第10話 僕のチカラ

「俺は反対だっ!」

 白虎びゃっこの尻尾が膨らんでる。毛が逆立ってるから 怒ってるんだな。


 あれからしばらくして白虎が息を切らして帰ってきた。さすが白虎、俊足だね。よほど急いで駆け回ってきたようでゼイゼイ言ってたけど僕の顔を見て安心したみたい。

 だけどその後すぐに青龍せいりゅうが他の四神に僕の事を話すって言いだしたから揉めだしちゃった。


「しかしっ。この子を閉じ込めておくのはかわいそうだろう」

「うるさいっ。この子じゃねえ。リンはちゃんと成人してるんだ。大人として扱ってやれ!」

【白虎はこういう時のフォローはさすがだねえ】

「青龍だけでも嫌なのに、他の奴らがリンの魅力にまいっちまったらどうすんだよ」

「びゃっ白虎! 何言ってんだよ」

【うんうん。私もそう思うよ。リンは可愛すぎる】


 何故か先ほどから一麒かずきが横から口を挟んでくる。ただでさえ、青龍と白虎の応酬で騒がしいのに一麒かずきまで入ってくると誰の意見に耳を貸せばいいのかわからなくなる。

 しかも一麒かずきの言葉は僕にしか聞こえないのだ。


【まったく青龍も白虎も困ったもんだねえ。話をする前から喧嘩腰なんだから】

 そうだ。まずは喧嘩をやめさせないと。

「ふたりとも! いい加減にしてっ! いつまでも僕が大人しくしてると思ったら大間違いだよ! 」

「なんだとっ」

「……どうするつもりだ?」

「……えっと……」

【まずは落ち着かせようか】

「ん……ふたりとも、僕の話を聞いてくれる?」

「わかった」

「すまねえ。リンの事なのに。つい。話してくれ」



「白虎が僕の事を心配してくれるのはすごく嬉しいしありがたいって思ってる。でも、これは僕自身の問題でもあるよね? ここに閉じこもってばかりなのがいいのか悪いのかは周りだけが決める事じゃない。もしそうなら僕にもきちんと説明が欲しい。納得できないものに同意をするわけにはいかないよ。僕も一麒かずきも皇子だって個々の感情は持ちあせているんだからね。ないがしろにするのは許せないよ」


「正論だ。子供扱いして悪かった。君は大人の考えができる人だ」

「ずるいぞ青龍! 俺はちゃんとわかってたさ。だから言うタイミングをはかってただけだ」

【…………】

 なんだか一麒かずきが呆けた顔をしてるけど、まあいいや。

「では今の状況を教えて欲しい。まず一麒かずきの体調や周りの現状から教えてくれる?」

 一麒かずきがそっと僕の隣に座り僕の肩に顔をうずめてきた。何? どうしたの? 泣いてる? 透けてるからわかんないけど。なんか僕泣かすようなこと言ったかな?

【リン。ありがとう】

「……僕はまだいろいろ勉強中だけどこの世界の事嫌いじゃないよ。」


 とりあえず四神には通達を出すことにして、僕は少しずつ聖廟殿せいびょうでんの中を出歩いても良いということになった。もちろん白虎と共にだけど。

 呼び名については皇子が二人いたら分かりづらいだろうってことで僕はりんのままでいいよってことにした。


◇◆◇


「よし!散歩に行きたいっ!外に出たいよ、ねーねー白虎行こうよ!」

 次の日は朝から白虎におねだりをした。ふふ、僕はあざといのだ。見た目が幼いならそれを使ってとことん相手に甘えてやろう!そして少しづつ行動範囲をひろげないと。

「ったく。お前なぁ。俺はなるべく目立つことはさせたくないんだけどな」

「そんなの体がなまってしまうじゃないか」

「はははっ!そりゃそうか。まぁ、俺も動き回る方が好きだからさ、仕方ねえなあ」

 なんだかんだ言って白虎は嬉しそうだ。やっぱり身体を動かすのが好きなんだなあ。んー。猫じゃらしないかなあ。じゃれて戯れて欲しい。できれば獣体で!


 初めて部屋の外にでる。久しぶりに吸った外の空気は新鮮だった。なんていうか。神聖な気がする。きっとこの聖廟殿せいびょうでんの中だからだろう。

 僕と白虎のすぐ傍には一麒かずきがついてきている。僕は一麒かずきと手を繋ぐ真似をした。実体がないから本当に繋ぐ事はできないけど、なんだかふわふわしててどっかに飛んでいきそうだったから。反対の手で白虎の手を取るとがははと笑いながらぶんぶんとその手を振り回された。

 目が回るよ!


 赤い柱が続く間を抜けるとすぐに白壁の回廊が出てきた。回廊には漏窓ろうそうと呼ばれる細かい透かし彫りのような窓がいくつも作られており、丸枠、四角枠、六角形などそれぞれ形は違えど統一性が感じられる。まったく違うデザインのはずなのにバランスが取れているのだ。それらはみな、中央の中庭を透かして見せる役割をしていた。


「とても凝った造りをしている。すごいなあ。中華ファンタジーって感じ」

 僕が興味津々に漏窓を覗き込んでると一麒が笑って手招きをする。招かれた先には洞門どうもんと呼ばれる円形の門が現れた。庭園への入り口だ。

「わあっ! 広いっ!」

「あまり遠くに行くなよ」


 白虎が叫んでたけど、中庭なんだから少しぐらい離れてもいいじゃん。

 庭園には芝生が敷き詰めてあった。ところどころ土が見えて枯れている場所もあるが手入れをすれば活性化するだろう。中央には丸い池が作られている。池の側には桜とよく似た木が植えてあった。


「枯れてるの? じゃない?」

【リン……? その木はもう長い事花を咲かせてないんだよ】

「え? あれ、なんで僕……。でもこの木が咲きたいって……」

 僕は何故この木に花が咲いていたのを知っているんだろう? なんか遠い記憶が蘇ったような気がした。それになんだかこの木が僕に触れて欲しがってるように思うんだ。


「君はとても綺麗な花を咲かせれるよ。また前みたいに花を咲かせて?」

 僕は願いごとを口に出しながら木に手を触れた。するとザァッと足元から力が湧き出た気がしたんだ。なんだこの感覚? 前にも似たようなことがあった気がする。これって……?

「まさか……お前……ほんとにりんなのか?」

「え? ……」

 白虎の声に顔をあげると目の前の木々に桜が咲き始めた。僕の足元を中心として緑のじゅうたんが広がっている。芝生が蘇ったように葉を芽吹かせて活き活きと色づいていたのだ。



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