第13話


空が白んでくると、幾分悪夢の恐怖から立ち直った。なんとなくカーテンを開けて窓の外を見ると、驚くことに龍由が道路の端から舞白の部屋の窓を見上げていた。

「え……っ」

こんな早朝に何の用事だろう。そもそも、龍由は舞白の家を知っていたのだろうか。偶然通りかかっただけなのだろうか。窓越しに龍由の様子を見ていると、龍由が手招きをした。これは舞白に対しての合図だなと思って、簡単に着替えると、そっと玄関を出た。

朝の空気はすがすがしい。嫌なことを洗い流してくれるような清浄なそれを胸いっぱいに吸い込むと、舞白は龍由に挨拶した。龍由は穏やかに微笑んでいだ。

「どうして家(うち)が分かったんですか?」

「言っただろう、舞白の事なら知ろうとすれば何もかも分かると。舞白が怯えているような気がした。だから来た」

真っすぐに舞白を見てくれる視線がやさしい。どうして龍由は舞白のことをこんなに分かるんだろう。やさしい気配を感じながらそう思っていたら、ぽろりと言葉が零れた。

「……嫌な夢を見たんです……。鬼に食い殺されそうになる夢で、……その鬼の顔が、……和弘だったの……」

言葉を紡ぎながら体が震えた。悪夢だと言ってもあんまりだ。ぎゅっと目を瞑っていると瞼の奥にじわりとあたたかいものが湧きだしてきて、あ、駄目だ、と思った時に、不意にあたたかい体温に触れた。

「……、…………っ」

驚きに目を開くと、舞白の顔は龍由の胸に押し付けられていて、片手で肩を、片手で後頭部を支えられて抱き締められていることが分かった。

「恐ろしい思いをしたな……。でもそれは夢だ。現実ではない」

低く穏やかな声が鼓膜を通して体に染みてくる。そのあたたかさに舞白の涙腺はあっけなく決壊してしまって、ぼろぼろと泣き出してしまった。

怖かった……。本当に怖かった……。繰り返し見る悪夢にうなされる日々も、和弘が鬼になってしまった夢も、全部全部記憶から無くしたい。夢に怯えることなく過ごしたい。和弘にただただ愛されて過ごしたい。

「怖がることはない。舞白は私が守る故」

何故、恋人でもない龍由に守ってもらわなくてはいけないのだろう。それでも龍由が冗談で言っている感じはしなくて、それが少しおかしくて、涙が止まった。

「ふふ……、和弘にも龍由さんにも守ってもらえるなんて、私何処かのお姫様みたいね」

「姫か。それでも良いな」

龍由も小さく笑う。ぽんぽんと背中を撫ぜるリズムに心が安らいでいくのが、何故か嬉しい。

どうしてこんなにも安心できるのだろう。和弘と一緒に居るときよりも、心が凪いでいる。まだ会って間もない人なのに。

不思議な感覚に包まれながら、舞白は龍由に抱き締められていた。……怖いなんて、全然思わなかった……。

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