第2話 皇子じゃなかった

「あの~、ここって異世界なんでしょうかね?」

 しまった。つい口から出ちゃった。いきなりこの発言は中二病じゃないか! 僕って考えるよりも先に行動や言動が出てしまうんだよな。

「は? イセカイ?」

「えっと。白虎びゃっこさんはひょっとして白猫で僕を異世界に連れてきたってことはないんでしょうかね?」

 こちらに来る前にかわいがっていたシロ……じゃないな。こんなに筋肉質じゃなかったもんな。シロなら初めて会ったみたいに言わないだろうし。


「何を言ってる?……お前、やはり渡り人か?」

「渡り人?」

 そういえばさきほど浮遊霊、じゃなくて一麒かずきって人が、渡り酔いしてるのかとか言ってたな。

「ときどきこことは違う世界や場所から現れる者がいる。本来ならそれは『皇子 《みこ》』と呼ばれるんだが」

 わあ~。本当に異世界転移なんだあ。じゃあ僕は皇子 《みこ》なのかな?

「しかし、皇子 《みこ》はもう現れているんだ」

「ええ? じゃあ僕はなんなの?」

 もうこの際、タメぐちでいいや。


「それなんだが……お前その目は生まれつきか?」

「そうだよ。片目だけ色素が薄いんだ」

「まったく。片目だけ違うなんてあいつと一緒じゃねえか。お前、名はなんというのだ?」

「僕の名前はりんだよ」

「っ! なんだと……ではお前リンなのか?」



 なんだ? なんで驚くのさ。それにお前って?

「これは……マズイ事が起こったなあ」

 白虎びゃっこは額に手を当てて困惑した顔をする。


「なに? なんなのさ」

「とにかく、お前はしばらくここに隠れていた方が良い」

「……それは、理由によるよ。何も知らされないで、はいそうですかって言う程僕は子供じゃないよ」

「ふん。お前、口だけは達者だな。だいたい聖廟殿せいびょうでんに突然現れた時点で普通は監禁、処刑は免れないんだぞ」

「監禁に処刑って……。その聖廟殿せいびょうでんってそんなに凄いところなのか?」

「お前そんなことも知らないでここに来たのか?」

「そんなこともこんなことも知らないよ。いつの間にかここに来てたんだ!」

「……本当なのか? ……おい、離せ」

 ありゃ、しまった。ついモフりたくて尻尾を掴んでしまっていた。にらみつけるように尻尾を抱え込むと眉間にしわを寄せつつ白虎びゃっこはため息を吐いた。



 こうやってよく見ると白虎びゃっこって整った顔立ちじゃん。眼はぱっちりとして金色の瞳にきりっとした太い眉。筋肉質でいかにも戦闘派って感じ。服装は昨日の軍服じゃなくて今日は白地にゆったりとした袖と袴に金糸で虎の絵柄が刺繍されている。豪華だなあ。


「まったく。俺にこんな事するやつなんてこの世界じゃいないんだぞ。口のきき方も知らないし、だいたいここでの知識がなさすぎる。今のままだとここから出た途端に捕まって牢屋行きか野たれ死ぬだろうよ」

「うっ……それは。そのとおりかも」

「それに、ここはこの世界の中心となる場所だ」

「中心? 首都ってこと?」

「少し違うな。確かにこの聖廟殿せいびょうでんを中心として東西南北に国がある。俺は西方を守っている。東方は青龍。南方は朱雀。北方は玄武だ」


 これ、知ってる。四神しじんだ! 東西南北の4つの方位を司る霊獣だ。以前のめり込んでいたゲームに似てる。確か中央に麒麟きりんをおくことで五神うーしぇんになるはず。


「じゃあその中心の聖廟殿せいびょうでんには麒麟きりんがいるの?」

「っ! そうだ! ここは別名麒麟廟きりんびょうだ! 何故知っている?」

五神うーしぇんだから足りないのは麒麟きりんだけでしょ? それぐらい僕にだってわかるよ」

 嘘です。ゲームで知りました……とは言えないよな。

「なんだ。知ってるのはそれだけか……まいったな」

 白虎びゃっこの落胆が激しい。他に何を知ってたらいいのさ。ってか教えて欲しいんだけど。



「ところでお前いくつなんだ?」

「19歳になったところだよ」

「は? 成人してるのか! まだ12~13歳くらいかと思ってたぞ」

 ここでの成人は18歳だそうだ。くそぉ。僕はこの童顔でいつも実年齢よりも幼く見られてしまうのがコンプレックスなのに。せめてもうちょっと背が高かったらなあ。

「お前、俺がお前を始末するとは思わないのか?」

「どうして? それならあの時、僕を助けなかったでしょ?」

「ふむ。見た目より知能があるみたいだな。ただし口が軽率すぎる」

「それは、その。はい。すみません」


「はあ。俺はさあ、こういう面倒事とか苦手なんだよ。どっちかっていうとあちこち走り回って体力使う方が性に合うんだよ。どうするかなあ」

 そうだよなあ。虎は千里を走るって格言があるくらいだからなあ。

「あのさ。とりあえず僕が今いる状況を教えてくれるとありがたいんだけど」

「それもなぁ。重要事項なんだよ。お前を信じて言ってもいいものかを悩んでる」

 そっか、やっぱそうなるか。突然降ってわいたような僕に何を言われても怪しまれることはあってもいきなり信じるってのは無理だろうなあ。


「一応、俺って神様って呼ばれてる白虎びゃっこなんだけど? こう見えて俺って皆から敬われてるんだけど? 外で俺にそんな風な口叩いてたらお前生きてられないかもよ」

「だって、白虎びゃっこはそんなことしないでしょ?」

「俺がしなくても信者はわかんないよ」

「そうなの? ごめんよ。えっと白虎びゃっこ様?」

「もう、今更だから、二人の時はためぐちでいいよ。お前ってさ、なあんかほっとけないんだなあ」


「なあ、お前本当に リン なのか?」

「え? 僕はりんだよ」

「……そうか。その、俺を見てドキドキしたりする?」

「へ? どきどき? ん~。白虎びゃっこを見てカッコいいなとは思うけど」

 僕にはない筋肉をもってて背も高くって男としては憧れるスタイルだよな。それにこの耳と尻尾! かっこかわいいじゃん。でも可愛いって言うと怒られそうだから言わないけどね。

「そ、そうか。カッコいいか。そうなのか」

 なんなんだ? いったい……。白虎びゃっこの目尻が赤い。照れてるのか?!

 なんか尻尾が揺れてるんだけど? 喜んでるの? どうして?

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