初めて自分から好きになった人の話
眞柴りつ夏
1
私が好きになるのは、いつだって自分からじゃない。
例えば「⚪︎⚪︎君のことが好きなんだよね」と友達が言う。へぇ〜と思ってその子を意識する。するとどうやら⚪︎⚪︎君は私のことをよく見ていることに気づく。そういえばよく話しかけてきてたわ。
二人で買い物に行くようになり、共通で好きなアーティストのライブに行くようになり、遊園地に行くようになって、夜のムード満点な場所で告白されて、付き合うことになった。
⚪︎⚪︎君のことが好きな友達は、悲しそうな表情を頑張って隠しながら「教えてくれてありがとう」と笑った。
歴代カレシの顔を思い浮かべる。自分から好きになったわけじゃないから、別れる時もサクっとしたもんだった。嫉妬深いカレシは、私が友達と話てるだけで妬いた。まじ面倒くさい。別れよう、と言った。泣かれた。
はぁ。
同年代はガキすぎる。
私は年齢の割に落ち着いていて、それは自分でも自覚していて。だからこそ、自分よりしっかりとしたオトナに、甘やかされてみたいし守られてみたい。
そんな理想のオトナが現れた。
その人、Tさんは職場にちょいちょい顔を出すエンジニアのような立場の人で、私より7歳上。
だからか、最初から私のことをきちんと『年下』として扱ってくれた。
顔を合わせればその日の服装を揶揄ってきたり、好きな音楽の話になって私が昔のアーティスト名を挙げたら「何歳よ」って笑ってくれた。
こんなの、好きにならずにいられないでしょ。
会うのが楽しみになる異性なんて初めてだった(歴代カレシ本当にごめん)。
けれど自分から告白するなんてしたことがない私。職場で顔を合わせるだけの関係を3年ぐらい続けた。よく耐えてたよね。
けれどここで転機が訪れるのです。
少人数での飲み会の帰り、住んでいたところの終電が異様に早かった私は、まあ二次会行けばいいかぐらいの気持ちで終電を逃した。
ところが、なんて健全なんでしょう。0時を越えたところで解散になった。
嘘でしょ。みんな元気な20代だよ?
仕方ない、駅前のネカフェで朝まで漫画でも読むか。小さくため息をついたとき、頭上から声が降ってきた。
「僕んち、ちょっと駅離れてるけど来る?」
まさか。
バッと勢いよく顔を上げると、Tさんだった。
「……い、いんですか?」
思ったより声が震えてしまった。緊張で、じゃない。嬉しさを必死に押し隠そうとしたのだ。
「彼女、さん、とか」
「いないから安心して」
いやそれは安心できないやつです。だって、ということは、完全にフリーの男の家に行くということで——。
「じゃあ行こう」
Tさんは、屈託なく笑った。
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