第7話 人助けをしようとす

「お前は今日限りでクビだ、アストレア。理由は言わなくても分かるよな」


ダンジョンイーストを出ると直ぐにそんな会話が聞こえてきて僕は足を止めた。


「え……。私が、クビ?」


そこにはいつぞやのSランク冒険者のサモンズ含むパーティーが何やら言い争っているようだった。

クビを宣告されたのはこれまたこの前サモンズに突き飛ばされた少女アストレアだった。


「そうだ。クビだ。それじゃあな。今までありがとさん」

「ま、待ってくだ…あっ……」


去っていくサモンズを追いかけようとしたアストレアだったが、足がもつれてそのまま前に倒れてしまった。

それをサモンズ含め仲間たちも見ることもせずにどこかに消えていってしまった。


僕もいても立ってもいられず、直ぐにアストレアの元へ近づき声をかける。


「大丈夫?」

「あ、ありがとうございま……。また、君。恥ずかしいところを見られてしまいましたね」


そう言って僕とあった今にも涙がこぼれそうな程いっぱいの目を拭った。


「でも、心配いりませんよ。私は大丈夫です」


立ち上がり、笑顔で彼女はそう言ったが、僕にはそれが嘘であり空元気だと分かった。女の子の大丈夫は大丈夫じゃないと相場が決まっているのだ。


「待って」


僕は彼女の腕を掴み引き止める。


「僕、冒険者になったばかりでまだ右も左も分かんないんだ。今日だって、ゴブリンを倒すのでさえギリギリだったんだ。だから、君がもし良かったら僕と一緒に来てくれない?Sランク冒険者のパーティーなら心強いよ。」

(タケル様、嘘は良くないですよ。ゴブリンなんてコテンパンだったじゃないですか)

(ケイ、雰囲気が台無しだよ。それに嘘をついているのは彼女も同じだろう)

「あ~、自己紹介まだだった。僕はタケルっていうんだ。」


その名前を聞いた瞬間、彼女の表情が変わった。そして


「……いいですよ」


僕らの脳内の争いを知らない彼女は僕のことも疑いもせず快くOKしてきた。


「でも、今私を誘ったからには最後まで責任とってもらいますからね」

「う、うん」

「私はアストレア。よろしく」


僕らは握手を交わした。


その後は、錆びた鉄の塊をギルドに買い取ってもらい、昨日泊まった宿屋に帰った。



♦♦♦♦♦



「――奥、行けるか?」

「は、はい」


体をぎこちなく使ってベッドの奥に移動するアストレアと一緒に、僕は枕を彼女の方へ移動させながら布団の中に入る。


「本当にいいのか?別に2部屋借りてもいいんだけど……。それにシングルベッドだし」

「いいです。私は大丈夫ですから。初めはお金も節約しなければいけないし、それにタケルも何もしないでしょ?」

「……そ、そうだね」


僕は言いながら、枕に頭を預けた。

許してほしい。流れでこうなってしまったのだ。

シングルベッドなため二人で寝られるは寝られる大きさではあるのだが、それでも寝返りを打つのは少々難しい。

それに前の世界でも女の子と一緒のベッドに寝たことなんて1回もない。

そこまで寝相が悪いわけではないと思うから大丈夫だと信じたいが、もし寝相でアストレアに迷惑がかかったらどうしようか。


(よし、ここまで考えられる余裕は出来た)

(タケル様、襲ってしまえばどうでしょう?)

「っちょ、おまっ」


そんなケイの提案に僕は思わず、大きな声を出してしまい、さっきまで静かだった部屋に響き渡る。


(何言ってんだケイ!)

(そうでしょう?初めて会う男と女が1つ屋根のしたで過ごすわけないでしょう?向こうも覚悟の上ですよ)

(そんな事するわけないだろ!1回黙ってろ!)


