異世界で眠りの麒麟と皇子でない僕が結ばれ溺愛されるお話
夜歩芭空(よあるきばく)
プロローグ
爽やかな風が心地よい。植物の匂いがする。ぼんやりと意識が覚醒していく。なんだか澄んだ空気がおいしいな。目を開くと見たこともない景色の中に居た。
あれ?ここはどこ?ひょっとして天国なのかな? そうか、僕事故にあって……。
僕の名前はりん。女の子の名前みたいだとからかわれるのが悩みの種。
だから大学で自己紹介したときに皆に可愛いって弄られてかなり凹んだ。今度こそ彼女をゲットするんだって張り切っていたのにさ。カッコいいって言われたいよ。今僕は19歳。もうじき誕生日だけど。20歳までに彼女を作ってみたかったなあ。
スポーツは好きだけど成長期に思う程背が伸びなかった。オタク気質のせいか人と必要以上に関わるのは苦手でまだ友人も少ない。でもせっかく合格したんだから、がんばってキャンパスライフを送るようにしなくっちゃ。
なんて新たな野望を胸に秘めた大学の帰り道。猫が一匹。可愛らしくまとわりついてきた。最近よく見かける白猫だ。
「シロ? なんだいお前、腹が減ってるのか?」
白猫だからシロでいいかな?って適当に名前をつけて呼んでいる。本当は連れて帰りたいけど大家さんが動物を飼っちゃダメだって言うんだ。
「みゃあ」
「ふふ。返事してくれたの? かわいいなあ。そうだ。昼に食べそこなったパンがあるんだ。ちょっと待ってろよ」
ベンチに座って僕はカバンの底からパンを出した。女子に人気のある名店ロココのパンだ。
小さくちぎって手のひらに乗せてやると匂いを嗅いだ後にはぐはぐと食らいついた。
「ははは。落ち着いて食べろよ。美味いか? よしよし」
ゴロゴロと喉を鳴らしてすり寄ってくる姿は無防備でかわいらしい。ときおり僕の目を見つめてくる。
「ん? この目が珍しいのかな? 僕は片目だけ産まれた時から色が薄いんだよ。なあんて猫に言ってもわかんないかな?はは」
別に視力が悪いわけでもない。片目だけ色素が違うだけだ。オッドアイと言うらしい。医者には隔世遺伝とか染色体異常とか言われたけど普段の生活には支障はない。
ひとしきりシロの身体を撫でまわし、モフモフ感をかみしめると、さてそろそろ帰ろうかと腰を上げる。だが反動で僕の膝からシロが転げ落ちそのまま道路に飛び出した。同時に向かい側から車が突っ込んでくるのが見えた。
「危ないっ!」
思わず助けようとして後を追うと反対車線から来たトラックに撥ねられた。
大きな衝撃音と共に僕は意識を失ったのだ。
◇◆◇
「ここはどこなのだろう?」
見渡す限り人気はなさそうだ。途方に暮れていると、どこからともなくチリーンと鈴の音が聞こえる。
振り向くといつの間にかゆったりとした優雅な白い衣装を着た青年が立っていた。着物のようなあわせ襟で、袖は太く、前開きの長い衣の裾は地面に着くほどだ。まるでテレビで見た中国歴史ドラマの漢服みたい。どことなく近寄りがたい雰囲気だ。
「はぁ~い、元気ぃ?」
緊張していたのに見かけと違いチャラい感じで声をかけられて拍子抜けしてしまう。
「へ? はぁ。元気ですが……あの、ここはどこですか?」
「どこだと思う?」
「天国……とか、かな?」
「ん~。近いけど違うね~。君にはここがどう見える?」
「え? 緑の多い草原でしょ?」
青年は目を見開いて、にっこりと笑った。
「よし! 合格だ! やっと見つけた」
「えっと? どういうことでしょ?」
「ここはね、その人の魂の在り方によって見える景色が違う境目なんだよ」
「境目? 魂って……じゃあ僕は……」
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