閑話2 彼女の気持ち ※視点が違います
「お前は今日限りでクビだ、アストレア。理由は言わなくても分かるよな」
ダンジョン探索終わりそんなことをいきなり彼は言い出した。
「え……。私が、クビ?」
「そうだ。クビだ。それじゃあな。今までありがとさん」
「ま、待ってくだ…あっ……」
去っていく野郎を追いかけようとしたが、足がもつれてそのまま前に倒れてしまった。そんな私を見ることもせずにどこかに消えていってしまった。
心の中でごめんなさいと謝っていると
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございま……」
そんな声をかけられ、涙を堪えながら顔を向けるとそこにはこの前の彼の姿があった。不思議と彼とは縁がある。
「また、君。恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
そう言って私は目を拭った。
「でも、心配いりませんよ。私は大丈夫です」
そして心配を掛けないよう、強がって見せた。
涙が、気持ちがバレないように、すぐに立ち去ろうとすると「待って」と私の腕を掴み引き止める。
「僕、冒険者になったばかりでまだ右も左も分かんないんだ。今日だって、ゴブリンを倒すのでさえギリギリだったんだ。だから、君がもし良かったら僕と一緒に来てくれない?Sランク冒険者のパーティーなら心強いよ。」
どうやってずらかるか。彼が話している間そんなことを考えていると、彼の口から聞き捨てならないことが聞こえた。
「あ~、自己紹介まだだった。僕はタケルっていうんだ」
その名前を聞いた瞬間、私は運命だと思った。だから
「……いいですよ。でも、今私を誘ったからには最後まで責任とってもらいますからね」
「う、うん」
「私はアストレア。よろしく」
そう言って握手を交わした。
♦♦♦♦♦
「――奥、行けるか?」
「は、はい」
緊張が心拍数を上げる中、体をぎこちなく使ってベッドの奥に移動する。
その空いたスペースにタケルが入って来る。
「本当にいいのか?別に2部屋借りてもいいんだけど……。それにシングルベッドだし」
「いいです。私は大丈夫ですから。初めはお金も節約しなければいけないし、それにタケルも何もしないでしょ?」
「……そ、そうだね」
そんな風に言っている私だが内心どうなってしまうのかとドキドキである。
もしかしてもしかしちゃうかもと私が妄想に妄想を膨らませることなど露知らず、タケルは黙ったままである。
「じゃあ、おやすみ」
「お、おやすみなさい」
タケルにそう言って、私に背中を向ける。
何もされないのだろうか。
男女が同じベッドにいれば何かがあるのが世の定め。
だが、そんな気配何も感じない。
『お前みたいななぁ、一人で中ボスも倒せねえような雑魚はこのパーティーにはいらねえんだよ!』
また嫌なことを思い出してしまった。
それをトリガーに私はタケルに私のことを話しておこうと思った。
「……タケル、まだ起きてる?」
「起きてるよ。どうした?眠れないか?」
「いや、その……タケルには、私の事話しとこうと思って。なんで私がサモンズのパーティーいて、それでなんで追放されたのか」
「うん」
「私ね、自分で言うのもなんだけどステータスは普通よりも高いし冒険者には向いてると思うの。でも、1つだけ。その1つの理由で周りには冒険者にはなれないって言われるんだ」
「理由?」
「私ね……病気なの。心臓がみんなより少し弱いんだって。だから、すぐに息切れとかしちゃうからダンジョンに潜るのも1日の限界が決められてるの。そのせいで、せっかくステータスのおかげでパーティーに入れてもすぐにこうして首にされちゃうんだ」
自分で話しながら自分のことが可哀そうになって来る。
「その病気、治せないの?」
「……治らないんだって」
「そっか」
話し終わった後、気まずい空気がこのベッドの上に流れてしまう。
出会ったばっかりでやっぱりこんなに重たい話をするんじゃなかったと後悔しているとタケルが「アストレア、ちょっとこっち向いてくれる?」と口を開いた。
私はその呼び掛けに素直にこっちに体を向け、ベッドの上で向かい合う形になる。
そして何もするでもなくタケルはただ、私の眼を見つめて来るだけだった。
「ちょ、ちょっと何?!」
こんな話の後にするのかと少し動揺してしまう。
が、これも私が選んだ運命だと受け入れるため、私はタケルの眼を見続ける。
するとタケルは私の肩に手を置き、「アストレア」と名前を呼ぶ。
キス。
私はおもむろに目をつぶった。
が、私の唇にはいつまでも何かが当たる感覚は無い。
そして、聞こえて来たのは予想だにしていない言葉だった。
「アストレアの病気、治るよ!」
「へっ!?」
「だから病気が治るんだって!」
私が聞き取れなかったと思ったのかタケルは二度同じ言葉を繰り返す。
その言葉を聞き、私は頭をフルで回転させる。
キスじゃなかった。
間違えた。
病気が治る・・・・
病気が治る!?
「本当?!」
私は思わず勢いよく尋ねてしまった。
「うん。本当だよ!」
「でも、どうして分かるの?それに、どうやって?私治らないって言われたんだよ?」
「特別なアイテムがいるけど、それがあれば治るよ。だから、強くなって治そ!僕も一緒に頑張るから、ね?」
その優しそうな笑顔に私の心臓は一度強く拍動した。
それは病気が見つかった嬉しさか、彼の優しさに触れたからか、それとも……。
「うん!」
私はタケルに元気よく返事をしてその夜は何事もなく眠りについたのだった。
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読んでいだだきありがとうございます!
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