第2話 私、丸こげになる

「あ、あのね、ラウル。こんな事を頼むのも間違っているかもしれないんだけど、私の寝る場所は・・・えっと、その、やっぱり一緒なの?そ、それともべ、別のベッドで眠ってもいいのかな?そ、そのやっぱりいきなり一緒に寝ると言うのは、ちょっと刺激が強くて、その。うん、そのね。ダメじゃないのよ。いずれ・・・ね。うん。そうなるのも分かるし、でもまだちょっと緊張しすぎちゃうって言うか、あ、あのね」と、私、マリーはラウルに話すつもりで練習している。今はタオル一枚。脱衣場から出れないでいる。「おーい、シチューできたぞー」と、ラウルの声がする。き、着替えなきゃ。ちゃんと着替え用意してあるし、な、何気に可愛いパジャマらしき物が置いてある。これって魔物たちが?だったら優秀すぎない。でも、下着が無い。パジャマだけだ。わざと?ううん。単純に分からなかっただけ?と、とにかく着替えなきゃ。私は半袖の上着と短パンを履く。胸の下着もパンツも履いていない。ちょっとスースーするけど、今は我慢して。シチューを食べに出なきゃ。私は脱衣場の扉を開ける。右に押すタイプの扉だ。ラウルがいた。プラチナに輝く髪を隠そうともしない。全体的に赤い目、肌は黒い。私よりも頭ひとつ分大きい。だから私は見上げる形でラウルの顔を見る。「シチュー冷めるぞ」と、ラウルは言う。「あ、あのね、ラウル。こんな事を頼むのも間違っているかもしれないけど」「歩けないのか。仕方のない奴め」と、ラウルは私を抱きかかえる。またお姫様抱っこだ。「ちょ、ちょっと、ねえ、そうじゃなくて。あ、あのね」と、私はそのまま連れて行かれてしまう。そして椅子に座らされる。「ほら、冷めないうちに食べな」と、銀食器に入れられたシチューが目の前に現れる。大きく大雑把に切られた人参とジャガイモ・・・。男性の料理だ。そんな感じだ。と言うか、どうしてこんな事に。「は、はい。食べます」と、私は食事をした。まだ肝心な事が言えてない。


その頃、ニルヴァーナ王国の王都、とある会議室にて密談が交わされていた。

「マリー・・・いや、勇者の娘と言った方がいいですかな。」と、緑色のベレー帽を被っていて、額に金色のサークレットをしている、ちょっと気だるげな男は言う。

机に両肘を突いて、手の甲の上に顎を乗せて、目は眠そうだ。服装もベレー帽に合わせたのか、緑色の軍服を着ている。胸の辺りに総司令なのか、元帥のどちらかを表すバッジをつけている。ニルヴァーナ王国の第一王子、ゼブラは宰相ワーナーを見る。

「魔物の討伐に行った娘ですな。魔力封じの腕輪を二重にしておりましたし、魔物相手に戦ったのなら、おそらく生きておらんでしょうな。魔物の討伐部隊は三人選んでおきました。土使い、ローバング。風使い、スカイバレー。炎使い、バランサ。どうです?何も問題はありますまい。この三人なら魔物の千匹ぐらいなら殲滅してくれるでしょう。」と、宰相ワーナーは白い髭を触る。白髪を後ろで括り、オレンジのゴムで止めている。服装は王子と同じ軍服で、緑色だ。「いやいや。さすがは宰相殿。それを聞いて安心しました。」と、ゼブラは髭を揺らして笑う。


 場所は再び、ラウルの自宅というか、教会へ戻る。私、私の話をしよう。ラウルの手ほどきによって、霊子操作は少しずつ出来出した。それはいい。今まで敵だと思っていた魔物たちは実はいい奴に思えてきたのはどうしたらいいだろう。このままでは普通に仲間どころか、お友達になってしまう。そして一番の問題はラウルだ。どう見ても魔王なんだけど・・・対応に困る。今もシチューを作ってもらったり、下着が無かった事を伝えると、ちゃんと用意されたり。でも、まだ寝室の事を話せていない。いやそもそも一緒に寝た事など無いのだが、もし誘われたらと思うと・・・「おーい、マリー」「ひゃ、ひゃい」「ゴブリンたちが、望遠鏡で三人の魔導士がこの街に向かっているのを発見したと言っていた。住民として歓迎するけど、迎えに行くか?」「う、うん。カーラ、連れて行っていいかな。あと後ろで見守ってくれると、あ、ありがたいかな」「へえ。霊子操作で捕縛するのか?できるといいな。できなかったら手伝ってやるよ」「そ、そのマーメイドドレスを持って来て欲しいのだけど」

