第17話
「此処の分岐から町を出て行くと、昔の街道に繋がってるの。今は電車で行き来が出来るから苦労はないけど、昔の人は大変だったでしょうね」
「昔の旅人の苦労がしのばれるな」
分かれ道を町の中心の方へと歩く。古い家々があって、商店も開いている。舞白が占いをする倉田夫妻のカフェもこの一角にある。
「時々観光客の人が来るわ。古臭い町だと思うのに、こういう街並みが良いって言ってくれる人が居るのが不思議。そのおかげで、私の占いもお客さんが入るんだけど」
「過去を懐かしむ感性は、今も昔も変わらぬのだな。しかし舞白の客が入って良いではないか」
舞白が案内するところ全てに、龍由は目を細めた。自分の故郷を懐かしんでいるような雰囲気だった。途中、道沿いにあるコンビニを併設した商店があったので、飲料水を買おうと思って店に入った。龍由も舞白に続いて店に入り、でも珍しそうに店内をきょろきょろと見渡していた。
コンビニにしては青果が売っているし、雑貨の取り扱い量もかなり多い。この辺りの便利屋さんだったから、その様子が珍しいのだろうか、と思った。しかし龍由は、舞白がガラスケースの扉を開いてペットボトルの炭酸水を取り出すと、その冷気に驚いた顔をした。
「なんだ!? 雪山の風穴でもないのに冷気が漂っておる!」
「? フウケツ? ってなに? ……龍由さん、まさか冷蔵庫見たことないとか言わないでしょ?」
「レイゾウコ?」
龍由が心底不思議そうな顔をしたので、舞白は唖然とした。今時、冷蔵庫のない家なんてあるか?
「……龍由さんって、何者……?」
そう言えばいつも神社に居るし、叔父に関係する人だろうか。だとしても、冷蔵庫を知らないなんてありえない。
舞白の問いに、龍由はふふっと口元に笑みを浮かべただけだった。……言わないつもりなのか……。
舞白は冷蔵庫の扉を閉めて会計をした。龍由はレジの前でも行動が変だった。入金ボタンを押して飛び出る現金のトレイにびっくりしたり、レシートがにゅっと出てくるのにも驚いていた。
(……、ホントに何者なんだ、この人……)
そんな疑問を持たざるを得なかった。疑問を持ったまま、舞白は龍由を連れて店を離れ、小川を目指す。
「天気が良いから喉も乾きますね」
そう言って先程二本買った炭酸水のペットボトルのうちの片方を龍由に渡すと、またも「?」のような顔をされた。
「喉、乾きませんか? こういう天気の時は美味しいですよ。のど越し爽やか。ビールじゃないけど」
「ん? うむ、確かにそうだな。しかしこれはどうやって水を閉じ込めておるのだ。竹の皮をごく薄くなるよう削ったのか?」
「竹?」
「水を入れるなら水筒であろう」
ペットボトルを水筒ということ自体に驚く。今の時代にペットボトルを知らないなんて、一体どうやって生きてきたんだ。
「……ペットボトルも知らないの……?」
「? ぺっとぼとる? なんだそれは」
驚きを通り越して呆れてしまう。どんな山の奥に潜んだ修験者だ。今時、修験者だってペットボトルくらい知ってるぞ。
「……龍由さんって、仙人だったりする……?」
修験者の上を行く人は、仙人くらいしか思いつかなかった。勿論冗談である。しかし龍由はやはり含むように笑ったまま、何も言わなかった。
ペットボトルを持ったまま飲むのか飲まないのか分からない様子の龍由のそれを手に取って、キャップを開け、龍由に再度渡す。炭酸水だったから、キャップを空けた途端に透明の泡が立った。
「!? 舞白! 泡が立っておるぞ!? 発酵しておるのか!?」
「発酵? 何を言ってるの……? 単なる炭酸水じゃない……。……ホントに貴方、何者?」
わあわあと隣で騒いでいる龍由を、もはやぽかんと見つめるしか出来ない。舞白と龍由の間に、さあ、と爽やかな風が通り抜けるのを、舞白は白々と感じていた……。
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