神さまと舞白

第19話


川岸の小さな草の生えた土手に並んで座ってお弁当を差し出す。中身はおにぎりに玉子焼き、から揚げとタコさんウインナー、それにミートボールだった。龍由は神様らしく、から揚げ、ウインナー、ミートボールに興味津々だった。ひと口食べるごとに目を輝かせて、

「舞白、美味い! 美味いぞ、これは!!」

と騒ぐものだから、まるで子供を相手にしているかのような錯覚に陥った。

「……カミサマ……」

「なんだ」

躊躇いない返事に舞白はがっくりと項垂れる。本当に神様なんてものが存在したのか……。それとも揶揄われているだけなのか。いやいや、それにしてはさっきの水の曲芸は出来過ぎていた。

目の前に居る人が神様だと言う常軌を逸した事実(?)を受け止め切れていない舞白は、美味しそうにお弁当を食べている龍由を眺めていた。しまいにはお弁当を食べ尽くしてしまって、満足そうにこう言った。

「舞白は良い嫁になる。私が保証する」

今まで龍由が見せていた、どこか憂いを感じる表情は何処にもなく、何の衒(てら)いもなくそう言ってのけたことに舞白は驚いた。今まで何処か、含みを持たせた物言いが多かったと思うのに。

「それは和弘にも言われました」

しかし恋人のことをほのめかすと、龍由は表情を陰らせた。その様子に舞白の心がずきんと痛む。

(……なんで、龍由さんが悲しそうだからと言って、私が気にしなきゃいけないんだろう。だって恋人は紛れもなく和弘なのに……)

もしかして自分で知らなかっただけで、舞白は気が多いタイプだったのだろうか。それは嫌だなあと思う。

(和弘に不誠実なことはしたくないわ……)

でも、目の前の龍由のことを放っておけない。寂しそうなら笑って欲しい、そう思う。どうしてか、そう思ってしまうのだ。

「……龍由さん」

「なんだ」

「私が証明して見せた、龍由さんの考えって、何だったんですか……?」

舞白の言葉に、龍由は微笑みを浮かべた。

「先ほど私が行った水を操る力、舞白にもあるだろう」

水を、操る……?

「もしかして……、水占いの事、ですか……?」

母親が言っていたことではあったが、まさか本当だとは思わず、今まで頭の隅にも置いてなかった。

「そうだ。舞白は私の力を受け継いでおる。それ故、水を読むことが出来るのだよ。先程川の水が舞白を避けたのもその所為だ。舞白が濡れたくないと思えば、水は舞白を避ける」

衝撃的な事実を聞かされた。じゃあ、昔この川でおぼれた時に舞白のところまで水が避けて道を作ったって言うのは本当だったのか……。それに、確かに昔から「なんで水が読めるの?」という問いに答えられたことはなかったが、人知を超えた力が働いていたのなら、納得が出来る。

「あっ。私が龍由さんの力を受け継いでるから、龍由さんは昔から私のことが分かったんですか?」

舞白がそう聞くと、龍由は少し困ったように微笑んだ。

「舞白に隠し事をしたいわけではないが、おぬしの心に負荷をかけたくないのでな……」

それは、一番最初に会った時に言っていた、心の均衡を崩す、というやつだろうか。

……なんだか、とても大事にされてる気がする。和弘は明快な好意を見せてくれて、それが嬉しいのだけど、龍由は彼だけが知っている舞白の過去ごと包み込もうとしている気がする。そんなことをされて、絆されない人が居るのだろうか。

「……龍由さん、やっぱり、また会いましょう。龍由さんのことを知らずに和弘とのことをジャッジするのが、私、嫌みたいなの……。なんでか分からないんだけど……」

和弘を裏切るようなことを言ってしまって、少し後ろめたい。でも、今の舞白の心の中に、龍由を知りたいという気持ちが芽生えていた。気持ちは曲げられない。だったら、それに素直になってみるのが一番だ。

龍由は舞白の言葉に嬉しそうな顔をした。

「そうか! そうだな、是非また会おう。おぬしのことは大事にする故、あやつから私に乗り換えた方が得だぞ、舞白!」

損得じゃないけどな。そう思ったけど、龍由が嬉しそうだったので突っ込むのは止めておいた。

「じゃあ、また神社に行くわ。神社に行けば龍由さんに会えるんでしょう?」

舞白の言葉に、龍由はこくりと頷いた。

「おぬしが来る時は、必ず顔を出す。なに、気配で分かるから、呼ばなくても大丈夫だぞ」

龍由がカミサマっぽいことを言ったので、笑った。いやあ、本当に神様なんだなあ。大変な人と知り合いになったものだ。しかし舞白はわくわくしていた。


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