折角考えまいとしていたのに、ケイが余計なことを言ってくるからまた余裕がなくなってしまう。

これは、早く寝てしまうのが得策だ。

寝相で迷惑がかかったときは、その時で考えよう。


「じゃあ、おやすみ」

「お、おやすみなさい」


俺はアストレアにそう言って、背中を向ける。

目を閉じて、必死に睡魔を探すが…どこにも見当たらない。

というよりも、眠気はあるのだが女の子が後ろで寝ているということを意識しすぎて眠れないのだ。

寝よう寝ようと思いながら目を瞑るが、一向に意識が落ちる気配を感じられない。

一体、どうすれば……。


「……タケル、まだ起きてる?」


そんな葛藤をしていると、後ろからアストレアの声が聞こえた。


「起きてるよ。どうした?眠れないか?」

「いや、その……タケルには、私の事話しとこうと思って。なんで私がサモンズのパーティーいて、それでなんで追放されたのか」

「うん」


僕は今まで触れては行けないと思って触れはしなかったものの、とても気になっていたのは事実。

僕はアストレアの次の言葉を天井を眺めながら待つ。


「私ね、自分で言うのもなんだけどステータスは普通よりも高いし冒険者には向いてると思うの。でも、1つだけ。その1つの理由で周りには冒険者にはなれないって言われるんだ」

「理由?」

「私ね……病気なの。心臓がみんなより少し弱いんだって。だから、すぐに息切れとかしちゃうからダンジョンに潜るのも1日の限界が決められてるの。そのせいで、せっかくステータスのおかげでパーティーに入れてもすぐにこうして首にされちゃうんだ」


そう言うアストレアの顔は見えないが、その声色からその表情は簡単に想像がつく。


「その病気、治せないの?」

「……治らないんだって」

「そっか」


魔法が存在する世界にも治せないものはあるんだなと僕が思っていると、ケイが話しかけてくる。


(タケル様のか思っているように、この世界では治療が困難なものはあっても、できないものはありません)

(そうなのか?じゃあ、アストレアの病気も治せるのか?)

(はい。彼女の病気を鑑定したいので、目を合わせて貰えますか?)

(分かった。目を見ればいいんだね)


僕はそう言われて、体をアストレアの方に向け彼女に呼びかける。


「アストレア、ちょっとこっち向いてくれる?」

「うん?これでいい?」


僕の呼び掛けに素直にこっちに体を向けるアストレア。

僕らはベッドの上で向かい合う形になる。

そしてケイに言われた通り、アストレアの目をじっと見つめる。


「ちょ、ちょっと何?!」


動揺しているアストレアを放って僕は黙って目を合わせ続ける。

アストレアも慣れてきたのか、少し顔を赤らめながらも黙って僕の目を見てくる。


(鑑定終了しました)

(どーだった?)

(治療に必要な素材が入手困難なもので治らないと言われてもおかしくない病気ですが、やはり、治らない訳ではありません)

(本当!?)

(はい。治療自体は魔法が使えればどなたでも行えると思われます)


僕は興奮冷めやらぬまま、その事実をアストレアに伝えるべく彼女の肩に手を置き、「アストレア」と名前を呼ぶ。

すると彼女はおもむろに目をつぶった。


「アストレアの病気、治るよ!」

「へっ!?」

「だから病気が治るんだって!」


その言葉を聞き、一瞬アストレアは喜ぶでもなく、何故かどこか不思議そうな様子を見せたが次の瞬間には「本当?!」と驚きの顔に変わった。


「うん。本当だよ!」

「でも、どうして分かるの?それに、どうやって?私治らないって言われたんだよ?」


アストレアのその言葉に、僕もどうやって治療するのかを聞いていなかったなと思い、ケイに聞いてみる。


(なぁ、ケイ。ちなみにさっき言ってた、入手困難な素材って何?)

(それはですね……八尺瓊勾玉。)

(勾玉?)



(ダンジョンイースト制覇の際に貰える神器の一つです)




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