第1話 定番あるある

 眩しい光に包まれて目をあけると草原の中にいた。あれ? さっきの場所じゃん?

 だけどさきほどと違うのは何だか怖い人達に囲まれてるってとこだ。

「おい! お前どこから侵入した!」

 兵隊さん? え? 服装は中国歴史ドラマの軍人っぽいけど?

「へ? 何をいってるの?」

「怪しい奴め! 侵入者だ! 捕まえろ!」

「ええええ?!」

 理不尽だ! 僕が何をしたって言うんだ! いきなり腕を掴まれ拘束される。    

「ちょっと待って下さい。何かの間違いですって!」


「うるさいっ。聖なる場所に近づくなんて。この地にけがれを持ち込むやからかもしれぬぞ」

「なに?! そういえば異国の服を着てるぞ!」

「異国の服って、普通のトレーナーとジーパンだよ」

「何を訳が分からないことを言っている? 怪しい奴め!」

「捕まえろ! 牢屋に放り込め!」


「何を騒いでいるのだ!」

 振り返ると真っ白な軍服に身を包んだ白髪の青年が目の前にいた。ところどころはねたくせ毛が可愛い。それに頭のてっぺんには三角耳がぴんと立っている。それだけではない。なんと尻尾がある! 白と黒の縞模様のモフモフ尻尾だ。毛並みがよさそうだ。


「はっ。怪しい者をみつけました!」

 兵隊さんたちが整列する。この青年の方が格が上なのか?

「怪しい者? ここは聖域だ。普通の人間が紛れ込む事など出来ぬはずだぞ」

「も……もふもふ」

 こんな時だが、目の前で揺れるもふもふ尻尾をモフってみたくて指が動く。

「は? お、おい。なんだかおかしな手つきだなっ」

 焦ったように青年が自分の尻尾をたぐり寄せた。


「あ~残念。触ってみたかったのに」

 顔をあげた瞬間、青年とばちりと目が合う。

「お前っ……!」

 息を詰めたように僕の目をじっと見ると眉間にしわを寄せる。あれれ。なんか僕の顔についてるの? 


 それにしてもここって中華時代劇のセットみたいだな。背後は竹林っぽいし、先に見える建物が色鮮やかなのだ。朱色や金を使われている。柱には精巧な透かし彫りとかされてて。めっちゃお値段高そうな建築物! 

 これは何かの撮影場所に入り込んだのかな? 早いうちに謝っておいた方がいいのかな? 

「えっと。ごめんよ猫さん?」

「ねっ……猫だとぉっ? 俺は虎だ! 白虎びゃっこを知らぬのか!」

「うん。ごめんね。なんかのコスプレなのかな? 本物みたいだね」

 あれ? 後ろにいる人の肩が揺れてる。なんか笑うのを無理に堪えてるような顔だね? 僕なんかまずい事言っちゃったのかな。

「うるさいっ。本物だ!」

「ほ、本物? え? どうなって……ぐぇ」

 僕がどさくさに紛れてモフってみようと手を伸ばす前に、有無を言わさず白虎が僕の腹に手刀をいれた。素早い動きだったので周りには急に僕が倒れたようにしか見えなかっただろう。

「とりあえず、こいつは俺が預かる」


 ◇◆◇


【おはよう。リン。目が覚めたかい?】

 次に目が覚めると穏やかな笑顔のイケメンが目の前にいた。黄色に金糸が混ざった紗の着物を着ていて腰まで伸びた銀髪が綺麗だった。それに僕と同じオッドアイだ。


「なんだ、まだ夢の中なのか。じゃあもう少し二度寝でもしよう」

【ふふふふ。君はおかしな子だねえ】

 よく見るとイケメンはふわふわと浮いてる。それに透けて見えるのだ。

「ん? んん? お、おばけ?!」

【しーっ! しっ。大声出しちゃだめだよ! 私の姿は皆には見えないからね】

「え? 皆に見えない? やっぱりお化けじゃ……」

【違うってば! 私は一麒かずきって言うんだ。訳あって魂と肉体と分裂してるだけだよ。やっぱり君には私が見えるんだね】

「……それって幽体離脱じゃん!」


【いや、だから落ち着いてよ。まずココがどこかわかってる?】

「今日はなんて現実味のある夢なんだろう」

【リンはまだ渡り酔いから醒めてないんだね】

 大きなため息をつきながら一麒かずきがやれやれといった素振りを見せる。


 妙に人間らしい動きに僕も少し落ち着く。それに何だか懐かしい気もする。なんだろう。どこかで会ったことがあるんだろうか? まったく思い出せないけれど。

【詳しいことを話したいけど、誰かが来たみたい。いいかい。私とここで会ったことは秘密だよ。でも君に何かがあった時は僕が助けるからね】

「助けるって?」

 なんだよ。あっという間に消えてしまったじゃないか。僕、お化けに知り合いなんていたっけ?

 びっくりしすぎてドキドキする。胸がきゅっとして頬が熱い……。


「起きていたのか」

 やってきたのは白虎だった。耳がぴこぴこ動いている。これはコスプレじゃないよな。夢の続きなんだろうか?

 

「兵の前で騒がれると厄介だから気絶させたんだが朝まで起きなくて心配したぞ」

「そうだったんですか。あまり覚えてないです。……ここはどこなんですか?」

「ここは聖廟殿せいびょうでん。この世界の中心となる場所だ」

 聖廟殿せいびょうでんって? 聞きなれない言葉にぐるりと辺りを見渡すと、格子窓から見える周りを囲んでいる赤い欄干には丸い赤い提灯ちょうちんがいくつもぶら下がり揺れている。自分が来ている上着も一重の上等そうな薄絹で出来ていた。やたらと中華っぽい壁画や家具に目がいく。なんだか夢じゃなさそうだ。


 ――――そういえば僕、トラックに轢かれたはずだった!


 何故か中華風の世界に居るってことはまさか異世界転移とかってやつ? そんな定番の異世界あるあるみたいな話本当にあるんだ?  待てよ。そうなると大抵の場合は二度と戻れないとかって設定じゃないのか? 嘘だ~!



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