卒業制作にまつわる黒歴史。

ハマハマ

徹夜徹夜、夜勤、そして徹夜。

 若かりしハマハマはかつて大学生でした。


 勉学3、アルバイト2、遊び5。

 みたいなどこにでもいる大学生です。


 それでも留年するでもなく四年目の前期にはおおよそ単位も取れて、残すは卒業制作のみと言った頃。


 建築学科に籍を置いておりましたので、卒業制作は図面と模型。それらを期日までに仕上げて発表です。

 模型でなくて外観パースでも良かったのですが、生憎と絵心は皆無。それゆえ模型一択。


 その時期は授業も特になく、水曜日にゼミへ行くだけ、しかも行かなくても別に良い。コンビニアルバイトも金曜と土曜の夜勤だけ。


 時間はある。

 勢い余って運転免許を取りに行くなどしておりました。


 のんびりしていたせいでお尻に火が付きガツガツガツガツ卒業制作です。徹夜徹夜です。


 さぁプランは出来た。図面もある程度できた。

 しかしここまでに結構時間を費やした。いかんせん模型も時間が掛かる。

 大阪湾に面したロケーションなんてものにしたんでとにかく地形作りが大変そうでした。


 と、そんな折。

 高校時代の友人が仕事辞めて地元に戻って参りました。


 ありがたく彼の時間を使わせて頂きます。


 スチレンボードと等高線の入った地形図を託し、ワタシが言った通りに切り貼りして貰います。彼にも徹夜徹夜を無理強いです。



 ……途中経過をちゃんと見ておけば……あんな不幸は起こらなかったんですが…………



「あ、ごめん。スチレンボードの厚み間違えた」


 2ミリのスチレンボードで作らなきゃいけないところ、友人に渡したのは5ミリのスチレンボードだったのです!


「……ハンズ開いたら買ってくるから……それまで寝てて」


 不貞寝する友人を尻目に図面を進め、開店時間目掛けてスチレンボードを買いに原チャリを飛ばし、そしてまた彼にも徹夜徹夜を無理強いです。


 そして友人に頼んだ地形は無事完成を迎えます。


「俺が地形をちゃんと活かせよ!」


 などと言い残して友人は帰りました。なんと男前なおとこでしょう。


 さぁ、ひとりっきりになっても徹夜徹夜。週末は夜勤バイトで徹夜です。もちろん時折り仮眠は取ります。死んでしまいますから。


 そして発表前の最終チェックをゼミのセンセにして貰う日がやって来ました。

 これをパスしなければ卒制発表へは臨めません。アウトです。


 前夜も徹夜。けれど何時に来いとも特には言われておりません。

 早目に行って済ませて今夜はゆっくり寝ようと、思って…………おりました…………


 実家住まいのハマハマはパートに行く母ちゃんを見送って、カバンに図面データをきちんとしまい、まだちょっと早いかとコタツに入ります。


 横になんてなりません。眠ってしまっては大変です。



 ……コタツなんぞに入らなければ……あんな不幸は起こらなかったんですが…………



「学校行ってきたんか?」


 コタツに突っ伏すハマハマは、パートに行った筈の母ちゃんに揺り起こされました。


「いま何時?」

「5時過ぎやけど? 夕方の」


 慌ててケータイを見ると確かに17時。

 ゼミの友人たちの着信でいっぱいです。


「…………いま何時?」

「あんた学校行ってへんのか……」


 コタツに突っ伏し微動だにせず9時間眠っておりました。


 ゼミの友人へ即電話。

 センセにまだ帰らんでくれと伝えてくれぇぇ!


 18時過ぎ、センセは苦笑いで待ってくれていました。優しい。


 内容はともかくとりあえず卒業制作の発表はさせて貰える事となり、ホッと胸を撫で下ろしたものです。


 さぁ、翌週の発表へ向けて追い込みです。

 再び徹夜徹夜です。


 そして図面も出来た。模型も出来た。


 卒業制作発表の当日。

 13時からの発表へ向け、原チャリで運ぶには大きくなった模型の為に、母ちゃんの友人に車を出して貰って10時に家を出た直後に着信です。



 ……ちゃんとゼミに行ってれば……あんな不幸は起こらなかったんですが…………



『卒制の発表せえへんの? 受付け10時までやで』


 なん――だと…………!?


 母ちゃんの友人が運転する車中はドス重い沈黙に包まれます。


 発表は13時からでしたが受付けなるものがあったのです! ゼミ室に行ったら確かにそう張り紙がありました!


 センセに泣きつきます。

 けれどゼミ内のルールではなく学科全体のルールです。

 こればっかりはセンセにもどうしようもありません。


 なんとなくよそのゼミを覗いてみれば、同じ様に頭を抱える連中がチラホラ。

 けれど彼らとワタシは違うんです。


 彼らは仕上がってないんです!

 ワタシは仕上がってるんです!


 そうは言っても後の祭り。

 二週間後の再発表へ回されます。

 それも落とせば留年です。


 しかしワタシは余裕です。仕上がってますから。


 最も重大な問題は、卒制終わった翌週から卒業旅行でカンボジアに行くべくビザやらなんやら既に準備済みだった事……アンコールワット……


 一緒に行く筈だった友人に土下座で謝罪。


 泣く泣くキャンセル料をお支払いしました。

 もちろん友人のと二人分……さらば四万円……



 二週間後の再発表。

 無事に合格致しました。


 まぁ、特に高評価ということもありませんでしたが。

 とにかく友人の作った地形を活かせて良かったなと。


 けれど呑みに行くと未だにたまに言われてしまいます。


 2ミリと5ミリ間違わんやろ! 倍以上やぞ! と。

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