2

「お邪魔しま〜す」

「どうぞ〜なんもないけど」


 Tさんの家は、飲み会をやった駅から電車で40分ほど移動したところにあった。一目で高級だなと分かる造り……。やっぱり、大人の男の人。緊張してきた。

 綺麗に片付けられた部屋を見回す。

 一人暮らしなのに広っ。玄関からリビングに来るまでに、部屋、2つはあった。


「広いですね」


 ほぉとため息に乗せながら言うと、Tさんはニヤリと笑った。


「この年齢にしては頑張って稼いでますから、僕」


 偉そうな男嫌いなはずなのに、これはかっこいいと思ってしまった。

 自分から好きになるってすごいな。今までだったら考えられない。


「ビールだったらあるよ。あとは炭酸水ぐらいしかない」

「ビール、いただきます」

「っし、じゃあつまみ、軽く用意するね」


 そうなんです、この人、料理も出来ちゃうんです。噂に聞いていたけど、本当に手際よく、さっと用意してくれた。

 待たされた、みたいな気持ちにならないの、すごい。尊敬するし、自分もこうでありたい。


「このチーズ、取り寄せたんだよね。食べてみて」


 ワクワクしているのが目に見えて分かって、実年齢より幼く見えた。


「臭みがない!食べやすいですねこれ」

「でしょー?食事会の時に出てきて、美味しすぎて帰りにこそっと聞いたんだよ」


 ふふふと笑ってビールを口に運んだ。

 様になっている。

 かっこいいなあと思いながら、見過ぎてバレないように、でも特等席を堪能した。


 他愛もない話をして、ビールを1缶飲み終わったところ寝ることになった。


「僕は寝室で寝るから、りつ夏ちゃんはリビングね。お客さん用布団持ってくるから」


 友達がよく泊まりにくるそうで、手慣れたものだ。

 布団を敷いてくれて、部屋の電気が暗くなった。


「携帯の充電器はここで、」

「好きです」


 びっくりした。

 酔いって怖い。口から言葉が勝手に飛び出た。

 薄暗い部屋に、沈黙が落ちた。

(……Tさん、驚いたろうな。いきなりすぎるって)

 心臓がうるさい。

 なんでこのタイミングで告白しちゃったんだろう。


「嬉しい」

「え?」


 絞り出された言葉に驚いて、Tさんの顔を見た。

 が、そこには言葉とおよそ似つかわしくない表情があった。


「ありがとう。でも、りつ夏ちゃんしっかりしてるから、そういう対象で見たことなくて。僕、守ってあげたいタイプなんだよね」


 Tさんも酔っていたんだと思う。

 最後、そんな鋭利な刃物でグリグリやらなくてもいいじゃんねぇ。

 「痛い痛い痛い」って声が漏れそうになって、辛くてゆっくり下を向いた。


「ごめん!いやほんと、嬉しいんだよ」

「すみません、いきなり」


 なかなか出ていってくれないTさんに痺れを切らし、「トイレ!行ってきます。おやすみなさい!」と早足で部屋を出た。


 告白なんて自分からするんじゃなかった。

 しかも酔った勢いで、考えずに口から飛び出た告白なんて。

 大きなため息と共に、少しだけ、涙が出た。





 その後、Tさんに彼女ができたのだが、私の後輩で、しかもそれがちょっと私とタイプが似ている姉御肌の子だったことは、今でも心のささくれになっている。



—END—

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初めて自分から好きになった人の話 眞柴りつ夏 @ritsuka1151

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