第3話 麒麟の番とは

「そろそろ日が傾いてきたから俺の見回りの時間なんだ。晩飯はその後でもいいか?」

「かまわないよ。……その、白虎びゃっこ……」

「なんだ? 」

「……迷惑かけてごめんね」

「お、おう。俺が帰るまで誰も部屋に入れるなよ」

「うん。いってらっしゃい。気を付けてね」

「……っ!」


――――いってらっしゃい。白虎びゃっこ――――


「……一麒かずき?」

「え? なに?」

「い、いや、なんでもない。行ってくる」



「さて、どうしよう。僕がここにいると白虎びゃっこに迷惑かけちゃうよな」

【だめだよ。出て行ったら。外は危ないから】

「ひゃっ!」

 背後から声をかけられて振り向くと一麒かずきがふわふわと浮いていた。


「もぉ! びっくりするじゃないか!」

 またドキドキが始まった。一麒かずきって驚かせすぎなんだよ。ドキドキが止まらないじゃんか!


【ごめんごめん。白虎びゃっこがいるから様子見してたんだよ】

「ってことは今までのやりとりを盗み見てたってこと?」

【ん~。見えたり見えなかったりかな?】

一麒かずきってさ。幽霊なの? 例えば地縛霊とかさ」

【そんな怖いもんじゃないよ。それにここには悪霊は入れないよ。私がいるからね】

一麒かずきがいるから?」


 じっと一麒かずきを観察してみる。黄色に金糸が混ざった着物。黄色は麒麟きりんの色だ!

一麒かずきって麒麟きりんなの?」

【ご名答~! ふふふ。リンは勘が良いねえ】

「さっき白虎はここは聖廟殿って言ってたけど僕がいるこの部屋は一麒かずきがいる部屋から離れているの?」

【そうだね。ここは一番端になるよ。私は一番奥の部屋にいる】

「会える? 僕一麒かずきの本体に会いたい」

【今はだめだよ。ここから出たら捕まってしまうから】

「それは不審者って思われてるから?」

【それもあるけど。ちょっと面倒な事になってるんだよ】

「どういうこと?」



【……白虎から麒麟きりんについて何か聞いたか?】

「いいや、重要事項だからって何も言ってくれなかったんだ」

【この世界は常に混沌と背中合わせでね。世界を護る四神も居ればそれを壊そうとする邪神も居る。私は片割れであったつがいの御霊をずっと探しているのだよ】


 どうやら一麒かずきつがいは邪神との闘いの中で身体を消滅させてしまったらしい。すべて取り込まれる前に最後の力を絞ってその御霊だけを別の次元に飛ばしたのだという。


「つがい?」

つがいとは二つ揃ってひとつになる事を表す。つまり生涯唯一の結ばれるべき相手だ】

「じゃあその番探しに僕が必要ってことなの?」

【……そのつがいの名前は だ】

「……なにそれ。僕の名前じゃないか」

【りんなら誰でもいいわけじゃない。選ばれただけが私達、霊獣れいじゅうに応えてくれる】

「待ってよ。それってつがいにするために異世界から召喚してくるっていうの?」

【ここは普通の魂じゃこれない場所なんだ。ここに来れたこと自体がそういう意味なんだ。悪い。混乱させるつもりじゃなかったんだ】

「それって。僕はもう向こうの世界に戻れないの?」

【リン。残念ながらこちらに渡ってきたという事はもうあちらの世界での形は亡くなっているのだよ】


 そうか。やっぱりそうなるのか。二度と戻れないんだ。……大学行きたかったな。


「なんで僕なの? そんな大事な相手が僕だというの? だって僕男だよ」

【性別は問題ないんだ。肉体だけでなく精神で繋がるから】

「……冗談じゃないっ!」

【リン。すまない……】

 一麒かずきはそのまま消えてしまった。

「どこ行くのさ! どうして僕を一人にするのさ!」


◇◆◇


「おい。肉饅頭にくまんじゅうをもらってきたぞ」

 美味そうな匂いと共に白虎びゃっこが帰ってきた。何も食べてない僕のために晩飯を運んできてくれたってわかっているけど布団からでれないでいる。


「おい。せっかく俺が持ってきてやったのに。起きろ……って」

 力任せに布団を引きはがされて僕は白虎びゃっこを睨みつけた。

「お前……泣いてたのか」

「ぐす。泣いちゃ悪いのかっ」

 泣き顔をみられたくなかったのに。鼻水でぐちゃぐちゃなヒドイ顔になってるはずだ。


「何故泣くんだ? ひょっとして……寂しかったとか?」

 そんなのやりきれなかったからだ。この世界にきてしまった事はもう仕方がない。頭ではわかっているけど気持ちがついて行かないんだ。別に泣くつもりなんかなかった。でも勝手に目から涙が溢れただけだ。そうきっと。誰かに話を聞いてもらいたいんだ。一人で異世界に来て訳も分からないままで……そうだ。白虎びゃっこの言うとおりだ。


「うん。……寂しかったみたい」

 白虎びゃっこの尻尾がぴーんっと固まった。緊張してる? 


「そ、そうか。俺が居なくて寂しかったのか」

「うん。ぐす。僕の為に持ってきてくれてありがとう」

「おう。あったかいうちに食え」

 白虎びゃっこが持ってきてくれた肉饅頭はホカホカで食べると冷え切った僕の心を落ち着かせた。弱ってるときって美味しいもの食べると元気になるんだな。なんの肉かわからないけど。この際食べれるなら何でもいいや。


「美味いか?」

「うん。美味しいよ」

 白虎びゃっこは僕が食べてるのを見てなんだか嬉しそうだ。これってあれかASMRとかって誰かの食べてる咀嚼そしゃくの音を聞いたり見たりして楽しむってやつだな?


「あっ。言い忘れてた」

「なんだ? 何かあったのか?」

「おかえりなさい」

「っ! た、たたたた、ただいま」


 なんだか、たが多いな? 

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