第6話


スカイツリーの展望回廊に着くと、丁度陽が落ち始めたところで回廊一帯が茜色に染まって光の粉がそこかしこにきらきらと舞い落ちて、観光客たちの影が長く伸びて影を作っていた。そのコントラストが美しいと思った。折角だから写真を一枚、と思ってバッグに手を伸ばしかけた時、和弘がその手を制して舞白に向き直った。

和弘は穏やかに微笑んでいた。その顔が夕陽に照らされて、とても美しい。

観光客たちはみんな夕陽を見ている。その中で、近づいてくる和弘の顔に、どきん、どきん、と心臓が鳴った。

わぁ……、とか、きれいねぇ……、と言った観光客のざわめきの中、うっとりと目を閉じる。……眩い夕陽の日差しが瞼の裏に届いて、それが和弘の影に覆われて……。

一瞬、脳裏をフラッシュのようによぎったのは真っ赤な血濡れた視界。あの夢だ、と思ったら、急に恐怖が立ち上ってきて、びくんと肩が跳ねると咄嗟に身を引いていた。

驚いたような顔をしたのは勿論和弘だった。

「舞白……?」

ムード満点なこの状態で、嫌だなんて思う理由は一つもない。和弘も避けられるなんて思ってもみなかったに違いない。咄嗟に、ごめん、と謝ったけど、散ってしまったムードは戻ってこない。

「……舞白はまだ完全に俺に心を許してくれてないのかな」

苦笑でそう言う和弘の顔が半分陰で隠れる。違うと言ってもさっきの態度では否定しきれない。どうして今、あんな夢なんて思い出したんだろう。

「仕方ないよな。舞白にとっては俺が初めてでも、俺が違うんだもんな。そこを言われると痛い所ではあるんだけど」

でも、と和弘は続けた。

「過去に女の子と付き合ったことがある俺が言うのもなんだけど、女の子の気持ちは尊重しなきゃいけないって俺は思ってる。女の子は、守られるべき立場なんだから」

和弘の言葉は舞白の心に真摯に響いた。……この人が今まで付き合ってきた女の子たちも、彼に非があって別れたわけではないんだろう。そう思える言葉だった。

「だから、舞白のことも待つよ。大丈夫、俺は気が長い方だから」

そう言って笑う和弘は、舞白の心をあたたかくしてくれる。こんな人に出会えてよかった。初心な舞白にとって、本当に運命のめぐりあわせみたいだ。

「ごめんね……。私、お子様で……」

「気にすんなよ。誰でも最初はそうだよ」

和弘はそんな風に舞白を慰めてくれた。

……嫌われなくて良かった……。出会ってまだ二ヶ月しか経ってないのに、舞白の心の真ん中は和弘のことでいっぱいだった。

ぎゅっと、舞白の方から和弘の手を握る。和弘が笑い返してくれた。

その日赤く焼けた夕空を背景に、一枚記念写真を撮った。とても大事な写真になった。


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