第3話 小笠原兵団(硫黄島)増援と北千島要務飛行
小笠原兵団(硫黄島)増援と北千島要務飛行
硫黄島は、東京から南へ約1,200㎞、小笠原諸島
の中心である父島からでも、南南西へ300㎞離れた
絶海の孤島で、戦前は硫黄採掘とサトウキビ栽培が
行われていたところ、その地理的重要性に着目した
海軍が飛行場を建設し、陸軍も併せて飛行隊と守備
隊を配置していた。
1944年7月、日本はサイパン、グアム、テニアン
といったマリアナ諸島を米軍に奪取され、米軍はこ
れらの島々に日本本土空襲を行うB29爆撃機の基地
を建設した。
日本陸海軍は、硫黄島を中継飛行場としてこれら
の米軍基地を散発的なゲリラ空襲をするなどしたこ
とから、米軍にとってこの島は目障りな存在となっ
ていた。
逆に米軍は、硫黄島が、日本本土空襲に参加した
B29爆撃機の中間着陸場として、また、B29を護衛
する戦闘機の発着基地として適していることに注目
し、攻略を進めることとしたのである。
要するに、日米両軍共に、硫黄島の飛行場として
の価値に注目したことになる。
日本陸軍は、小笠原諸島防衛のため、大本営直属
として小笠原兵団を編成し(兵団長栗林忠道中将、
第109師団長兼務)、同師団の部隊を隷下に、第27航
空戦隊以下の海軍部隊も指揮下に置いて、逐次増援
部隊を派遣していた。
しかし、米軍潜水艦による攻撃に加え、空母艦載
機や果ては水上艦艇の攻撃を受けるようになり、ま
とまった船団での行動が危険になったため、父島、
硫黄島方面へは、小規模な船団による散発的な補給
輸送を余儀なくされていた。
硫黄島補給輸送隊
1 先発船団
第4海上護衛隊分派(父島二見湾に集結)
(1)※丙型海防艦 第83号
(2)第百一型二等輸送艦 第九十九号
2 乗艦部隊等
(1)三式中戦車 ×3輌
(2)九七式中戦車(旧砲塔)×3輌
(3)九五式軽戦車 ×3輌
(4)九七式自動貨車 ×2輌→車輛兵30人
輸送艦は、ほぼ戦車3個小隊と
各艦艇に分乗した歩兵1個小隊を硫黄島で陸揚げ
し、入れ替わりに傷病兵を引き取り本土へ連れ帰
る予定であった。
3 後発船団
第4海上護衛隊分派(父島向け航行中)
(1)第28号型駆潜艇 第59号
(2)聯合艦隊直轄 間宮型給糧艦 浦賀
(九四式水上偵察機、零式水上観測機各1機
搬送)
間宮型給糧艦は、ネームシップの「間宮」を
はじめ、海軍将兵の超人気艦で、万一、喪失
することがあれば、全軍の士気に関わると言
われていた。
本艦型は、1万8千人の3週間分の食糧補給が
可能であり、様々な専門の職人が乗り組んでい
て、アイスクリーム、ラムネ、最中、饅頭、羊羹
などの嗜好品の ほか、
麩など、日本の食卓に 欠かせない食品の製造も
可能であった。
その製造能力は、1日当たり食パン1t、羊羹
1万2千本、ラムネ1万5千本、饅頭4万個と凄
まじく、しかも、アイスクリームは銀座のパーラ
ーに負けず、羊羹は老舗の商品より上等で、贈答
品に使用されるというほどの品質を誇った。
また、医療設備に乏しい小型艦の傷病兵を引き
受けたり、その特性から、艦隊のパーティー会場
として用いられることがあったほか、前線への
水上偵察機の運搬も行った。
ただ、石炭炊きのレシプロエンジンのため速度
が遅く、単独航行することも多かったが、今回
は、第4海上護衛隊から、専属の護衛として駆潜
艇第59号が付けられていた。
4 二見湾停泊
水上機母艦のうち、飛行艇を支援する艦は、
飛行艇母艦とも呼ばれ、遠距離に進出する飛行艇
の修理や補給を行うため建造された。
専用の艦は秋津洲がネームシップであるが、
千早はその2番艦で、秋津洲同様、工作艦
「明石」がパラオ空襲で喪われてから、簡易
な工作艦兼魚雷艇・大型発動艇(通称「大発」
上陸用舟艇のことで、海軍正式名称は「特型
運貨船」。)運搬艦としても活動するように
なっていた。
今回は、父島と母島に配備する魚雷艇2隻を
横須賀から運搬して来たが、敵潜水艦の襲撃を
兄島付近でやり過ごした後、損傷艦艇の修理と、
横浜から飛来する二式大型飛行艇の補給と整備
を行う腹積もりで、今は二見港沖の二見湾内に
停泊し、魚雷艇を降ろしている最中であった。
・艦上偵察機「彩雲」海中極秘輸送
伊号第103潜水艦は、「改甲型」と呼ばれる
タイプで、ゆくゆくは「特型」と呼ばれる伊号
第400型と潜水隊を組織し、水上攻撃機「晴嵐」
を搭載して、パナマ運河などの重要目標を攻撃
する予定であった。
しかし、伊号第400型がまだ揃わず、さらに
は搭載予定の「晴嵐」も試験段階であり、今回
は特別に高速の艦上偵察機「彩雲」2機とその
搭乗員、整備員(第131海軍航空隊)を、トラック
島以遠の偵察を実施するため、同島へ隠密輸送
する任務を帯び、父島東方付近を航行中で
あった。
・北方飛行陸海軍機
令川丸以下の、千島方面根拠地隊北東方面艦隊
が航行中の千島列島上空を、7機の陸海軍機が
飛行せんとしていた。
元々は、バラバラの出発地から、幌筵島か占守
島へ向かうはずであったが、道東から千島列島
方面へかけての天候が不良で、いったん帯広の
陸軍飛行場で着陸待機となったため、
優れる海軍の一式陸上攻撃機が全機を誘導する
こととなった。
これらの機種や目的は、次のような内容で
あった。
(1)第701海軍航空隊 一式陸上攻撃機×1機
三沢飛行場から幌筵島海軍基地への要務
飛行中。
(2)陸軍飛行第53戦隊二式複座戦闘機屠龍×2機
千葉県松戸にて帝都防空の任に当たってい
る陸軍飛行第53戦隊の屠龍2機は、千島列島
北辺の占守島防備強化目的で移動中。
(3)陸軍飛行第54戦隊 隼Ⅱ型× 2機
北海道帯広の同54戦隊所属の一式戦闘機
隼Ⅱ型2機も、千島北辺の占守防備強化名目
で移動予定。
(4)陸軍飛行第62戦隊四式重爆撃機飛龍× 1機
帯広の重爆隊所属機として、54戦隊の隼に
同行。
(5)陸軍飛行第38独立中隊
百式司令部偵察機Ⅲ型甲×1機
連絡飛行のため、札幌から占守島を目指す
途上。
・二式大型飛行艇連絡飛行
小笠原兵団には、市丸少将指揮の海軍第27航空
戦隊も、指揮下に入っていた。
横浜市磯子の第801海軍航空隊所属の二式大型
飛行艇は、長距離哨戒のほか、島嶼間や南方要所
との連絡任務にも当たっており、この日も1機が
父島への要務飛行のため飛来し、間もなく父島の
二見湾へ到着する頃合いであった。
これらの艦艇・航空機群も、数奇な運命に巻き込
まれて行く。
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