「あー報告に来たゴブリンが持って来ているよ。黒色だったよな。カーラは何色だったかな。マリー」「カーラは赤毛に合わせて赤色よ。カーラの分もお願い」「分かった。コッペルト、赤色をカーラに届けてやってくれ。それからここに連れて来れるな。頼んだぞ、コッペルト」と、ラウルは青緑の皮膚をしたゴブリンに言う。コッペルトは頭を下げて、出て行った。

「彼、コッペルトと言うのね。ごめんなさい、まだ魔物たちの名前を把握できてなくて。それじゃあ、私は着替えて来るから。」と、椅子に置いてもらった黒いマーメイドドレスを左手に持って、脱衣所に向かった。ドアを閉めて、私は用意してくれたパジャマを脱いで、黒いマーメイドドレスを着た。太腿の辺りからスリットを入れている。うん、私使用のドレスだわ。それだけ確認すると外へ出る。ラウルがいた。プラチナの輝く髪、全体的に赤い目、そして今はなぜか白い半袖に赤いズボンを履いている。「これ、渡しとくぜ」と、ラウルは赤黒い片手剣を銀の鞘に入れて渡してくれる。「あ、え?あの。この剣は?」「レヴァンテイン。マリー用に調整してみた。好きに使えばいい。今のマリーならギリギリ使い手として認めてもらえると思うからな。使えないなら返してくれ」「えっとどうやって、使えるか、分かるの?」

「うん?持ってみてどうだ?しっくりとくるか。それとも痛みを感じるか」

「・・・・・・馴染んでいるように感じるわ。違和感を感じない程度には」

「うんうん。それならいい。レヴァンテインは嫌なら自分から消失するからな。消えていないのが、使い手として選ばれた証拠だ。」

「そ、そうなんだ」「マリ〜」と、カーラの声を聞く。コッペルトの後ろにいる。

「あ、コッペルトさん。どうもありがとう」と、コッペルトと握手をしている。カーラの左肩には見た事の無い刺青?イレズミ?え?いつから?「あ、あの?カーラ。いつから左肩に・・・」「マリー、それを今さら聞くのはどうかしていると思うよぉ。ほら、鏡。自分の左肩を見てみて」と、カーラに言われて鏡に左肩を映す。そこにはラウルの顔を形取ったような刺青がある。「え、えええええ!」と、私は思わず叫ぶ。それからラウルとカーラを交互に見る。「わ、私の肩にもなんかあるんですけど・・・ちょっとラウル!これは何?何なの?」「オレの能力、支配だ。魔力供給も修理もしてやるから安心して戦ってこい」と、ラウルは腕を組んで自慢げに言う。

「ギギギ、魔王様。北門に新しい住民希望者が三人来ましたぜ。」と、鳥のくちばしを持つ、ガーゴイルのズルバンは告げた。

「ズルバン、今からオレとマリーとカーラが行く。見ていてくれるか」

「了解でさぁ。それじゃあ、みんなを配置してきやす」と、ズルバンは飛んで去って行く。「ほら、行くぞ。マリー」と、ラウルは私を抱き上げる。え?またこの移動なの?えええええ。私は戸惑い、ちょっと混乱する。顔が火照るのを感じる。

カーラは何事も無かったかのようにラウルの後をついて来てくれる。


「ここがオボロかぁ。なんかイメージと違うのぉ。もっと陰気臭いところじゃと思うとったきに。とんだ勘違いぜよ」と、金髪だが、短く刈り上げているローリングは頭を掻きながら歩いている。背は高く、言葉になまりがある。瞳は黄土色をしていて、土使いと呼ばれている。

「聞きづらい。その言葉なんとかなりませんか?ホントに」と、緑の髪をしていて、肩まである、スカイバレーは言う。瞳は琥珀色。風使いだ。

「まあいいじゃない。魔物を倒してさっさと帰りましょ。たった千匹。撃ち漏らさないようにね」と、青色の髪をしていて、長いためか後ろでくくっているのは、バランサだ。瞳は赤色をしている。炎使いだ。この中では唯一の女性だ。背丈は他の二人と比べると低い。161センチあるので、あくまでも二人と比べると低いだけのようだ。

