。時間をかけて手を回し、ゆっくりとやってきて獲物を手に入れるという事もありますなぁ」

 じいさんだって?見た目は青年なのに?なんかわかんないけど怖いだけじゃない。年季があるっていうのか。堂々としてて策略家って感じだ。戦になったらきっとこの人は指揮官かキーパーソンになるんだろうな。怖いな。怒らさないほうが良い相手だよね。

「貴方を敵にまわすと恐ろしいということだけはわかりました」

「ほぉ……さすがですね。なかなか頭の回転も早そうです。面倒になるなら消してしまおうかとも思ってましたが……」

「へ?!……消すって」

玄武げんぶっ。俺がそんなこと許さねえからな!」

「……冗談ですよ」

 いや、冗談に聞こえないよ。目が笑ってないじゃんっ。


「おや?……」

 玄武が急にニヤニヤしだした。どうしたんだ?

「くっくっく。出てきたらどうですか?扉の影にいるんでしょ?朱雀すざく

朱雀すざく?どうぞお入りください」

「ちっ。嫌な奴が来やがった」

 白虎が嫌そうに顔をしかめた。


 一瞬日が差したのかと思う程部屋が明るくなった。そこには赤い衣に色鮮やかな宝石が散りばめたような衣装を着た、真っ赤な髪の美女と見間違うばかりの青年がいた。

「ちっお前まで来たのかよ。ならば俺はそろそろここを出ねえと陽が陰ってきちまうじゃねえか」

「そうだ。ここからは夕暮れ時だ、白虎よ席を外せ」

「くそっ。いいか!リンに変なことしたらただでおかねえぞ」

 白虎が僕に手を伸ばすのを掴んでやんわりと外す。皆の前でマーキングとやらは恥ずかしいもの。

「二重結界はもういいからね」

「ぐぅっ……」

 白虎にぐりぐりされる前に却下した。

「ごめんよ。でもそうしないと四神を信用してないってことになりそうだからさ」

 むやみやたらと殺戮をしないのが四神のはずだ。しかもここは聖廟殿せいびょうでん。聖なる区域なのに。警戒してないって意思表示のつもりでもある。

「……わかった。すぐに千里を駆けてくる」

「お前らリンに手を出すなよ!」

 白虎は言うが早いか、一瞬でその場から消えた。


「なるほど。白虎を手なずけたようだな」

 美青年が上から目線で話しかけてきた。

「手なずけたというか僕が懐いてるだけです。あなたが朱雀すざくさんですか?」

 なんだ?凄い好戦的な印象がする。僕に敵対心をもってるみたいだ。

「そうだ。私が朱雀すざくだ。お前に聞きたいことがある」

「はい。なんでしょうか?」

「お前が本物のりんだという証拠はどこにある?」

「ありません。それになぜ証拠を示す必要があるのですか?」

「それは……お前が麒麟きりんつがうにふさわしいか見定めないといけないからだ」

「見定める?」

「高貴な麒麟きりんつがわないといけないのだ!当然だろう!」


 なんだいったい?!最初からケンカ腰じゃないか!腹の立つ!

「そんなのわかるはずねえじゃねえか!どうしてもつがわないといけないなら僕は僕が番いたい相手と番うまでだ!誰かに言われたり強制されたりで番うわけねえだろうが!」

「な、な、なにを私に向かってそんな口を叩くなど」

「くくくっ、あーはっはっはっは!面白い!さすがはりんですねえ!」

「何を言う玄武。こいつはまだりんだと……」

「証拠ならありますよ朱雀すざく。中庭を見てきたのでしょう?それで焦って来たのでは?貴方の大事な居場所がなくなるのではと思って」

「そ、それは……」

「あれは癒しのチカラです。仁の持つチカラの一つ。相手を思いやり、癒しを与える。貴方は傍にいたからおわかりでしょう?その子から溢れる気は一麒かずきとよく似ている」

 そうなのか。ふわふわ浮いてる一麒かずきの方を見ると苦笑いをしている。一麒かずきは黙って成り行きを見るつもりのようだ。


【こう見えても朱雀すざく玄武げんぶも優しい性格なのだよ。朱雀すざくはきっとリンが私を害する相手ではないかと挑発をしに来たんだと思うよ】

 ううっ。しまった。その挑発に乗っちゃった。

【ふふ。怒った君は凛々しかったよ。カッコ良すぎてドキドキしちゃった】

 一麒かずきったらまたチャラ男みたいな事を言う。ああ参ったな。

【二人とも僕にチカラをわけてくれてるんだ。だから二人にはとても感謝してる】


「朱雀……と玄武は一麒かずきにチカラを分けてくれてたんだね。ありがとう。一麒かずきはとても感謝している……と思うよ。いつも傍に居て朱雀すざくにも声をかけていたんじゃないかな。たとえ聞こえないとわかっていても」

「……そんなことお前に言われなくても……わかっている」

「ふふふ。さすがですね。間違いない。りんにはかなわないですねぇ」

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