「じゃけぇ、なんかおかしゅうないか?待ち伏せされてるように見えるのは気のせいかのぉ」と、ローリングは言う。三人の進行方向にはカーラとマリーが到着して待っていた。


 私?私はマリー・アカノイア。え?もう聞き飽きたかしら。それでも聞いて欲しいわ。これは私の話だから。土使いらしき人が、土を集めて、塊を相手に向かって飛ばす、シンプルな魔法を連続で放っているんだけど、吸収してるのよねぇ。霊子は魔素を吸収する性質があるみたいだけど。ここまで見事に吸収するなんてね。だからその、なんて言うか近づくだけで、怯えてくれるし、腰を抜かしているわ。そろそろいいかしら「土蜘蛛」と、私は呟く。この言葉はキーワード。地面との接着面を、この場合は腰の辺りを地面に縛り付けるの。術式は霊子で氷の結晶と冥府の大蜘蛛様のお力をお借りして使用するだけ。全部、ラウルに教えてもらった通りやっただけだけどね。「・・・」あらら、泡を吹いて気絶しちゃったわねぇ。風使いはどんどんスピードを上げているけど、土属性持ちのカーラに勝てるかしら。正直、私と手合わせしてる方が、まあ、その、私の方が速いのよね。私は水を防護膜にして移動するから音速を超えているのよね。「フハハハハ、我が剣速は無敵なりぃ」と、風使いはカーラの後ろから攻撃をしているわ。あれで後ろを取ったつもりなのかしら。カーラは探知のために土蜘蛛を使用している。カーラの剣先は風使いの喉元で止まる。風使いの動きも止まる。時魔法を一応準備しておいたけど、大丈夫だった見たいね。あとは炎使い。この子もさっきから攻撃してるけど、全く効いて無いのよね。煙幕を発生させて、攻撃の有無を判らなくさせてはいるけど、そろそろ煙も流れて行くかな。

「土魔法は効かなかったみたいだけど、炎が弱点だったみたいね。この勝負私の勝ちよ」と、炎使いは標的をカーラに変更しようとする。土蜘蛛で捕獲した風使いをカーラは持ち上げて、自分の盾にする。

「え?土使い?あ、えっと・・・わ、わたくしでは分が悪いわ。く、退散」と、炎使いは背を向けて逃げ出した。炎は土に吸収される。一応、それぐらいは分かるのね。

時魔術を使用して動きを止め、土蜘蛛で足を縛る。まだ片足だけ。時を動かす。

私はゆっくりと接近する。相手は片足だけで動けないようだ。へえ、諦めたわけじゃなくて、爆炎を召喚していたのね。なかなかやるじゃない。私はそれをわざと喰らい、全部吸収して・・・あれ?ちょっと間に合わないかも。「あー修理案件だな」と、ラウルの声が脳内に流れる。ちょっと左腕から大火傷しちゃったけど、痛みはラウルが止めてくれているのか、感じない。「何でその状態で動けるのよ」と、炎使いに叫ばれる。「え?そう」と、私は自分の体を見る。マーメイドドレスの上半分が破れてる。「え?いやぁああああ」上半身黒焦げじゃない。どうなってるの?

「近づかないで、バケモノ!」と、炎使いから叫ばれる。

「じゃあ、近づく」と、私は炎使いに抱きついた。炎使いは白目を剥いて気絶した。立ったまま。器用な人ね。それにしてもどうして平気なのかしら。それに少しずつ治っている気がするわ。「修理しているからな」と、ラウルの声が脳内に響く。

修理って、ホントにそうなの。こういう事なの?すごすぎるわ。

うーん、でもこの子たち、住民になるかな。まあ、ちょっとずつ説き伏せていけばいいよね。うん?というか、ラウルの支配の能力があれば・・・あれはどんな人物なら対象になるのかな。「心が認める事が条件だな」と、ラウルの声が脳内に響く。

「じゃあ、それまで説得だね」「姿を見せれば余裕だと思うがな」と、ラウルと会話しているようにも見えるけど、実際は独り言を呟いている、危ない人だ。ほら、ほらほら。カーラが、大丈夫って目で私を見てる。

「ち、違うの、カーラ。決して独り言じゃなくて、ちゃんと念話で話しているのよ」

「何言っているの?念話だなんて、誰と?それこそ妄想でしょ」と、カーラは言ってくる。「だから、もう。違うんだって」と、私はその場で足踏みする。

「疲れているのね。ほら、マリー。乗って」と、カーラは私の前でしゃがみこみ、背中に乗るように言う。「ううう、じゃあありがたく」と、私はおんぶしてもらった。

とりあえず住人は三人増えた。次はどんな住民が来るのかしら。

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